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11章

逆転の兆し

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時間逆行装置が起動し、不気味な音が研究所内に響き渡った。装置の中央にある球体が、眩い光を放ちながら回転し始める。塵芥は、狂喜の表情で装置を見つめていた。

「ついに、神の領域へ……」

葉羽は、床に押さえつけられたまま、必死に抵抗を試みた。しかし、塵芥の力は強く、逃れることはできない。このままでは、塵芥の狂気に満ちた計画が成就してしまう。

絶体絶命の状況の中、葉羽は冷静さを保ち、打開策を模索した。そして、一つの可能性に賭けることにした。

(鏡像体……奴らは、人間の恐怖心に反応する……)

葉羽は、鏡像体との遭遇で得た知識を思い出した。鏡像体は、人間の負の感情、特に恐怖心に強く反応する。ならば、塵芥に最大の恐怖を与えれば、彼の計画を阻止できるかもしれない。

葉羽は、塵芥の顔を見ながら、ゆっくりと口を開いた。

「塵芥、貴様の計画は、既に失敗している」

葉羽の言葉に、塵芥は顔をしかめた。

「何を言っている? 私の計画は完璧だ。貴様には、何も理解できない」

「いや、貴様こそ何も理解していない。貴様が神になろうとしているその時間軸は、既に崩壊している」

葉羽は、自信に満ちた声で言った。

「崩壊? 馬鹿な! この装置を使えば、どんな時間軸でも自在に操ることができる!」

塵芥は、激昂した様子で叫んだ。しかし、彼の声には、わずかな動揺が混じっていた。葉羽の言葉が、彼の心に微かな不安を植え付けたのだ。

「本当にそうか? ならば、なぜ鏡像体たちは街へ向かった? なぜ、彼らは人間の恐怖心を集めている? 貴様は、その真の理由を知っているのか?」

葉羽の言葉は、塵芥の心の奥底にある恐怖心を刺激した。彼は、鏡像体たちが街へ向かった真の理由を、実は理解していなかったのだ。彼はただ、自分の計画が成功すると信じて、突き進んできただけだった。

「……黙れ! 貴様は何も知らない!」

塵芥は、葉羽の言葉を遮ろうとした。しかし、彼の声は震えていた。

その時、研究所の入り口から、大きな音が響き渡った。そして、縫也と彩由美の声が聞こえてきた。

「葉羽! 大丈夫か!」

「葉羽くん!」

縫也と彩由美は、葉羽の危機を察知し、研究所へと駆けつけてきたのだ。

「縫也……彩由美……」

葉羽は、二人の姿を見て、安堵の息を吐いた。

縫也は、すぐに状況を把握し、塵芥に銃口を向けた。

「塵芥、大人しく投降しろ! これ以上、罪を重ねるな!」

塵芥は、縫也の登場に驚き、一瞬ひるんだ。その隙に、葉羽は拘束を解き、立ち上がった。

「塵芥、貴様の計画は終わったんだ」

葉羽は、塵芥に近づきながら、静かに言った。

塵芥は、追い詰められた獣のように、葉羽を睨みつけた。

「……くそっ!」

塵芥は、最後の抵抗を試み、時間逆行装置の出力レバーを最大まで上げた。

「やめろ! 装置が暴走する!」

葉羽は、叫んだ。しかし、既に遅かった。装置から、激しい光と熱が放出され、研究所全体が激しい揺れに襲われた.
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