月明かりの儀式

葉羽

文字の大きさ
上 下
5 / 10
5章

幻影の登場

しおりを挟む
葉羽と彩由美は、月明かりの間で不気味な幻影の声を聞いた後、心がざわめくのを感じていた。葉羽は、今目の前にあるこの現象が、過去の記憶や悲劇と深く結びついていることを理解し始めていた。

「助けて…私を解放して…」再び響いたその声は、まるでこの洋館にいる誰かが彼らに訴えかけているかのようだった。葉羽はその声に引き込まれるように、鏡の前に立ち尽くしていた。

「この声、誰のものなんだろう…?」彩由美が不安そうに尋ねる。彼女の目には、恐怖と興味が交錯していた。

「分からないけど、何か大切なことが隠されているはずだ。」葉羽は深呼吸をし、心を落ち着けるようにした。彼はこの幻影が、過去の住人たちの悲劇を伝えようとしているのではないかと考えていた。

「私たち、何かを知る必要があるんだ…」葉羽は決意を固め、鏡の中の影に向かって再び問いかけた。「あなたは誰なの?何があったの?」

その瞬間、鏡の中で影が揺れ動き、次第に一人の女性の姿が浮かび上がってきた。彼女は白いドレスを着ており、長い黒髪が月明かりに照らされて光っている。だが、その顔には悲しみが漂い、どこか不安定な印象を与えていた。

「私は…この家に住んでいた者。名はエミリア。」影の女性が口を開いた。彼女の声はかすれ気味で、まるで遠い過去からの呼びかけのようだった。

「エミリア…あなたがこの家の住人なの?」葉羽は驚きつつも、彼女の言葉に耳を傾けた。彩由美も目を輝かせながら、その様子を見守っていた。

「私たちは、家族のために儀式を行っていた。しかし、その儀式は狂気に満ち、私たちは呪われてしまった。」エミリアの言葉は、徐々に悲痛な響きを帯びていった。

「呪い…?」葉羽はその言葉に引っかかりを覚えた。「何が起こったの?どうすれば解放されるの?」

「月明かりの間で行われる儀式が、私たちの運命を決定づけた。年に一度、満月の夜に…私たちはこの家に縛られ、助けを求め続けている。」エミリアの目が悲しみに満ちていた。彼女の姿は次第に薄れていき、鏡の中の映像が揺らぐ。

「私を解放して…私たちを助けて…」エミリアの声が響く。葉羽はその言葉に心を打たれ、何とか彼女を救いたいという思いが芽生えた。

「エミリア、どうすればあなたたちを助けることができるの?」葉羽は必死に問いかけた。彼女の存在が、彼の心に深く刻まれていた。

エミリアは一瞬静まり、次に口を開いた。「儀式を再現し、真実を暴かなければならない。過去の罪を償うことで、私たちは解放される。だが、注意しなさい…時間の流れが歪む中で、真実を見つけることは容易ではない。」

その瞬間、部屋の空気が急に変わり、冷たい風が吹き抜けた。葉羽は思わず背筋を伸ばし、彩由美も彼の腕を掴んだ。

「私たちを解放するためには、儀式を行わなければならないのね…」彩由美が震える声で言った。葉羽は深く頷き、決意を新たにした。

「エミリア、儀式はどこで行われるの?」彼は再び問いかけたが、エミリアの姿は次第に薄れていく。彼女の影は、まるで月明かりに溶け込むように消え、ただ静かな声だけが残った。

