時間の錯覚と虚偽記憶

葉羽

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7章

未来からの警告

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第7章:未来からの警告

過去の町並みの中で、葉羽と彩由美は年老いた佐倉量子と向き合っていた。二人の頭の中は混乱と疑問で一杯だった。

「どういうことだ?」葉羽は冷静さを取り戻そうと努めながら尋ねた。「なぜ僕たちをここに連れてきた?」

佐倉は深いため息をついた。「説明する時間はあまりない。でも、君たちに知ってほしいことがある」

彼は周囲を見回し、人気のない路地へと二人を導いた。

「私は未来から来た」佐倉は静かに話し始めた。「そして、君たちも未来に深く関わっている」

彩由美は困惑した表情で佐倉を見つめた。「私たちが...未来に?」

佐倉はうなずいた。「そう。君たち二人の行動が、未来の世界を大きく左右するんだ」

葉羽は眉をひそめた。「具体的に何が起こるんだ?」

「量子実験の暴走だ」佐倉の表情が暗くなった。「時空の歪みが制御不能になり、過去と未来が混ざり合ってしまう。その結果、世界は chaos に陥る」

彩由美は震える声で尋ねた。「でも、どうして私たちが...」

「君たちには特別な能力がある」佐倉は真剣な眼差しで二人を見た。「時空の歪みを感知し、影響を受けにくい体質なんだ。それは、あの青い光を浴びたときに目覚めた」

葉羽は深く考え込んだ。「つまり、僕たちにしか止められないということか」

「その通りだ」佐倉は頷いた。「しかし、それには大きなリスクが伴う。君たちは...」

突然、空が光り、轟音が鳴り響いた。佐倉の表情が急変した。

「もう時間がない!」彐はポケットから小さなデバイスを取り出した。「これを持っていけ。使い方は後で分かる」

葉羽がそれを受け取ると同時に、周囲の景色が再び歪み始めた。

「待ってください!」彩由美が叫んだ。「私たち、何をすればいいの?」

佐倉の姿が徐々に透明になっていく中、彼の声だけが響いた。

「過去を変えるな。ただ、未来を守れ」

次の瞬間、葉羽と彩由美は元の時代、学校の屋上に戻っていた。

二人は言葉もなく、お互いを見つめ合った。手の中のデバイスが、全てが現実だったことを物語っていた。

「葉羽くん...」彩由美の声が震えていた。「私たち、どうすればいいの?」

葉羽は深く息を吐いた。「まずは冷静になることだ。そして、このデバイスの秘密を解き明かす」

彼は慎重にデバイスを見つめた。小さな画面には意味不明な数列が表示されていた。

「これは...座標か?それとも時間軸?」葉羽は呟いた。

彩由美は葉羽の肩に手を置いた。「一緒に解読しよう。私にもできることがあるはず」

葉羽は微笑んだ。「ああ、君の力が必要だ」

二人は決意を新たにし、デバイスの解読に取り掛かった。しかし、その瞬間、教室から佐倉量子 - 現在の佐倉 - が出てくるのが見えた。

彼は二人を見つけると、一瞬驚いたような表情を見せた。しかし、すぐに普段の無表情に戻った。

「放課後、図書室で会おう」佐倉はそう言い残すと、立ち去った。

葉羽と彩由美は顔を見合わせた。未来からの警告、不思議なデバイス、そして現在の佐倉からの招待。全てが複雑に絡み合い、二人を予測不可能な運命へと導いていく。

「行くよ」葉羽は静かに言った。「でも用心しよう。未来を守るために」

彩由美はうなずいた。「うん。私たち、きっと大丈夫」

二人は固く手を握り合った。未知の危険が待ち受けているかもしれない。しかし、二人の絆があれば、どんな困難も乗り越えられるはずだ。

時計の針が、運命の時を刻み始めていた。
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