上 下
7 / 17
7章

視覚の牢獄

しおりを挟む
白銀零士の指紋が、クロノスの花の散布装置から検出されたという事実は、葉羽に大きな衝撃を与えた。しかし、同時に、新たな謎も生み出した。零士は、なぜこのような複雑なトリックを使って雅也を殺害したのか? そして、密室トリックはどのようにして行われたのか? 葉羽は、まだ解明されていない謎を解き明かすべく、再び地下室へと向かった。

密室のドア、窓、壁――葉羽は、あらゆる可能性を考慮しながら、現場をくまなく調べ直した。そして、壁の一面に描かれた幾何学模様に、再び目を留めた。前回はただの汚れだと思っていたが、4章で特殊な光を当てると浮かび上がることを発見していた。

「この模様は……ただの装飾ではない」

葉羽は、懐中電灯を取り出し、様々な角度から模様を照らしてみた。すると、特定の角度から光を当てると、模様が立体的に浮かび上がり、まるで別の図形が出現する錯視効果が生まれた。

「錯視立体……!」

葉羽は、息を呑んだ。犯人は、この錯視立体を利用して、密室の状況を偽装したのだ。特定の角度から見ると、壁にドアがあるように見え、実際には開いているドアが、閉まっているように見えたのだ。雅也は、この錯視に騙され、自ら密室に入り込んでしまったのだ。

しかし、錯視立体だけでは、全ての謎は解けない。葉羽は、さらに調査を進めた。そして、洋館の各所に設置された鏡と、特殊な照明に気づいた。

「鏡と照明……これも、トリックの一部なのか?」

葉羽は、鏡の位置、照明の角度、そして部屋の構造を分析し、ある仮説を立てた。犯人は、鏡と照明を巧みに操り、人間の視覚を欺き、偽の現実を作り出していたのだ。例えば、鏡に反射させた光を壁に投影することで、実際には存在しないドアや窓を作り出すことが可能になる。また、特定の周波数の光を点滅させることで、残像効果を利用し、実際には存在しない物体を目撃させることもできる。

葉羽は、彩由美と共に、洋館内で視覚効果の実験を行った。彼らは、鏡と照明を様々な角度に配置し、光を反射させたり、屈折させたりすることで、驚くべき視覚効果を作り出すことに成功した。

「これなら、目撃証言を操作することも、犯行現場を偽装することも可能だ……」

彩由美は、感嘆と同時に、恐怖を覚えた。人間の視覚は、こんなにも簡単に騙されてしまうものなのか。

実験を通して、葉羽は、犯人がどのようにして視覚を操り、密室トリックを完成させたのかを理解した。錯視立体、鏡、照明――これらの要素が組み合わされることで、完璧な視覚の牢獄が作り出されていたのだ。

その時、葉羽は、天井の隅に、小さなプロジェクターが設置されていることに気づいた。プロジェクターは、巧妙に偽装されており、一見するとただの装飾品のように見えた。

「プロジェクションマッピング……!」

葉羽は、確信した。犯人は、プロジェクションマッピングを使って、偽の映像を投影し、密室の状況をさらに巧妙に偽装していたのだ。

事件の真相は、徐々に明らかになりつつあった。しかし、葉羽は、まだ重要なピースが欠けていることを感じていた。犯人の動機、そして真の目的は、依然として深い闇に包まれていた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

未亡人となった側妃は、故郷に戻ることにした

星ふくろう
恋愛
 カトリーナは帝国と王国の同盟により、先代国王の側室として王国にやって来た。  帝国皇女は正式な結婚式を挙げる前に夫を失ってしまう。  その後、義理の息子になる第二王子の正妃として命じられたが、王子は彼女を嫌い浮気相手を溺愛する。  数度の恥知らずな婚約破棄を言い渡された時、カトリーナは帝国に戻ろうと決めたのだった。    他の投稿サイトでも掲載しています。

(完結)王家の血筋の令嬢は路上で孤児のように倒れる

青空一夏
恋愛
父親が亡くなってから実の母と妹に虐げられてきた主人公。冬の雪が舞い落ちる日に、仕事を探してこいと言われて当てもなく歩き回るうちに路上に倒れてしまう。そこから、はじめる意外な展開。 ハッピーエンド。ショートショートなので、あまり入り組んでいない設定です。ご都合主義。 Hotランキング21位(10/28 60,362pt  12:18時点)

3歳児にも劣る淑女(笑)

章槻雅希
恋愛
公爵令嬢は、第一王子から理不尽な言いがかりをつけられていた。 男爵家の庶子と懇ろになった王子はその醜態を学園内に晒し続けている。 その状況を打破したのは、僅か3歳の王女殿下だった。 カテゴリーは悩みましたが、一応5歳児と3歳児のほのぼのカップルがいるので恋愛ということで(;^ω^) ほんの思い付きの1場面的な小噺。 王女以外の固有名詞を無くしました。 元ネタをご存じの方にはご不快な思いをさせてしまい申し訳ありません。 創作SNSでの、ジャンル外での配慮に欠けておりました。

養子の妹が、私の許嫁を横取りしようとしてきます

ヘロディア
恋愛
養子である妹と折り合いが悪い貴族の娘。 彼女には許嫁がいた。彼とは何度かデートし、次第に、でも確実に惹かれていった彼女だったが、妹の野心はそれを許さない。 着実に彼に近づいていく妹に、圧倒される彼女はとうとう行き過ぎた二人の関係を見てしまう。 そこで、自分の全てをかけた挑戦をするのだった。

(完結)私の夫は死にました(全3話)

青空一夏
恋愛
夫が新しく始める事業の資金を借りに出かけた直後に行方不明となり、市井の治安が悪い裏通りで夫が乗っていた馬車が発見される。おびただしい血痕があり、盗賊に襲われたのだろうと判断された。1年後に失踪宣告がなされ死んだものと見なされたが、多数の債権者が押し寄せる。 私は莫大な借金を背負い、給料が高いガラス工房の仕事についた。それでも返し切れず夜中は定食屋で調理補助の仕事まで始める。半年後過労で倒れた私に従兄弟が手を差し伸べてくれた。 ところがある日、夫とそっくりな男を見かけてしまい・・・・・・ R15ざまぁ。因果応報。ゆるふわ設定ご都合主義です。全3話。お話しの長さに偏りがあるかもしれません。

ああ、もういらないのね

志位斗 茂家波
ファンタジー
……ある国で起きた、婚約破棄。 それは重要性を理解していなかったがゆえに起きた悲劇の始まりでもあった。 だけど、もうその事を理解しても遅い…‥‥ たまにやりたくなる短編。興味があればぜひどうぞ。

婚約者の浮気現場に踏み込んでみたら、大変なことになった。

和泉鷹央
恋愛
 アイリスは国母候補として長年にわたる教育を受けてきた、王太子アズライルの許嫁。  自分を正室として考えてくれるなら、十歳年上の殿下の浮気にも目を瞑ろう。  だって、殿下にはすでに非公式ながら側妃ダイアナがいるのだし。  しかし、素知らぬふりをして見逃せるのも、結婚式前夜までだった。  結婚式前夜には互いに床を共にするという習慣があるのに――彼は深夜になっても戻ってこない。  炎の女神の司祭という側面を持つアイリスの怒りが、静かに爆発する‥‥‥  2021年9月2日。  完結しました。  応援、ありがとうございます。  他の投稿サイトにも掲載しています。

処理中です...