密室島の輪舞曲

7章

第三の犠牲者

朝の光が館内に差し込んできた時、葉羽は図書室の床で目を覚ました。頭痛は相変わらずだが、意識ははっきりしている。すぐに彩由美の元へ向かおうとした時、悲鳴が響いた。

「中島さんが...中島さんの部屋が！」

電気工学者・中島武の部屋。今度も内側から完全に施錠されていた。ドアを破ると、既視感のある光景が広がっていた。

首を吊った中島。しかし、今回は何かが決定的に違っていた。遺体の周りに、大量の電子機器が散乱している。そして壁には、血文字で...

『実験は成功。しかし、私は失敗した』

「これは...」葉羽は部屋の状況を細かく観察し始めた。

中島の机の上には、半田ごてがまだ温かい。何かの装置を必死に作っていた形跡がある。そしてそこには、未完成の装置と共に、一枚のメモ。

『周波数：18.5kHz
  変調波形：正弦波
  共振周期：6.28秒
  
  これが、あの装置の核心部分か...
  しかし、まさか自分が...』

「葉羽くん」彩由美が震える声で呼びかけた。「床に...何か描いてある」

確かに、カーペットの上に何かの回路図が描かれている。そして、その真ん中には見覚えのある図形。鏡に映っていた設計図と同じものだ。

「中島さんは何かを発見した」葉羽は呟いた。「そして、それを封じるために...」

その時、部屋の温度が急激に下がり始めた。見慣れた扇風機が、不気味な音を立てて回り出す。

「全員、すぐに部屋から出て！」葉羽は叫んだ。

脱出直後、部屋の電気系統が完全に焼き付いた。中島の残した装置や資料は、ほとんど使い物にならない状態になっていた。

「待って」葉羽は、かろうじて救出したメモを見つめた。「これは...音波の共振に関する計算式」

中島は、館を支配する「装置」の核心に迫っていた。そして、それが彼の命取りになった。

午後、葉羽は彩由美と共に、これまでの事件を整理した。

「被害者には、明確なパターンがある」葉羽は説明する。「山岸は化学、鈴木は音響、中島は電気...全て、この館の仕掛けに関係する専門家だ」

「じゃあ、次は...」彩由美の声が震える。

「ああ。おそらく、この仕掛けの秘密に近付く可能性のある人物が狙われる」

その時、館内のスピーカーから、奇妙な振動音が響き始めた。参加者たちが、次々と気分の悪化を訴える。

「催眠作用の強化か...」葉羽は歯を食いしばった。「時間がない」

彩由美が突然、葉羽の腕を掴んだ。
「葉羽くん、見て！窓の外...」

外では、奇妙な光が渦を巻いていた。まるで、オーロラのように。しかし、それは自然現象ではない。館全体を包み込む、人工的な光のカーテン。

「結界...」葉羽は絶句した。「私たちは、完全に封じ込められている」

その夜、新たな館内放送が流れた。

『残り実験時間：24時間
  現在の被験者生存率：75%
  最終段階へ移行準備完了』

葉羽は、必死に次の手を考えていた。しかし、頭痛と幻覚が強くなる一方だ。壁が歪み、天井が呼吸をし、床が波打って見える。

そして、どこからともなく聞こえてくる、あの機械的な笑い声。

「もう...時間がない」

葉羽は、最後の賭けに出ることを決意した。地下の制御室を探し出し、この狂気の実験を止めなければならない。

しかし...本当にそれは可能なのだろうか？

窓の外では、不気味な光が更に強さを増していた。そして館の中では、誰かが...いや、何かが、着実に獲物を追い詰めていた。