推理の迷宮

葉羽

文字の大きさ
上 下
4 / 10
4章

幼なじみの想い

しおりを挟む
第4章: 幼なじみの想い

校長室から出てきた葉羽の表情は、いつになく硬かった。彩由美は中庭のベンチで彼を待っていた。

「葉羽、大丈夫?何があったの?」彩由美の声には心配が滲んでいた。

葉羽は深いため息をついてから口を開いた。「校長先生から、学園の秘密を調査してほしいと頼まれたんだ。」

「秘密?」

「ああ。どうやら、学園内で不可解な出来事が相次いでいるらしい。体育館の件もその一つだったんだ。」

彩由美は少し驚いた様子で「へぇ...」と呟いた。

葉羽は彩由美の反応を注意深く観察しながら続けた。「それで、君にも協力してほしいんだ。」

「え?私に?」

「ああ。君は学園のことをよく知っているし、みんなから信頼されている。情報収集に協力してくれないか?」

彩由美は少し躊躇した後、笑顔で答えた。「うん、もちろん!葉羽のためなら何でもするよ。」

その言葉に、葉羽は一瞬戸惑いを見せたが、すぐに平静を取り戻した。

「ありがとう。」

二人は学園内を歩きながら、これまでに起きた不可解な出来事について話し合った。しかし、葉羽の心の中では、別の疑問が渦巻いていた。

彩由美の日記の謎。赤いバラ。そして、彼女の微妙な反応。全てが何かを指し示しているような気がしてならない。

「ねえ、葉羽。」突然、彩由美が立ち止まった。

「何だ?」

「私たち、幼なじみだよね。」

葉羽は少し驚いて「ああ、そうだな」と答えた。

彩由美は空を見上げながら続けた。「覚えてる?小学校の時、二人で秘密基地を作ったこと。」

懐かしい記憶が葉羽の心に蘇った。「ああ...あの古い倉庫だな。」

「うん。あの時、私たち、何か約束したよね?」

葉羽は眉をひそめた。約束?何の約束だったか、はっきりと思い出せない。

「すまない、よく覚えていないんだ。」

彩由美は少し寂しそうな表情を浮かべたが、すぐに笑顔に戻った。「ううん、いいの。きっといつか思い出すよ。」

その瞬間、葉羽の携帯が鳴った。見知らぬ番号からのメッセージだった。

「神藤葉羽へ。君の探している真実は、過去の約束の中にある。」

葉羽は驚いて彩由美を見た。しかし、彼女は何も気づいていない様子だった。

「どうしたの?」彩由美が不思議そうに尋ねた。

「いや...なんでもない。」葉羽は携帯をしまいながら答えた。

二人は再び歩き始めたが、葉羽の心の中は混乱していた。彩由美の言葉と、このメッセージ。そして、まだ解けていない数々の謎。全てが繋がっているような気がする。

「彩由美。」葉羽は突然立ち止まった。

「何?」

「今度の日曜日、時間あるか?」

彩由美は少し驚いたような表情を見せたが、すぐに嬉しそうな笑顔になった。「うん、あるよ。」

「あの...秘密基地に行ってみないか?」

彩由美の目が輝いた。「行く!絶対行く!」

葉羽はほっとしたように微笑んだ。「じゃあ、日曜の朝9時に駅前集合な。」

「うん!楽しみ!」

別れ際、彩由美は珍しく葉羽に抱きついた。「ありがとう、葉羽。」

その温もりに、葉羽は言葉を失った。彼女の背中に手を回そうとした瞬間、彩由美は離れていった。

「じゃあ、日曜日ね!」

彩由美が走り去る後ろ姿を見つめながら、葉羽は複雑な思いに包まれた。幼なじみの想い、解けない謎、そして迫り来る真実。全てが交錯する中、日曜日への期待と不安が彼の心を占めていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

時の呪縛

葉羽
ミステリー
山間の孤立した村にある古びた時計塔。かつてこの村は繁栄していたが、失踪事件が連続して発生したことで、村人たちは恐れを抱き、時計塔は放置されたままとなった。17歳の天才高校生・神藤葉羽は、友人に誘われてこの村を訪れることになる。そこで彼は、幼馴染の望月彩由美と共に、村の秘密に迫ることになる。 葉羽と彩由美は、失踪事件に関する不気味な噂を耳にし、時計塔に隠された真実を解明しようとする。しかし、時計塔の内部には、過去の記憶を呼び起こす仕掛けが待ち受けていた。彼らは、時間が歪み、過去の失踪者たちの幻影に直面する中で、次第に自らの心の奥底に潜む恐怖と向き合わせることになる。 果たして、彼らは村の呪いを解き明かし、失踪事件の真相に辿り着けるのか?そして、彼らの友情と恋心は試される。緊迫感あふれる謎解きと心理的恐怖が交錯する本格推理小説。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

隅の麗人 Case.1 怠惰な死体

久浄 要
ミステリー
東京は丸の内。 オフィスビルの地階にひっそりと佇む、暖色系の仄かな灯りが点る静かなショットバー『Huster』(ハスター)。 事件記者の東城達也と刑事の西園寺和也は、そこで車椅子を傍らに、いつも同じ席にいる美しくも怪しげな女に出会う。 東京駅の丸の内南口のコインロッカーに遺棄された黒いキャリーバッグ。そこに入っていたのは世にも奇妙な謎の死体。 死体に呼応するかのように東京、神奈川、埼玉、千葉の民家からは男女二人の異様なバラバラ死体が次々と発見されていく。 2014年1月。 とある新興宗教団体にまつわる、一都三県に跨がった恐るべき事件の顛末を描く『怠惰な死体』。 難解にしてマニアック。名状しがたい悪夢のような複雑怪奇な事件の謎に、個性豊かな三人の男女が挑む『隅の麗人』シリーズ第1段! カバーイラスト 歩いちご ※『隅の麗人』をエピソード毎に分割した作品です。

パラダイス・ロスト

真波馨
ミステリー
架空都市K県でスーツケースに詰められた男の遺体が発見される。殺された男は、県警公安課のエスだった――K県警公安第三課に所属する公安警察官・新宮時也を主人公とした警察小説の第一作目。 ※旧作『パラダイス・ロスト』を加筆修正した作品です。大幅な内容の変更はなく、一部設定が変更されています。旧作版は〈小説家になろう〉〈カクヨム〉にのみ掲載しています。

泉田高校放課後事件禄

野村だんだら
ミステリー
連作短編形式の長編小説。人の死なないミステリです。 田舎にある泉田高校を舞台に、ちょっとした事件や謎を主人公の稲富くんが解き明かしていきます。 【第32回前期ファンタジア大賞一次選考通過作品を手直しした物になります】

秘められた遺志

しまおか
ミステリー
亡くなった顧客が残した謎のメモ。彼は一体何を託したかったのか!?富裕層専門の資産運用管理アドバイザーの三郷が、顧客の高岳から依頼されていた遺品整理を進める中、不審物を発見。また書斎を探ると暗号めいたメモ魔で見つかり推理していた所、不審物があると通報を受けた顔見知りであるS県警の松ケ根と吉良が訪れ、連行されてしまう。三郷は逮捕されてしまうのか?それとも松ケ根達が問題の真相を無事暴くことができるのか!?

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

処理中です...