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4章
禁断の実験室
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資料室から脱出した葉羽と彩由美は、人気のない病棟の一室に身を潜めていた。窓の外は既に夕闇に包まれ、不気味な静けさが辺りを支配している。葉羽は、資料室で手に入れた金属製の装置を改めて見つめていた。それは手のひらに収まるほどの大きさで、表面には幾つものボタンとダイヤルが配置されている。装置からは、依然として低い振動音が響いていた。
「これは……一体何なんだろう?」
彩由美が不安そうに呟いた。葉羽は首を振り、
「まだ分からない。だが、院長がこの装置を隠していたということは、何か重要なものなのは間違いない」
と答えた。その時、葉羽は装置の底面に小さな刻印があることに気づいた。刻印には、「HANE」という文字が刻まれていた。
「HANE……羽?」
葉羽は自分の名前に酷似した文字列に驚き、装置を凝視した。これは単なる偶然なのか、それとも何かのメッセージなのか? 考えを巡らせる葉羽の脳裏に、資料室で見つけた写真が蘇る。歪んだ笑みを浮かべたピエロと、幼い灰塚院長。そして、院長の倫理的に問題のある実験……。
「倫理的に問題のある実験……羽……ピエロ……」
葉羽は呟きながら、断片的な情報を繋ぎ合わせようとしていた。その時、彼の脳裏に一つの閃きが降りてきた。
「もしかして……院長は、人間の精神を操作する実験を行っているのではないか?」
葉羽は息を呑んだ。もし、その仮説が正しければ、患者たちが見ている「ピエロ」は、単なる幻覚ではなく、人為的に作り出されたものかもしれない。そして、この装置がその実験に用いられているとしたら……。
「葉羽君、何を考えているの?」
彩由美の問いかけに、葉羽は自分の考えを説明した。彩由美は驚き、恐怖に慄いた。
「そんな……そんなことが本当にできるの?」
「分からない。だが、可能性としては否定できない」
葉羽は真剣な表情で答えた。そして、
「もう一度、資料室に行ってみよう。何か見落としているものがあるかもしれない」
と提案した。彩由美は不安そうだったが、葉羽の決意に頷いた。
二人は再び廊下を歩き、資料室へと向かった。幸いにも、院長に見つかることはなかった。資料室に入り、葉羽は念入りに部屋を調べ始めた。本棚、机、そして壁の装飾まで、くまなくチェックした。
その時、葉羽は壁に掛けられた一枚の絵画に目が留まった。それは、クロウ・ハウスの外観を描いた風景画だった。一見、何の変哲もない絵画だが、葉羽は絵画の左下に小さなボタンがあることに気づいた。
葉羽がボタンを押すと、絵画がスライドして壁が開き、隠し部屋への入り口が現れた。
「これは……」
彩由美は驚きの声を上げた。葉羽は懐中電灯を取り出し、隠し部屋の中へと足を踏み入れた。
隠し部屋は、資料室よりもさらに狭く、薄暗い空間だった。部屋の中央には、一台の機械が置かれている。機械は複雑な配線で繋がれ、モニターには様々なデータが表示されている。
「これは……まさか」
葉羽は息を呑んだ。それは、資料室で手に入れた装置よりもはるかに大きく、複雑な構造をしていた。そして、機械の側面には、「Hallucination Induction Device」(幻覚誘導装置)と書かれたプレートが取り付けられていた。
葉羽の仮説は正しかった。灰塚院長は、この装置を使って患者たちに幻覚を見させていたのだ。葉羽は装置に近づき、モニターに表示されているデータを確認した。そこには、音波、光、電磁波といった様々なデータが表示されている。そして、それらのデータは、特定の周波数に設定されていることに気づいた。
「この周波数は……」
葉羽は資料室で見つけたメモを取り出した。メモに書かれていた数字と記号は、この周波数と一致していた。葉羽は、この装置が特定の周波数を用いて、人間の脳に直接作用し、幻覚を生成していることを理解した。
その時、葉羽はモニターに映し出された映像に気づいた。それは、ピエロの映像だった。不気味な笑みを浮かべたピエロが、画面の中を動き回っている。
「これが……患者たちが見ているピエロか」
葉羽は呟いた。その時、背後から不気味な笑い声が聞こえてきた。葉羽が振り返ると、そこには誰もいない。しかし、笑い声は確かに聞こえた。そして、その笑い声は、モニターに映し出されたピエロの笑い声と全く同じだった。
葉羽は恐怖に襲われた。幻覚ではない。ピエロは確かに存在する。そして、それは、この装置によって作り出されたものなのだ。
その時、葉羽は部屋の隅に置かれた小さな箱に気づいた。箱を開けると、中には無数のファイルが保管されていた。ファイルには、患者たちの名前が書かれている。葉羽は自分の名前が書かれたファイルを探し出し、中を開けた。
ファイルには、葉羽自身に関する詳細なデータが記録されていた。生年月日、住所、家族構成、そして……過去のトラウマ。
葉羽は愕然とした。院長は、葉羽の個人情報だけでなく、彼の深層心理までをも把握していたのだ。そして、その情報を使って、葉羽に「ピエロの幻覚」を見せようとしていたのだ。
