ピエロの嘲笑が消えない

葉羽

文字の大きさ
上 下
8 / 12
7章

欺瞞の仮面

しおりを挟む
隠し部屋で発見された証拠は決定打となり、灰塚院長は警察に連行された。連行される直前、院長は葉羽を睨みつけ、低い声で呟いた。

「貴様め…せいぜい、束の間の勝利に酔っておけ。真の恐怖はこれからだ…」

その言葉は、まるで呪いのように葉羽の心に突き刺さった。不気味な笑みを浮かべながら連行される院長の姿は、まるでピエロそのものだった。

警察は診療所を家宅捜索し、幻覚誘導装置を始めとする様々な証拠品を押収した。患者たちは他の病院に移送されることになり、クロウ・ハウスは閉鎖されることになった。彩由美の叔母、静香も他の病院に移送されることになったが、依然として精神的に不安定な状態が続いていた。

「叔母さん…大丈夫かしら…」

彩由美は心配そうに呟いた。葉羽は彼女の肩に手を置き、

「きっと大丈夫だ。もう、ピエロの悪夢に苦しむことはない」

と励ました。しかし、葉羽自身、院長の最後の言葉が心に引っかかっていた。「真の恐怖はこれからだ…」とは、一体どういう意味なのだろうか?

警察署での事情聴取の後、葉羽と彩由美は帰宅の途についた。車の中で、葉羽はこれまでの出来事を整理していた。患者たちの証言、幻覚誘導装置、院長の研究データ、そして院長の過去。全てのピースが繋がり、事件の真相が見えてきた。

灰塚院長は、幼い頃にピエロに強いトラウマを抱えていた。そのトラウマを克服するために、彼は精神医学の道に進み、人間の精神を操作する研究に没頭するようになった。そして、ついに幻覚誘導装置を開発し、患者たちを実験台にして、自らの恐怖を克服しようとしていたのだ。

「でも…なぜ、ピエロだったんだろう?」

彩由美が呟いた。葉羽もその疑問を抱いていた。院長がピエロ恐怖症であることは分かったが、なぜ他の恐怖ではなく、ピエロを選んだのだろうか?

その時、葉羽は警察署で入手した院長の経歴書に、ある記述があることを思い出した。院長は、幼少期にサーカスで働いていた経験があったのだ。

「サーカス…ピエロ…」

葉羽は呟いた。そして、ある仮説を立て始めた。院長はサーカスで働いていた際に、何らかの事件に巻き込まれたのではないか? そして、その事件がピエロ恐怖症の引き金になったのではないか?

葉羽はすぐにインターネットで灰塚院長がかつて働いていたサーカスについて調べ始めた。すると、ある記事が見つかった。それは、数十年前、そのサーカスで起きた火災事故の記事だった。記事によると、火災の原因は放火とされており、多くの死者が出ているという。そして、その記事には、焼け跡からピエロの仮面が発見されたという記述があった。

「ピエロの仮面…」

葉羽は呟いた。そして、全てを理解した。灰塚院長は、火災事故の際にピエロの仮面を被った犯人を見て、強い恐怖を植え付けられたのだ。そして、その恐怖がピエロ恐怖症へと発展し、彼の人生を狂わせていったのだ。

「院長は…火災事故の犯人を探していたのか…」

彩由美が呟いた。葉羽は頷いた。院長は、患者たちを利用して、火災事故の犯人を見つけるため、あるいは復讐するために、ピエロの幻覚を見せていたのだ。

「でも…火災事故の犯人は、既に捕まっているはずよ?」

彩由美が疑問を投げかけた。葉羽もその点については疑問を抱いていた。しかし、もし、真犯人が別にいるとしたら…?

その時、葉羽のスマートフォンにメールが届いた。差出人は不明だった。葉羽はメールを開くと、そこには一枚の写真が添付されていた。写真は、焼け焦げたピエロの仮面だった。そして、その下に、短いメッセージが添えられていた。

