推理の迷宮

葉羽

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終章 10章

真実の行方

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第10章: 真実の行方

事件解決から1週間が経過した。世界は平穏を取り戻し、表向きは何事もなかったかのように日常が続いていた。しかし、神藤家の豪邸では新たな動きが始まっていた。

葉羽は書斎で彩由美と向かい合っていた。二人の表情は真剣そのものだった。

「やはり、まだ何かおかしいんだ。」葉羽が口を開いた。

彩由美は頷いた。「私もそう感じていたの。あの事件、あまりにも簡単に解決しすぎたわ。」

葉羽は立ち上がり、窓の外を見つめた。「『影の蝶』の本部がこの豪邸の地下にあったこと。おじいさんが知らなかったはずがない。」

「そう、それに...」彩由美は躊躇いがちに続けた。「影山先生の行動も少し不自然だったわ。」

葉羽は彩由美を見つめ返した。「君も気づいていたんだね。彼の知識は、単なる推理小説家のものとは思えない。」

二人は黙って見つめ合った。そこには信頼と決意が満ちていた。

「調べてみよう。」葉羽が言った。

彩由美は頷いた。「うん、一緒に。」

それから数日間、二人は密かに調査を進めた。誠一郎や影山の過去、『影の蝶』の真の目的、そして神藤家の秘密。全てを洗いざらい調べ上げた。

そして、驚くべき事実が明らかになった。

豪邸の隠し部屋。葉羽と彩由美は、そこで誠一郎と影山が話し合っているのを盗み聞いた。

「計画は予定通り進んでいます。」影山の声が聞こえた。

誠一郎が答えた。「よし。葉羽と彩由美の成長も満足のいくものだった。彼らなら、次の段階も乗り越えられるだろう。」

「しかし、彼らに真実を知られたら...」

「構わん。むしろ、それも計画の一部だ。」

葉羽と彩由美は顔を見合わせた。全てが繋がった。

部屋に踏み込んだ二人を見て、誠一郎と影山は驚いた様子もなかった。

「やはり気づいたか。」誠一郎が言った。

葉羽は冷静に尋ねた。「全て仕組まれていたんですね。『影の蝶』も、私たちの特訓も、全て。」

誠一郎は頷いた。「その通りだ。これは全て、次世代の『影の調停者』を育成するための試練だった。」

彩由美が口を挟んだ。「でも、なぜそこまで...」

影山が答えた。「世界は、表と裏の両方から守られなければならない。そのために、最高の人材が必要なんだ。」

葉羽は深く考え込んだ。「つまり、私たちは...」

「そう。」誠一郎が言った。「君たちこそが、新たな『影の調停者』だ。世界の均衡を保つ重要な存在なんだ。」

部屋は重い沈黙に包まれた。

最後に、葉羽が口を開いた。「分かりました。この役目、受け入れます。ただし...」

彼は彩由美の手を取った。「僕たちなりのやり方で。」

彩由美も強く頷いた。「私たちの正義と信念を曲げずに。」

誠一郎と影山は満足そうに笑った。

「よし、では新たな冒険の始まりだ。」誠一郎が言った。

影山が付け加えた。「そして、新たな物語の幕開けでもある。」

葉羽と彩由美は互いを見つめ、微笑んだ。彼らの前には、まだ見ぬ謎と冒険が広がっていた。そして、それは世界の運命を左右する大きな責任でもあった。

しかし、二人は恐れなかった。なぜなら、彼らには互いがいたから。

「行こう、彩由美。」
「うん、葉羽。」

二人は手を取り合い、新たな未来へと歩み出した。真実の行方は、まだ誰にも分からない。ただ、それを追い求める二人の姿だけが、確かにそこにあった。

(完)
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