仮題「難解な推理小説」

葉羽

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11章

葉羽の推理開始

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第11章: 葉羽の推理開始

リビングに戻った葉羽と彩由美は、参加者たちの不安に満ちた視線を受けた。豪邸の中で起きた奇妙な出来事、鳴海の死、そして暗号の謎。皆がそれぞれ何かを考えている様子だったが、共通して抱えているのは「自分が疑われているかもしれない」という恐怖だった。

「どうやら全員、少しずつ疲れ始めているようだな……」

葉羽は一度深呼吸をしてから、参加者たちを見渡し、静かに言葉を発した。

「皆さん、少しお時間をいただけますか。今まで集めた手掛かりをもとに、事件の全貌を整理したいと思います」

その言葉に全員が注目する。葉羽の冷静な態度が、彼らの不安な心を少し落ち着かせたのか、誰も反論することなく彼の言葉に耳を傾けた。

---

「まず、鳴海さんの死についてです。彼が死ぬ前、いくつかの重要な手掛かりがありました。まず、鳴海さんはシャンパンを飲んで倒れましたが、その際、手元が乱れていたという証言がいくつかありましたね」

葉羽は芦原美鈴に視線を向けた。彼女は冷静にうなずき、証言を認めた。

「ええ、確かにグラスをしっかり持てていなかったわ」

「それがポイントです。鳴海さんはシャンパンを飲んでいたが、それに毒物が入っていた可能性がある。毒の影響で手元が不安定になり、その後に倒れたんです」

「じゃあ、やっぱり鳴海さんは毒で……?」と藤田茉莉が恐る恐る尋ねた。

「その可能性が高いです。ただし、問題はその毒を誰が仕込んだか、そしてどのタイミングで仕込んだのかということです」

葉羽はシャンパングラスに目を向け、指で軽く叩いて音を確かめた。

「鳴海さんが飲んだシャンパンは、全員が同じように飲んでいました。でも、彼だけが倒れた。つまり、鳴海さんのグラスにだけ何かが加えられたんです」

その言葉に全員がざわめく。葉羽は続けて、彼らの視線を一つに集めるため、手を軽く上げて静かにさせた。

「ここで重要なのは、毒を入れるためのタイミングです。皆さんが証言した通り、リビングで皆がシャンパンを楽しんでいたその間に、誰かが巧妙に鳴海さんのグラスに毒を仕込んだんです」

「でも、それじゃ犯人は誰か?」と赤城玲司が苛立ち混じりに声を上げた。

「それを明らかにするために、もう一つの手掛かりを見ましょう」

そう言うと、葉羽は机の上に、彩由美から預かった鍵と鳴海のポケットに入っていたメモを置いた。

「このメモと鍵は、鳴海さんが何か大きな秘密を守っていた証拠です。先ほど彩由美と私は、屋敷の隠し部屋を見つけました。その部屋にあったのは、鳴海さんが命をかけて守ろうとしていた『秘密の契約書』です」

葉羽は契約書を取り出し、全員に見せた。重々しい空気がリビングを包み込む。

「この契約書は、ある企業と政治家の間で交わされた違法な取引を示しています。鳴海さんはこれを隠していた。だが、誰かがこの証拠を手に入れようとし、彼を殺したんです」

その言葉に全員が固唾を飲んだ。渡辺聡が手を上げ、質問した。

「それで……その犯人は、誰なんだ?」

葉羽は一瞬、全員を見渡し、静かに答えた。

「犯人は、最初からこの契約書の存在を知っていた者です。そして、鳴海さんがそれを隠していることにも気付いていた」

全員の視線が葉羽に注がれる。彼の次の言葉が、事件の解決に向けた決定打となることは明らかだった。

---

「その人物は……芦原美鈴さん、あなたです」

部屋の中に張り詰めた沈黙が広がる。全員が一斉に芦原の方を振り返った。彼女は一瞬驚いたように見えたが、すぐに冷静さを取り戻し、軽く笑った。

「私が犯人? 面白いわね。でも、証拠は?」

「証拠は、あなたの証言そのものです。あなたは最初に鳴海さんのグラスが不安定だったと証言しましたね。あなたはその動きを注意深く見ていたと言いましたが、実はあなたが毒を入れるタイミングをうかがっていたからこそ、彼の動きに気付けたんです」

葉羽の言葉に、芦原の笑みが少し硬くなった。だが、彼はさらに続けた。

「そして、鳴海さんの秘密を知っていたのは、あなた以外にいません。あなたは投資家として企業と深い繋がりを持っている。その中で、今回の違法な取引に関わる企業とも接触していたはずです。鳴海さんがその秘密を握っていることを知り、彼を殺してでも証拠を手に入れたかった」

「それだけじゃ、決定的な証拠にならないわ」

芦原は冷静さを保とうとしながら反論した。しかし、葉羽は動じなかった。

「確かに、今の段階では動機だけです。でも、もう一つの決定的な証拠があります。鳴海さんが倒れる直前に、彼のポケットに手をやっていたという証言がありましたね」

葉羽は渡辺聡の方に視線を向けた。渡辺は緊張しながらも、頷いて証言を確認した。

「その時、鳴海さんはおそらく、この契約書が隠された場所を守ろうとしていた。あなたが彼のグラスに毒を仕込んだ後、鳴海さんはこの契約書を守るために必死だった。だからこそ、ポケットに手をやっていたんです」

「……そう、だったのね」

芦原の顔に、ついに微妙な変化が現れた。その表情には、葉羽の推理が核心を突いていることを示す緊張感がにじみ出ていた。

「そして最後に、毒を使った方法についてですが、私はこの屋敷にある時計のズレがあなたの仕掛けたトリックだと気付きました。時計のズレを利用し、犯行時間を曖昧にさせることで、自分のアリバイを成立させようとしたんです。ですが、時計の順番に隠されたズレは、むしろあなたが犯行を行った証拠になっています」

「……もう言い逃れはできないわね」

芦原美鈴はゆっくりと立ち上がり、薄く笑った。

「さすがね、神藤君。よくここまで辿り着いたわ。でも、私がこの程度のことですべてを諦めると思う?」

彼女の目は、今までの冷静さを失い、何か狂気じみた光を宿していた。しかし、葉羽は一歩も引かず、彼女を見据えて言った。

「証拠は揃っています。もう終わりです、芦原さん」

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