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20章

告白

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瑠璃堂…いや、五十嵐の魂が宿った複製体は、静かに手錠をかけられ、連行されていった。事件は解決し、幽霊屋敷には再び静寂が戻ってきた。しかし、その静寂は、以前とはどこか違っていた。まるで、屋敷に染み付いた悲しみや怨念が、静かに息を潜めているかのような、重苦しい静寂だった。

葉羽と彩由美、そして翡翠川は、事件の余波に浸りながら、静かに屋敷を見上げていた。

「…すべてが終わったのね…」

翡翠川は、感慨深げに呟いた。彼女の表情には、安堵と共に、深い悲しみが浮かんでいた。

「…ええ、終わりました…」

葉羽も、静かに答えた。彼の心の中にも、様々な感情が渦巻いていた。安堵、達成感、そして、五十嵐という一人の人間の悲劇に対する、深い悲しみ。

彩由美は、まだショックから立ち直れていない様子で、葉羽の腕に縋り付いていた。

「…葉羽くん…」

彩由美は、小さな声で葉羽の名前を呼んだ. 葉羽は、彩由美を抱きしめ、優しく彼女の頭を撫でた.

「…大丈夫だ、彩由美。もう何も心配いらない」

葉羽は、彩由美を慰めた。

その時、葉羽のスマートフォンに着信があった. 発信者は、警察の刑事だった.

「…もしもし、神藤くん?今、少し時間をもらえるかな?」

刑事は、真剣な口調で言った. 葉羽は、すぐに警察署へと向かった。

警察署の取調室には、瑠璃堂…いや、五十嵐の姿があった。彼は、以前とは打って変わって、やつれた様子で、椅子に座っていた。彼の目には、生気がなく、まるで抜け殻のようだった.

「…五十嵐さん…」

葉羽は、静かに五十嵐に声をかけた。五十嵐は、ゆっくりと顔を上げ、葉羽に視線を向けた。

「…葉羽くん…来てくれたのか…」

五十嵐は、弱々しい声で言った.

「…ええ。聞きたいことがあるんです」

葉羽は、真剣な表情で言った。

「…聞きたいこと…?」

五十嵐は、聞き返した.

「…なぜ、こんなことをしたのか?なぜ、瑠璃堂の魂を自分の体へと転写したのか?」

葉羽は、五十嵐に問いかけた。五十嵐は、しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。

「…私は…死にたくなかった…」

五十嵐は、絞り出すように言った。

「…死にたくない…?」

葉羽は、聞き返した.

「…ああ。私は、量子力学の研究に人生を捧げてきた. そして、ついに、永遠の命を手に入れる方法を見つけたと思った. しかし、それは、大きな間違いだった…」

五十嵐は、後悔の念を込めて言った.

「…量子複製装置は、確かに物質を複製することができる。しかし、魂までは複製できない. 複製されたのは、肉体だけだった. 魂は、元のままだった…」

五十嵐は、説明した.

「…私は、瑠璃堂の魂を私の体へと転写することで、永遠の命を手に入れられると思った. しかし、それは、大きな間違いだった. 私は、瑠璃堂の魂に支配され、自分の意志を失ってしまった…」

五十嵐は、苦しそうに言った.

「…私は、瑠璃堂の魂に操られ、五十嵐進太郎を殺害した. そして、君を犯人に仕立て上げようとした. 私は…私は…許されないことをしてしまった…」

五十嵐は、涙を流しながら告白した。葉羽は、五十嵐の言葉に、深い悲しみを感じた。彼は、五十嵐がどれほど苦しんでいたのか、想像することができた.

「…五十嵐さん…」

葉羽は、静かに五十嵐の名前を呼んだ。

「…私は、自分の罪を償わなければならない. 私は、裁きを受ける覚悟ができている…」

五十嵐は、決意を固めたように言った. 葉羽は、静かに頷いた。彼は、五十嵐の罪を許すことはできない. しかし、彼を憎むこともできないでいた。

事件は、すべて解決した. しかし、葉羽の心には、まだ拭いきれない闇が残っていた. それは、科学技術の進歩が、必ずしも人類の幸福に繋がるとは限らないという、深い闇だった.
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