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11章

偽屋敷の幻影

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五感操作薬による幻覚。この仮説が葉羽の脳裏に浮かんだ瞬間、まるでパズルのピースがはまるように、様々な情報が繋がって行った。三重の密室、葉羽の指紋が付着した凶器、そして、複製体五十嵐の不自然な言動。すべては、五感操作薬による壮大なトリックだったのだ。

「…五十嵐、貴様は、五感操作薬を使って、自分自身に幻覚を見せ、密室に閉じ込められたと思い込ませた。そして、別の場所で殺害された…違うか?」

葉羽の鋭い指摘に、複製体五十嵐は一瞬たじろいだ。彼の動揺は、葉羽の推理が正しいことを示していた。

「…ば、馬鹿な!何を…!」

五十嵐は、虚勢を張って否定したが、声には明らかな動揺が混じっていた。

「…証拠は揃っている。貴様の自室から見つかった凶器には、俺の指紋が付着していた。だが、俺は貴様に会ったことすらない。これは、貴様が五感操作薬を使って、俺に幻覚を見せ、凶器に触れさせた証拠だ」

葉羽は、冷静に推理を展開した。

「…そして、三重の密室も、五感操作薬によるトリックだ。貴様は、自分自身に幻覚を見せ、密室に閉じ込められたと思い込ませた。だが、実際には、貴様は別の場所にいた」

葉羽の言葉に、五十嵐は言葉を失った。彼の計画は、すべて葉羽に見破られていたのだ。

「…だが、一つだけ分からないことがある。なぜ、貴様はこんなことをした?一体、誰が、貴様にこんなことをさせたんだ?」

葉羽は、五十嵐に問いかけた。五十嵐は、しばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。

「…私を操っていたのは…」

その時、実験室のドアが勢いよく開かれ、一人の男が飛び込んできた。黒縁眼鏡をかけ、知的な雰囲気を漂わせる男。五十嵐の主治医、珊瑚樹伊織だった。

「…珊瑚樹…!」

五十嵐は、驚愕した様子で珊瑚樹の名前を呼んだ。

「…久しぶりだな、五十嵐」

珊瑚樹は、冷淡な口調で言った。

「…貴様…生きていたのか…?」

五十嵐は、信じられない思いで呟いた。

「…ああ、生きている。貴様を倒すためにね」

珊瑚樹は、五十嵐に銃口を向けた。

「…貴様…!」

五十嵐は、激昂した。彼は、珊瑚樹に騙されていたのだ。

「…私は、最初から貴様を騙していた。貴様に五感操作薬を提供し、量子複製装置の開発に協力させたのも、すべて貴様を破滅させるためだ」

珊瑚樹は、冷酷な表情で言った。

「…なぜ…?」

五十嵐は、絶望的な声で尋ねた。

「…なぜなら、貴様は私の研究を盗んだからだ」

珊瑚樹は、静かに答えた。

「…研究…?」

葉羽は、聞き返した.

「…ああ。量子複製装置は、私が最初に開発した技術だ。貴様は、私からその技術を盗み、自分のものにした。私は、それを許すことができなかった」

珊瑚樹は、説明した。

「…そんな…嘘だ!」

五十嵐は、否定した. しかし、珊瑚樹は証拠を提示した。それは、五十嵐が盗作したことを証明する、決定的な証拠だった.

「…くっ…」

五十嵐は、観念した。彼は、珊瑚樹に敗北したのだ。

「…だが、まだだ!私は、量子複製装置を使って、永遠の命を手に入れる!」

五十嵐は、最後の悪あがきを試みた. 彼は、量子複製装置を起動させようとした. しかし、葉羽がそれを阻止した。

「…待て!五十嵐!それは危険すぎる!」

葉羽は、叫んだ.

「…黙れ!葉羽くん!これは、私の人生だ!」

五十嵐は、叫び返した。

「…だが、それは、多くの人々の人生を犠牲にすることでもある. 貴様は、自分のエゴのために、多くの人々を不幸にしようとしている. 俺は、それを許すことはできない!」

葉羽は、強い意志で言った。

「…くっ…」

五十嵐は、葉羽の言葉に心を揺さぶられた。彼は、自分がどれほど愚かなことをしようとしていたのか、ようやく気づいたのだ.

「…私は…何を…」

五十嵐は、呟いた。その時、珊瑚樹が銃を発砲した。銃弾は、五十嵐の胸に命中した。

「…ぐあっ…!」

五十嵐は、悲鳴を上げて倒れ込んだ. 彼の身体は、徐々に消滅していった. 量子複製装置の機能が停止し、複製体の五十嵐は消滅したのだ.

「…これで、終わった…」

珊瑚樹は、静かに言った。

「…ああ、終わった…」

葉羽も、静かに頷いた。しかし、彼の心には、まだ拭いきれない不安が残っていた。

(…五感操作薬は、どのようにして使われたんだ…?そして、偽の屋敷はどこにある…?)

葉羽は、事件の真相を完全に解明するために、更なる調査を続ける必要があると感じていた。

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