声の響く洋館

葉羽

文字の大きさ
上 下
7 / 11
7章

声の正体

しおりを挟む
神藤葉羽は、冷気が漂う部屋の中で、手に持った本のページをめくり続けた。周囲の静寂が彼の心を圧迫する中、彼は失踪した友人の声がどうしてここに繋がるのかを理解しようと必死だった。彩由美は心配そうに彼のそばに立っていたが、葉羽の決意を見ていると、少しずつ安心感を取り戻しつつあった。

「葉羽くん…何が書いてあるの?」彩由美が尋ねる。

「この家族の歴史には、彼らが住んでいたこの洋館で起こった奇怪な出来事がたくさん記されている。失踪した人々のことや、彼らが聞いたという声についても…」葉羽はページをめくりながら説明した。

「声?」彩由美の目が大きくなった。「それって、私たちも聞いたあの声のこと?」

「そうだ。失踪した人たちも、同じように声を聞いていたみたいだ。この家族の中には、声に導かれて行動する人が多かったらしい。そして、その声が彼らを不幸に導くことが多かったという記録がある。」葉羽はページを指さしながら、興奮を隠せなかった。

「じゃあ、その声は…」彩由美は言葉を詰まらせる。「この家族が何かに囚われているってこと?」

「そう思う。失踪した友人も、何かに引き寄せられるようにしてこの洋館に来たのかもしれない。」葉羽は考え込みながら、ページを一つずつ進めていった。

その時、再び冷たい風が吹き抜け、部屋の中が一瞬凍りついた。葉羽はその異様な空気に背筋がぞくぞくした。まるで誰かが彼らを見守っているかのように感じた。

「葉羽くん、何かおかしいよ…」彩由美は恐れを隠せずに言った。「この家、私たちを試しているのかもしれない。」

「試す?どういうこと?」葉羽は疑問に思った。

「この声が、私たちをここに引き寄せているんじゃないかって…。私たちがこの家族の一員として、何かを知るために呼ばれているのかも。」彩由美の言葉は、彼の心に重くのしかかった。

「それなら、俺たちがこの声の正体を突き止めないといけない。」葉羽は決意を新たにし、再度本に目を戻した。彼は今まで以上に真実を求める気持ちが強くなっていた。

ページをめくると、ある一節が目に飛び込んできた。

**「声は、過去の悲劇を繰り返す。彼らは助けを求め、永遠にこの家に囚われる。」**

「これだ…」葉羽はつぶやき、目を見開いた。「この声は、過去の住人たちが未練を抱えているからこそ、今も響いているのかもしれない。」

「じゃあ、その未練を解消しない限り、私たちはこの家から出られないってこと?」彩由美は恐怖で震えながら言った。

「そうなるかもしれない。だから、俺たちはこの声が何を求めているのか、真相を知る必要がある。」葉羽は意を決し、部屋の中をさらに探ることにした。

「葉羽くん、どこを探すの?」彩由美は不安そうに尋ねる。

「この部屋の奥に、何か手がかりが隠されているかもしれない。もう少し調べてみよう。」葉羽は、部屋の隅にある古いキャビネットに目を向けた。

二人はキャビネットの前に立ち、慎重に扉を開ける。中には古い書類や本、さらには何かの道具が詰め込まれていた。葉羽はその中から、一冊の古びた日記を見つけ出した。

「これ、もしかして…」葉羽は日記を手に取り、表紙を見つめた。「誰かの記録かもしれない。」

「開いてみて、葉羽くん。」彩由美は興味津々で言った。

葉羽は日記を開き、最初のページをめくった。そこには、家族の一員が書いたと思われる文章が綴られていた。

**「私は、声を聞いてしまった。声は私に助けを求め、私をこの家に留めている。逃げようと思ったが、逃げられない。」**

「やっぱり、あの声は…」葉羽は言葉を失った。

「この家族が、声に引き寄せられてしまったんだ…」彩由美は恐れを抱きながら言った。

葉羽はさらにページをめくり、次の記録を読み進めた。そこには、家族の一人がどのようにして声に導かれ、最終的には行方不明になったのかが詳細に記されていた。

**「声は私を呼び、私はその声に従った。だが、私は気づいた時にはもう遅かった。声は私を引き裂き、永遠にこの家に囚われる運命にした。」**

「この家には、何か恐ろしい力があるのかもしれない…」葉羽は頭を抱えた。「俺たちがこの声を理解できなければ、同じ運命を辿ることになる。」

「葉羽くん、どうしたらいいの?」彩由美は不安な表情を浮かべた。

「声の正体を知るためには、過去の住人たちの思いを解き明かさなければならない。彼らの未練を理解し、解消する手助けをしないと…」葉羽は言葉を続けた。「それが、俺たちがこの家から出るための唯一の方法かもしれない。」

