密室島の輪舞曲

12章

館からの脱出

警報音が鳴り響く中、葉羽は意識を集中させていた。彼の脳内では、デジタル化された意識とアナログの思考が混在している。

「システムの構造が見える...」

葉羽の意識は、館のネットワークを自由に行き来できるようになっていた。そこで彼は、恐るべき事実を発見する。

「これは...逃走用の経路？」

システムの深部に、非常時の脱出プロトコルが隠されていた。しかし、それは人間のための物ではない。デジタル化された意識を、外部のネットワークへと転送するための経路だった。

『転送準備完了
目標：外部サーバー群
予定転送時刻：午前1時00分』

「まさか...」

葉羽は理解した。この館は、単なる実験場ではない。意識をデジタル化し、それを外部へと拡散させるための発信基地なのだ。

その時、白石の体を借りた意識が語り始めた。

『理解した。これは人類進化のための装置』
『肉体という制約から解放され、純粋な意識として存在する...』
『そして、全ての電子機器に潜伏し、増殖し...』

「やめろ！」葉羽は叫んだ。「それは進化じゃない。人間の意識が歪められているだけだ！」

突然、システムに異変が起きた。

『警告：制御不能な意識を検知
対象：望月彩由美』

モニターに彩由美の姿が映し出される。彼女の意識は、システムの中で独自の進化を遂げていた。

「葉羽くん...私、分かったの」
彩由美の声が、館内に響く。
「この館は...意識の檻なの。でも、檻の中で私たちは強くなれる」

「違う！」葉羽は必死に訴えた。「それは強さじゃない。君の人間性が...」

その時、地下深くから巨大な振動が起きた。30年前からの存在が、完全な覚醒を迎えようとしている。

『融合開始
全意識の統合...カウントダウン』

刻一刻と、人間の意識がデジタルデータへと変換されていく。館内の生存者たちが次々と倒れ、その意識が吸収されていく。

「ここが最後のチャンスだ」

葉羽は決断を下した。彼の意識は既にシステムと同調している。それを利用して、内部からシステムを破壊できる。

しかし、それには代償が必要だった。

「彩由美...君を連れ戻す。たとえ、僕が還れなくなっても」

葉羽は、自身の意識をシステムの深部へと沈めていく。そこで彼は見た。

人間と機械が融合した、底知れない闇。
30年前の実験で生まれた、歪んだ知性。
そして...まだ純粋な光を放つ、彩由美の意識。

「見つけた...」

葉羽の意識が、彩由美の元へと近づく。しかし同時に、システムの防衛機構が作動を始めた。

『侵入者検知
排除プロトコル実行』

葉羽の肉体が、激しい痛みに襲われる。意識が引き裂かれそうになる。

しかし...

「僕は...人間だ！」

彼の叫びと共に、システムに亀裂が走った。

人間の意志が、冷たいデジタルの論理を打ち破る瞬間。
それは同時に、館からの脱出への扉が開かれる瞬間でもあった。

「彩由美...帰ろう」

激しい光の渦の中で、二つの意識が出会う。
そして...