ピエロの嘲笑が消えない

葉羽

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9章

真実の代償

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灰塚院長の逮捕、真犯人の確保、そしてクロウ・ハウスの閉鎖。一連の事件は解決し、静香も他の患者たちと共に、徐々に回復の兆しを見せていた。事件解決の立役者となった葉羽は、周囲から賞賛されたが、彼自身はどこか満たされない思いを抱えていた。まるで、重要な何かを見落としているような、そんな気がしてならないのだ。

特に、あの謎のメール。「真のゲームはこれからだ」というメッセージと、焼け焦げたピエロの仮面の写真。あれは一体誰からのメッセージだったのか? 真犯人は既に逮捕された。だとしたら、あのメールを送ったのは誰なのか? そして、その目的は何だったのか?

葉羽は自室で、押収された証拠品の写真を改めて見返していた。幻覚誘導装置、患者のカルテ、灰塚院長の研究データ、そしてあの焼け焦げたピエロの仮面。一つ一つの証拠品を丹念に調べ、何か見落としていないか確認していく。

その時、葉羽は灰塚院長の研究データの中に、ある奇妙な記述があることに気づいた。それは、特定の周波数の音波に関する記述だった。

「…特定の周波数の音波は、人間の記憶に影響を与える可能性がある…?」

葉羽は呟いた。研究データによると、特定の周波数の音波を聞かせ続けることで、被験者の特定の記憶を強化したり、あるいは消去したりすることができるというのだ。

「まさか…院長は、この技術を使って、患者たちの記憶を操作しようとしていたのか…?」

葉羽は背筋に冷たいものを感じた。もしそうだとしたら、患者たちが見ていたピエロの幻覚は、単なる幻覚ではなく、植え付けられた偽の記憶かもしれない。そして、あの謎のメールは、院長ではなく、この技術を知る第三者から送られてきた可能性もある。

葉羽は、この新たな仮説を検証するために、彩由美に連絡を取った。彩由美は、静香の様子を見に病院を訪れていた。

「彩由美、静香さんに、もう一度詳しく話を聞いてくれないか? ピエロを見た時の状況、どんな音が聞こえていたか、どんな光が見えていたか…できるだけ詳しく聞いてほしい」

葉羽の依頼に、彩由美は少し戸惑った様子だったが、すぐに承諾した。

数時間後、彩由美から連絡が入った。

「葉羽君…大変! 叔母さん、またピエロの幻覚を見てるの!」

彩由美の声は震えていた。葉羽は驚き、すぐに病院へと向かった。

病院に到着すると、静香はベッドの上で怯え、何かを呟いていた。

「…ピエロ…来る…怖い…」

静香の様子は、クロウ・ハウスにいた時と全く同じだった。葉羽は静香に近づき、優しく声をかけた。

「静香さん、大丈夫ですか? 何が怖いんですか?」

しかし、静香は葉羽の声に反応せず、ただ怯え続けるだけだった。葉羽は、静香が再びピエロの幻覚を見ていることを確信した。

「でも…どうして? 院長は既に逮捕されたのに…」

彩由美が呟いた。葉羽は考え込んだ。院長が逮捕された後も、静香がピエロの幻覚を見ているということは、院長以外の人物が関与している可能性が高い。そして、その人物は、院長の研究データにある特定の周波数の音波技術を知っている人物だろう。

葉羽は、この事件はまだ終わっていないことを悟った。真犯人は逮捕されたが、真の黒幕は別にいる。そして、その黒幕は、今もなお暗闇の中で糸を引き、静香を恐怖に陥れているのだ。

葉羽は静香の手を握りしめ、静かに言った。

「必ず、助けます。もう二度と、悪夢に苦しむことはないように…」

葉羽の決意は固かった。彼は、この新たな謎を解き明かし、静香を救い出すことを誓った。そして、真の黒幕を見つけ出し、その正体を暴くことを決意した。

その時、葉羽のスマートフォンに再びメールが届いた。差出人は不明だった。葉羽はメールを開くと、そこには短いメッセージが表示されていた。

「ゲーム再開だ」
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