天井裏の囁き姫

葉羽

文字の大きさ
上 下
4 / 7
3章

時を超えた工作

しおりを挟む
月明かりが、図書館の古い資料に冷たい光を投げかけていた。
葉羽は、机に広げられた複数の資料を見比べながら、ある事実に辿り着いていた。
「やはり...」
彼は声を潜めて呟く。
「全ての事件は、満月の夜に起きている」
手元の記録。
40年前の望月啓介の死。
今回の五十嵐先生の事故。
そして、百年前に起きた最初の失踪事件。
全て、満月の夜だった。
「葉羽くん、これ見て」
彩由美が古びた一冊の本を持ってきた。
『明治期の機巧師たち』
ページを開くと、一枚の写真が目に飛び込んでくる。
明治時代の機巧師・霧島蓮の肖像写真。
「この人...」
葉羽の声が震えた。
「理事長先生にそっくりだ」
写真の人物は、確かに望月薫子理事長と瓜二つ。
しかも驚くべきことに、この写真は明治30年代のものだという。
「ねぇ、葉羽くん」
彩由美が不安そうな表情で言う。
「私、理事長先生の書斎で見つけたものがあるの」
彼女がカバンから取り出したのは、古い設計図。
「これ、天井裏の機構の図面みたい」
葉羽は図面に目を通す。
複雑な歯車機構。
光を集める装置。
そして...魂を抽出する儀式の手順。
「これは...」
その時、図書館の電気が突然消えた。
月明かりだけが、二人を照らしている。
「誰かいるの?」
彩由美の声が震える。
カタン、カタン...
天井から、聞き覚えのある機械音。
「逃げるぞ」
葉羽が彩由美の手を取る。
二人は暗い廊下を走った。
しかし、どの角を曲がっても、
あの機械音が追いかけてくる。
「ここだ」
葉羽は音楽室のドアを開けた。
五十嵐先生が亡くなった場所。
そして望月啓介が死んだ場所。
月明かりが、グランドピアノを銀色に染めている。
「葉羽くん、私...」
彩由美が何かを言いかけた時、
天井から白い影が降りてきた。
長い黒髪の少女。
百年前の制服を着ている。
「見つけてくれて、ありがとう」
少女は微笑んだ。
その顔は、若かりし日の理事長そのものだった。
「あなたは...」
葉羽が声を絞り出す。
「私は、霧島蓮の娘」
少女は悲しそうに言った。
「そして、最初の実験体」
突然、彩由美が崩れ落ちる。
「彩由美!」
少女が彩由美に近づく。
「あなたも、私たちの血を引いているのね」
「血を...?」
葉羽は混乱する。
しかし次の瞬間、全てを理解した。
「永遠の命...」
彼は呟いた。
「理事長は、霧島蓮その人なんだ」
少女は静かに頷いた。
「父は、百年以上も前から...」
その時、音楽室のドアが開いた。
理事長・望月薫子が立っていた。
いや、霧島蓮が。
「よく解読したわね」
彼女の声が、部屋中に響く。
「でも、ここまでよ」
天井の機構が唸りを上げ始めた。
満月の光が、特殊な装置を通して増幅される。
「さあ、彩由美」
理事長が手を差し伸べる。
「あなたの魂で、私の永遠の命は完成する」
葉羽は彩由美を抱きしめた。
「させません」
「邪魔しないで」
理事長の声が歪む。
「私は、永遠に生き続けなければならないの」
その瞬間、彩由美の体が光り始めた。
「葉羽くん...私...」
意識を失う彩由美。
葉羽は叫ぶ。
「彩由美!」
しかし彼女の体は、すでに透明になりつつあった。
魂が抜き取られていく——
「これで...」
理事長が微笑む。
だが、葉羽は気づいていた。
天井の機構の弱点に。
そして、満月の光の本当の意味に。
彼は、決断を下した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

令嬢の名門女学校で、パンツを初めて履くことになりました

フルーツパフェ
大衆娯楽
 とある事件を受けて、財閥のご令嬢が数多く通う女学校で校則が改訂された。  曰く、全校生徒はパンツを履くこと。  生徒の安全を確保するための善意で制定されたこの校則だが、学校側の意図に反して事態は思わぬ方向に?  史実上の事件を元に描かれた近代歴史小説。

意味がわかるとえろい話

山本みんみ
ホラー
意味が分かれば下ネタに感じるかもしれない話です(意味深)

6年生になっても

ryo
大衆娯楽
おもらしが治らない女の子が集団生活に苦戦するお話です。

マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子

ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。 Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。

四次元残響の檻(おり)

葉羽
ミステリー
音響学の権威である変わり者の学者、阿座河燐太郎(あざかわ りんたろう)博士が、古びた洋館を改装した音響研究所の地下実験室で謎の死を遂げた。密室状態の実験室から博士の身体は消失し、物証は一切残されていない。警察は超常現象として捜査を打ち切ろうとするが、事件の報を聞きつけた神藤葉羽は、そこに論理的なトリックが隠されていると確信する。葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に、奇妙な音響装置が残された地下実験室を訪れる。そこで葉羽は、博士が四次元空間と共鳴現象を利用した前代未聞の殺人トリックを仕掛けた可能性に気づく。しかし、謎を解き明かそうとする葉羽と彩由美の周囲で、不可解な現象が次々と発生し、二人は見えない恐怖に追い詰められていく。四次元残響が引き起こす恐怖と、天才高校生・葉羽の推理が交錯する中、事件は想像を絶する結末へと向かっていく。

ピエロの嘲笑が消えない

葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。

好きになっちゃったね。

青宮あんず
大衆娯楽
ドラッグストアで働く女の子と、よくおむつを買いに来るオシャレなお姉さんの百合小説。 一ノ瀬水葉 おねしょ癖がある。 おむつを買うのが恥ずかしかったが、京華の対応が優しくて買いやすかったので京華がレジにいる時にしか買わなくなった。 ピアスがたくさんついていたり、目付きが悪く近寄りがたそうだが実際は優しく小心者。かなりネガティブ。 羽月京華 おむつが好き。特に履いてる可愛い人を見るのが。 おむつを買う人が眺めたくてドラッグストアで働き始めた。 見た目は優しげで純粋そうだが中身は変態。 私が百合を書くのはこれで最初で最後になります。 自分のpixivから少しですが加筆して再掲。

処理中です...