「真のゲームはこれからだ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

支配するなにか

結城時朗
ミステリー
ある日突然、乖離性同一性障害を併発した女性・麻衣 麻衣の性格の他に、凶悪な男がいた(カイ)と名乗る別人格。 アイドルグループに所属している麻衣は、仕事を休み始める。 不思議に思ったマネージャーの村尾宏太は気になり 麻衣の家に尋ねるが・・・ 麻衣:とあるアイドルグループの代表とも言える人物。 突然、別の人格が支配しようとしてくる。 病名「解離性同一性障害」 わかっている性格は、 凶悪な男のみ。 西野:元国民的アイドルグループのメンバー。 麻衣とは、プライベートでも親しい仲。 麻衣の別人格をたまたま目撃する 村尾宏太:麻衣のマネージャー 麻衣の別人格である、凶悪な男:カイに 殺されてしまう。 治療に行こうと麻衣を病院へ送る最中だった 西田〇〇:村尾宏太殺害事件の捜査に当たる捜一の刑事。 犯人は、麻衣という所まで突き止めるが 確定的なものに出会わなく、頭を抱えて いる。 カイ :麻衣の中にいる別人格の人 性別は男。一連の事件も全てカイによる犯行。 堀:麻衣の所属するアイドルグループの人気メンバー。 麻衣の様子に怪しさを感じ、事件へと首を突っ込んでいく・・・ ※刑事の西田〇〇は、読者のあなたが演じている気分で読んで頂ければ幸いです。 どうしても浮かばなければ、下記を参照してください。 物語の登場人物のイメージ的なのは 麻衣=白石麻衣さん 西野=西野七瀬さん 村尾宏太=石黒英雄さん 西田〇〇=安田顕さん 管理官=緋田康人さん(半沢直樹で机バンバン叩く人) 名前の後ろに来るアルファベットの意味は以下の通りです。 M=モノローグ (心の声など) N=ナレーション

この欠け落ちた匣庭の中で 終章―Dream of miniature garden―

至堂文斗
ミステリー
ーーこれが、匣の中だったんだ。 二〇一八年の夏。廃墟となった満生台を訪れたのは二人の若者。 彼らもまた、かつてGHOSTの研究によって運命を弄ばれた者たちだった。 信号領域の研究が展開され、そして壊れたニュータウン。終焉を迎えた現実と、終焉を拒絶する仮想。 歪なる領域に足を踏み入れる二人は、果たして何か一つでも、その世界に救いを与えることが出来るだろうか。 幻想、幻影、エンケージ。 魂魄、領域、人類の進化。 802部隊、九命会、レッドアイ・オペレーション……。 さあ、あの光の先へと進んでいこう。たとえもう二度と時計の針が巻き戻らないとしても。 私たちの駆け抜けたあの日々は確かに満ち足りていたと、懐かしめるようになるはずだから。

ARIA(アリア)

残念パパいのっち
ミステリー
山内亮(やまうちとおる)は内見に出かけたアパートでAR越しに不思議な少女、西園寺雫(さいおんじしずく)と出会う。彼女は自分がAIでこのアパートに閉じ込められていると言うが……

ハイブリッド・ブレイン

青木ぬかり
ミステリー
「人とアリ、命の永さは同じだよ。……たぶん」  14歳女子の死、その理由に迫る物語です。

リモート刑事 笹本翔

雨垂 一滴
ミステリー
 『リモート刑事 笹本翔』は、過去のトラウマと戦う一人の刑事が、リモート捜査で事件を解決していく、刑事ドラマです。  主人公の笹本翔は、かつて警察組織の中でトップクラスの捜査官でしたが、ある事件で仲間を失い、自身も重傷を負ったことで、外出恐怖症(アゴラフォビア)に陥り、現場に出ることができなくなってしまいます。  それでも、彼の卓越した分析力と冷静な判断力は衰えず、リモートで捜査指示を出しながら、次々と難事件を解決していきます。  物語の鍵を握るのは、翔の若き相棒・竹内優斗。熱血漢で行動力に満ちた優斗と、過去の傷を抱えながらも冷静に捜査を指揮する翔。二人の対照的なキャラクターが織りなすバディストーリーです。  翔は果たして過去のトラウマを克服し、再び現場に立つことができるのか?  翔と優斗が数々の難事件に挑戦します!

嘘つきカウンセラーの饒舌推理

真木ハヌイ
ミステリー
身近な心の問題をテーマにした連作短編。六章構成。狡猾で奇妙なカウンセラーの男が、カウンセリングを通じて相談者たちの心の悩みの正体を解き明かしていく。ただ、それで必ずしも相談者が満足する結果になるとは限らないようで……?(カクヨムにも掲載しています)

【完結】共生

ひなこ
ミステリー
高校生の少女・三崎有紗(みさき・ありさ)はアナウンサーである母・優子(ゆうこ)が若い頃に歌手だったことを封印し、また歌うことも嫌うのを不審に思っていた。 ある日有紗の歌声のせいで、優子に異変が起こる。 隠された母の過去が、二十年の時を経て明らかになる?

virtual lover

空川億里
ミステリー
 人気アイドルグループの不人気メンバーのユメカのファンが集まるオフ会に今年30歳になる名願愛斗(みょうがん まなと)が参加する。  が、その会を通じて知り合った人物が殺され、警察はユメカを逮捕する。  主人公達はユメカの無実を信じ、真犯人を捕まえようとするのだが……。

処理中です...