月明かりの儀式

1章

謎の洋館

神藤葉羽（しんどう はね）は、豪邸に一人暮らしをしている高校2年生だ。学年トップの成績を誇る彼は、暇さえあれば推理小説に没頭する日々を送っていた。特に、古い名作やミステリーの名著を愛し、紙の本と電子書籍の両方を使いこなしている。そんな彼の日常は、ある夏の夜に一変した。

その日、葉羽は自宅の書斎で推理小説を読み漁っていた。外は蒸し暑い夜で、窓からはほのかな風が吹き込んでくる。彼はページをめくりながら、ふと視線を外に向けた。月明かりに照らされた庭には、影が一つ、ゆらゆらと揺れている。気のせいかと一瞬思ったが、何かが彼を引き寄せるように感じた。

「何だろう、あの影は…？」

葉羽は立ち上がり、窓を開けた。月光が降り注ぐ中、彼は庭に目を凝らした。すると、影は徐々に形を変え、かすかに人の姿に見える。急に好奇心が湧き上がり、葉羽はその影を追いかけることにした。

「彩由美も、こんな時間にいるのかな…？」

幼馴染の望月彩由美（もちづき あゆみ）の名前が頭をよぎった。彼女は可愛らしい容姿と優しい性格で、彼にとって特別な存在であった。恋愛には奥手な葉羽だが、彩由美に対しては特別な感情を抱いている。彼女のことを考えながら、葉羽は庭を進んでいった。

庭を抜け、隣接する洋館の古びた外観が目に入る。そこはかつて、貴族の一族が住んでいたという噂のある場所だった。家族の悲劇や神秘的な事件が語り継がれており、今では廃墟と化している。葉羽はその洋館の前で立ち止まった。

「やっぱり、何か気になる…」

彼は心の中でつぶやき、一歩を踏み出した。洋館の扉は、さびついていても開かれそうだ。手を伸ばして扉に触れると、驚くほど冷たい感触が伝わってきた。彼はそのまま扉を押し開けた。

中に入ると、薄暗い廊下が広がっていた。埃が舞い上がり、長い年月の静寂が支配する空間。葉羽はその独特の雰囲気に緊張しながらも、好奇心に駆られて進んでいった。壁には古びた肖像画がかかり、かつての住人たちが彼を見つめているように感じる。

「本当に、何かがあるのかもしれない…」

彼は心の中で思いを巡らせながら、さらに奥へと進んだ。すると、ふと、背後で音がした。振り返ると、誰かが立っている。月明かりに照らされたその姿は、まさに幻影のようだった。

「誰…？」

声を発することもできず、葉羽はその場に固まった。相手は、彼の幼馴染、彩由美だった。彼女は驚いた表情で葉羽を見つめている。

「葉羽くん、こんなところで何してるの？」

彼女の声は、静寂を破る清らかな音色だった。葉羽は一瞬、胸が高鳴るのを感じたが、すぐに状況を思い出した。

「彩由美、君もここに…？」

彼は驚きを隠せず、彼女に近づいた。彩由美は、少し不安そうな表情を浮かべている。

「うん、なんか気になって…でも、ここは本当に不気味だね。」

彼は彼女の手を取り、洋館の中を探検することにした。二人で進むにつれ、洋館の異様な雰囲気がますます強まっていく。廊下の奥からは、かすかな声が聞こえてくるような気がした。

「もしかして、誰かいるのかな…？」

葉羽は心の中で不安を感じながらも、探求心が勝っていた。彼は彩由美と共に、さらに奥へと進んでいく。果たして、この洋館には何が待ち受けているのか。二人の冒険が、恐怖と謎に満ちた物語の幕を開けることになるとは、まだ知る由もなかった。