その時、隠し部屋の扉が開き、灰塚院長が入ってきた。
「君は何をしている!」
院長は怒りに満ちた声で叫んだ。葉羽は装置の前に立ち、院長を睨みつけた。
「貴様は……一体何を企んでいる!」
「これは……一体何なんだろう?」
彩由美が不安そうに呟いた。葉羽は首を振り、
「まだ分からない。だが、院長がこの装置を隠していたということは、何か重要なものなのは間違いない」
と答えた。その時、葉羽は装置の底面に小さな刻印があることに気づいた。刻印には、「HANE」という文字が刻まれていた。
「HANE……羽?」
葉羽は自分の名前に酷似した文字列に驚き、装置を凝視した。これは単なる偶然なのか、それとも何かのメッセージなのか? 考えを巡らせる葉羽の脳裏に、資料室で見つけた写真が蘇る。歪んだ笑みを浮かべたピエロと、幼い灰塚院長。そして、院長の倫理的に問題のある実験……。
「倫理的に問題のある実験……羽……ピエロ……」
葉羽は呟きながら、断片的な情報を繋ぎ合わせようとしていた。その時、彼の脳裏に一つの閃きが降りてきた。
「もしかして……院長は、人間の精神を操作する実験を行っているのではないか?」
葉羽は息を呑んだ。もし、その仮説が正しければ、患者たちが見ている「ピエロ」は、単なる幻覚ではなく、人為的に作り出されたものかもしれない。そして、この装置がその実験に用いられているとしたら……。
「葉羽君、何を考えているの?」
彩由美の問いかけに、葉羽は自分の考えを説明した。彩由美は驚き、恐怖に慄いた。
「そんな……そんなことが本当にできるの?」
「分からない。だが、可能性としては否定できない」
葉羽は真剣な表情で答えた。そして、
「もう一度、資料室に行ってみよう。何か見落としているものがあるかもしれない」
と提案した。彩由美は不安そうだったが、葉羽の決意に頷いた。
二人は再び廊下を歩き、資料室へと向かった。幸いにも、院長に見つかることはなかった。資料室に入り、葉羽は念入りに部屋を調べ始めた。本棚、机、そして壁の装飾まで、くまなくチェックした。
その時、葉羽は壁に掛けられた一枚の絵画に目が留まった。それは、クロウ・ハウスの外観を描いた風景画だった。一見、何の変哲もない絵画だが、葉羽は絵画の左下に小さなボタンがあることに気づいた。
葉羽がボタンを押すと、絵画がスライドして壁が開き、隠し部屋への入り口が現れた。
「これは……」
彩由美は驚きの声を上げた。葉羽は懐中電灯を取り出し、隠し部屋の中へと足を踏み入れた。
隠し部屋は、資料室よりもさらに狭く、薄暗い空間だった。部屋の中央には、一台の機械が置かれている。機械は複雑な配線で繋がれ、モニターには様々なデータが表示されている。
「これは……まさか」
葉羽は息を呑んだ。それは、資料室で手に入れた装置よりもはるかに大きく、複雑な構造をしていた。そして、機械の側面には、「Hallucination Induction Device」(幻覚誘導装置)と書かれたプレートが取り付けられていた。
葉羽の仮説は正しかった。灰塚院長は、この装置を使って患者たちに幻覚を見させていたのだ。葉羽は装置に近づき、モニターに表示されているデータを確認した。そこには、音波、光、電磁波といった様々なデータが表示されている。そして、それらのデータは、特定の周波数に設定されていることに気づいた。
「この周波数は……」
葉羽は資料室で見つけたメモを取り出した。メモに書かれていた数字と記号は、この周波数と一致していた。葉羽は、この装置が特定の周波数を用いて、人間の脳に直接作用し、幻覚を生成していることを理解した。
その時、葉羽はモニターに映し出された映像に気づいた。それは、ピエロの映像だった。不気味な笑みを浮かべたピエロが、画面の中を動き回っている。
「これが……患者たちが見ているピエロか」
葉羽は呟いた。その時、背後から不気味な笑い声が聞こえてきた。葉羽が振り返ると、そこには誰もいない。しかし、笑い声は確かに聞こえた。そして、その笑い声は、モニターに映し出されたピエロの笑い声と全く同じだった。
葉羽は恐怖に襲われた。幻覚ではない。ピエロは確かに存在する。そして、それは、この装置によって作り出されたものなのだ。
その時、葉羽は部屋の隅に置かれた小さな箱に気づいた。箱を開けると、中には無数のファイルが保管されていた。ファイルには、患者たちの名前が書かれている。葉羽は自分の名前が書かれたファイルを探し出し、中を開けた。
ファイルには、葉羽自身に関する詳細なデータが記録されていた。生年月日、住所、家族構成、そして……過去のトラウマ。
葉羽は愕然とした。院長は、葉羽の個人情報だけでなく、彼の深層心理までをも把握していたのだ。そして、その情報を使って、葉羽に「ピエロの幻覚」を見せようとしていたのだ。
その時、隠し部屋の扉が開き、灰塚院長が入ってきた。
「君は何をしている!」
院長は怒りに満ちた声で叫んだ。葉羽は装置の前に立ち、院長を睨みつけた。
「貴様は……一体何を企んでいる!」
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