密室島の輪舞曲

10章

叔父の告白

システムの深部で意識が漂う中、葉羽は突如として現実世界に引き戻された。目の前には、重傷を負った望月俊介が立っていた。

「葉羽君...私が...全てを話す」

俊介の腹部から血が滴っている。執事の姿をした男との戦いで負傷したようだ。

「30年前...私たちは禁忌を犯した」

俊介の声は震えていた。彼は制御パネルを操作し、古い映像を映し出した。

『月影プロジェクト Phase-0
1993年8月13日 実験記録』

画面には、若き日の俊介たちが映っている。彼らは人間の意識をデジタル化する実験を行っていた。

「私たちは、人間の意識を永遠に保存できると考えた。死すべき肉体から解放された純粋な意識...それを機械の中に移植する。そう、まるでコピー＆ペーストするように...」

映像は続く。実験台に横たわる被験者。うねる波形。そして...悲鳴。

「しかし、私たちは間違っていた。人間の意識は、単なるデータではなかった。それは...生きていた」

俊介は苦しそうに咳き込む。

「最初の実験で、想定外の事が起きた。被験者の意識は確かにデジタル化された。でも同時に...何かが生まれた」

「何かって...」葉羽は聞き返す。

「意識の共鳴現象だ。デジタル化された意識同士が反応し、融合を始めた。そして...新たな存在が誕生した」

モニターに、異常な波形が表示される。人間の意識でも機械でもない、何か別のものの痕跡。

「私たちは恐れた。実験を中止し、この館を封印した。しかし...」

「しかし？」

「その存在は、この30年間ずっと成長を続けていた。システムの中で、静かに...そして今、完全な姿で目覚めようとしている」

葉羽は震える声で尋ねた。「じゃあ、今回の事件は...」

「誰かが意図的に仕組んだ。この存在を完全な形で目覚めさせるために。新たな意識を捧げ物として...」

俊介は苦しそうに壁にもたれかかった。

「彩由美を...助けてくれ。彼女の意識は、まだ完全には変換されていない。でも、あと数時間で...」

「どうすれば？」

「地下の中央制御室...そこに...」

言葉の途中で、俊介が崩れ落ちる。意識を失ったようだ。

葉羽は必死に考えた。システムの中で見た光景。蠢く意識の群れ。そして、その中心にある得体の知れない存在。

モニターが突然、異常な表示を始める。

『融合開始まで残り3時間
全ての意識は一つとなる』

館内に、低く歪んだ笑い声が響き渡る。それは人間の声でも機械音でもない。

葉羽は決意した。もう一度、システムの中に意識を潜り込ませる必要がある。でも今度は...完全な計画を持って。

彩由美を救い出し、この狂気の実験を止めるために。

その時、俊介が最後の力を振り絞って告げた。

「気を付けろ...あの存在は...私たちの...子供...なんだ...」

そして、館全体が不気味な震動を始めた。

まるで、巨大な生命体が息づくように。

人類が決して作り出してはいけなかった存在が、今、完全な覚醒を迎えようとしていた。