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9章

袋小路

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仮面の男の声が響き渡った書斎。血のような赤い液体を滲ませる鏡。葉羽と彩由美は、凍り付くような恐怖に襲われた。まるで、深淵を覗き込むような、底知れない恐怖。

葉羽は、彩由美の手を握りしめた。彼女の小さな手が、冷たく震えているのが伝わってくる。

「大丈夫だ、彩由美。俺が守る」

葉羽は、力強く言った。しかし、彼自身の声も、わずかに震えていた。

仮面の男は、姿を現さなかった。まるで、闇に溶け込むように、消え去ってしまったかのようだった。

葉羽は、彩由美を連れて書斎を後にした。ひび割れた鏡が、まるで彼らの背後を追いかけてくるかのように、不気味に光っていた。

洋館の外に出ると、冷たい夜風が吹き付けてきた。生い茂る草木が、風になびき、まるで生き物のように蠢いている。

葉羽は、彩由美を自宅まで送り届けた。

「今日は、本当に恐ろしかったわ…」

彩由美は、震える声で言った。

「ああ、俺もだ。だが、もう大丈夫だ。心配するな」

葉羽は、彩由美の頭を優しく撫でた。

しかし、彼の心には、不安が渦巻いていた。

仮面の男の言葉、「闇のゲーム」。それは、一体何を意味しているのだろうか。そして、ひび割れた鏡は、何を暗示しているのだろうか。

葉羽は、自宅に戻ると、すぐに自室にこもった。彼は、事件の真相を解き明かすために、集めた情報をもう一度整理し始めた。

佐伯蔵人の死因は毒殺。犯人は、密室トリックを使ってアリバイを偽装した。そして、重要な証拠を隠滅するために、書斎を荒らした。

プレイヤーたちの証言、書斎の鏡、そして仮面の男の言葉。これら全てが、複雑に絡み合い、事件の真相を覆い隠している。

葉羽は、これまでの推理を振り返ってみた。回転鏡筒を使ったトリック。佐伯景子の犯行。しかし、何かがおかしい。ピースが足りない。まるで、重要なパズルのピースが、闇の中に隠されているかのようだった。

彼は、行き詰まっていた。

袋小路に迷い込んだような感覚だった。

思考は堂々巡りを繰り返し、出口が見えない。

葉羽は、焦燥感に駆られていた。彩由美を危険から守るためには、一刻も早く事件の真相を解き明かさなければならない。

その時、彼のスマートフォンが鳴った。見知らぬ番号からの着信だった。

「もしもし」

「神藤葉羽君、苦戦しているようだな」

低い声が、受話器から聞こえてきた。それは、仮面の男の声だった。

「お前は、一体何がしたいんだ!」

葉羽は、怒りを込めて叫んだ.

「私は、ただゲームを楽しんでいるだけだ。君の推理、君の苦悩、そして君の絶望。それら全てが、私にとっての最高の娯楽だ」

男は、不気味な笑みを浮かべながら言った.

「ふざけるな!お前は、人殺しだ!」

「人殺し?それは、どうかな。私は、ただ真実を明らかにしているだけだ。この世界は、嘘と欺瞞に満ちている。私は、その仮面を剥ぎ取り、真実を白日の下にさらしているだけだ」

男の言葉は、まるで哲学者のようだった.

「真実?何が真実だ!お前は、ただ人を弄んでいるだけだ!」

「そう思うなら、それでも構わない。だが、君には、真実を知る権利がある。そして、真実を知ることで、君は、この世界の真の姿を理解するだろう」

男は、意味深な言葉を残して電話を切った.

葉羽は、スマートフォンを握りしめ、考え込んだ。

男の言葉は、一体何を意味しているのだろうか。

真実を知ることで、この世界の真の姿を理解する。

それは、一体どういうことなのだろうか。

葉羽は、混乱していた.

彼の頭の中は、疑問でいっぱいだった。

その時、彼の目に、机の上にある一冊の本が映った.

それは、彼が最近読んでいた推理小説だった.

本のタイトルは、「鏡の国の殺人」。

葉羽は、本を手に取った。

そして、パラパラとめくってみた.

本の内容は、鏡を使った密室トリックについて書かれたものだった。

葉羽は、目を輝かせた.

もしかして、この本の中に、事件のヒントが隠されているかもしれない.

彼は、一気に本を読み始めた。

そして、あるページで、手が止まった.

そこには、こんな一文が書かれていた。

「鏡は、真実を映すとは限らない。鏡は、嘘をつくこともある」

葉羽は、その言葉の意味を考え込んだ.

鏡は、嘘をつく。

それは、一体どういう意味なのだろうか.

葉羽は、閃いた。

もしかして、書斎の鏡は、ただの鏡ではなかった.

それは、特殊な鏡だったのだ.

そして、その鏡が、事件の真相を隠す鍵となっている.

葉羽は、興奮していた.

ついに、事件の核心に近づいたと感じていた.

彼は、再び旧佐伯邸を訪れることにした.

そして、今度は、鏡の秘密を解き明かす.

葉羽は、彩由美に連絡を取り、一緒に旧佐伯邸に行くことを伝えた.

彩由美は、不安そうだったが、葉羽の強い決意を感じ、一緒に行くことを承諾した.

二人は、夜道を急ぎ、旧佐伯邸へと向かった.

洋館に到着すると、辺りは深い闇に包まれていた。

まるで、彼らを闇の世界へと誘い込むかのように.

                
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