「月明かりの間で…真実を見つけて…」

葉羽はその言葉を胸に刻み、エミリアの姿が完全に消え去るのを見守った。部屋の中には静寂が訪れ、ただ時計の針の音が響いている。

「私たち、儀式を行う必要があるんだね…」葉羽は言った。彩由美は不安そうな表情を浮かべているが、彼の目を見つめて頷いた。

「でも、どうやって儀式を再現すればいいの?」彩由美が尋ねる。

「さっきの書類に何か手がかりがあるかもしれない。」葉羽は時計台の周りを見回し、古い書物を探し始めた。彼は過去の住人たちが行った儀式の詳細を知りたいと思った。

「私も手伝う!」彩由美が前向きに言い、二人は部屋中を探し回った。古い書物や日記をめくり、必死に手がかりを探し続けた。

その時、ふと目に留まったのは、時計台の隣に置かれた一冊の古い日記だった。ページをめくると、儀式の詳細が記されている部分があった。

「ここだ…これが儀式の手順だ!」葉羽は興奮しながら言った。その内容を読み上げると、儀式には特定の時間に行う必要があり、特定の言葉を唱えなければならないと書かれていた。

「葉羽くん、これを実行すれば、エミリアたちを助けられるかもしれない!」彩由美が目を輝かせて言った。

「うん、でも…時間が迫っているかもしれない。急がないと!」葉羽は時計を見上げ、針が満月の位置に近づいていることに気づいた。

二人は急いで準備を整え、儀式を行う場所を決めた。月明かりの間の中心に戻り、儀式を執り行う準備を始める。果たして、彼らはこの儀式を成功させることができるのか。そして、エミリアたちを解放することができるのか。

不安と期待が交錯する中、葉羽と彩由美は、過去の悲劇を乗り越え、真実に迫るための一歩を踏み出した。彼らの冒険は、さらに深い謎へと導かれていくのだった。 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

無限の迷路

葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

推理の果てに咲く恋

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽が、日々の退屈な学校生活の中で唯一の楽しみである推理小説に没頭する様子を描く。ある日、彼の鋭い観察眼が、学校内で起こった些細な出来事に異変を感じ取る。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

友よ、お前は何故死んだのか?

河内三比呂
ミステリー
「僕は、近いうちに死ぬかもしれない」 幼い頃からの悪友であり親友である久川洋壱(くがわよういち)から突如告げられた不穏な言葉に、私立探偵を営む進藤識(しんどうしき)は困惑し嫌な予感を覚えつつもつい流してしまう。 だが……しばらく経った頃、仕事終わりの識のもとへ連絡が入る。 それは洋壱の死の報せであった。 朝倉康平(あさくらこうへい)刑事から事情を訊かれた識はそこで洋壱の死が不可解である事、そして自分宛の手紙が発見された事を伝えられる。 悲しみの最中、朝倉から提案をされる。 ──それは、捜査協力の要請。 ただの民間人である自分に何ができるのか?悩みながらも承諾した識は、朝倉とともに洋壱の死の真相を探る事になる。 ──果たして、洋壱の死の真相とは一体……?

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

神北高校事件ファイル2 大返しの現場不在証明

ずんずん
ミステリー
岡山県への取材旅行中、歴史部部長豊田楓は山中で様子のおかしい不倫カップルを目撃するが……。

旧校舎のフーディーニ

澤田慎梧
ミステリー
【「死体の写った写真」から始まる、人の死なないミステリー】 時は1993年。神奈川県立「比企谷(ひきがやつ)高校」一年生の藤本は、担任教師からクラス内で起こった盗難事件の解決を命じられてしまう。 困り果てた彼が頼ったのは、知る人ぞ知る「名探偵」である、奇術部の真白部長だった。 けれども、奇術部部室を訪ねてみると、そこには美少女の死体が転がっていて――。 奇術師にして名探偵、真白部長が学校の些細な謎や心霊現象を鮮やかに解決。 「タネも仕掛けもございます」 ★毎週月水金の12時くらいに更新予定 ※本作品は連作短編です。出来るだけ話数通りにお読みいただけると幸いです。 ※本作品はフィクションです。実在の人物・団体・事件とは一切関係ありません。 ※本作品の主な舞台は1993年(平成五年)ですが、当時の知識が無くてもお楽しみいただけます。 ※本作品はカクヨム様にて連載していたものを加筆修正したものとなります。

処理中です...