その時、突如として部屋の空気が変わり、再びあの声が響いた。「助けて…」

葉羽と彩由美は驚いて顔を見合わせた。声は彼らの耳元でささやくように、切実に求めている。

「声の正体を知るために、俺たちができることを探そう。」葉羽は決意を新たにし、再び日記のページをめくった。彼の心には、声が伝えようとしている真実を解き明かす使命感が芽生えていた。

果たして、彼らはこの声の正体を突き止め、過去の悲劇を解消することができるのか。そして、洋館に隠された真実が明らかになるとき、二人の運命はどうなるのか。葉羽はその先に待ち受ける運命に、どこか期待を抱きながら進むのだった。 

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

密室島の輪舞曲

葉羽
ミステリー
夏休み、天才高校生の神藤葉羽は幼なじみの望月彩由美とともに、離島にある古い洋館「月影館」を訪れる。その洋館で連続して起きる不可解な密室殺人事件。被害者たちは、内側から完全に施錠された部屋で首吊り死体として発見される。しかし、葉羽は死体の状況に違和感を覚えていた。 洋館には、著名な実業家や学者たち12名が宿泊しており、彼らは謎めいた「月影会」というグループに所属していた。彼らの間で次々と起こる密室殺人。不可解な現象と怪奇的な出来事が重なり、洋館は恐怖の渦に包まれていく。

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

月明かりの儀式

葉羽
ミステリー
神藤葉羽と望月彩由美は、幼馴染でありながら、ある日、神秘的な洋館の探検に挑むことに決めた。洋館には、過去の住人たちの悲劇が秘められており、特に「月明かりの間」と呼ばれる部屋には不気味な伝説があった。二人はその場所で、古い肖像画や日記を通じて、禁断の儀式とそれに伴う呪いの存在を知る。 儀式を再現することで過去の住人たちを解放できるかもしれないと考えた葉羽は、仲間の彩由美と共に儀式を行うことを決意する。しかし、儀式の最中に影たちが現れ、彼らは過去の記憶を映し出しながら、真実を求めて叫ぶ。過去の住人たちの苦しみと後悔が明らかになる中、二人はその思いを受け止め、解放を目指す。 果たして、葉羽と彩由美は過去の悲劇を乗り越え、住人たちを解放することができるのか。そして、彼ら自身の運命はどうなるのか。月明かりの下で繰り広げられる、謎と感動の物語が展開されていく。

深淵の迷宮

葉羽
ミステリー
東京の豪邸に住む高校2年生の神藤葉羽は、天才的な頭脳を持ちながらも、推理小説の世界に没頭する日々を送っていた。彼の心の中には、幼馴染であり、恋愛漫画の大ファンである望月彩由美への淡い想いが秘められている。しかし、ある日、葉羽は謎のメッセージを受け取る。メッセージには、彼が憧れる推理小説のような事件が待ち受けていることが示唆されていた。 葉羽と彩由美は、廃墟と化した名家を訪れることに決めるが、そこには人間の心理を巧みに操る恐怖が潜んでいた。次々と襲いかかる心理的トラップ、そして、二人の間に生まれる不穏な空気。果たして彼らは真実に辿り着くことができるのか?葉羽は、自らの推理力を駆使しながら、恐怖の迷宮から脱出することを試みる。

孤島の洋館と死者の証言

葉羽
ミステリー
高校2年生の神藤葉羽は、学年トップの成績を誇る天才だが、恋愛には奥手な少年。彼の平穏な日常は、幼馴染の望月彩由美と過ごす時間によって色付けされていた。しかし、ある日、彼が大好きな推理小説のイベントに参加するため、二人は不気味な孤島にある古びた洋館に向かうことになる。 その洋館で、参加者の一人が不審死を遂げ、事件は急速に混沌と化す。葉羽は推理の腕を振るい、彩由美と共に事件の真相を追い求めるが、彼らは次第に精神的な恐怖に巻き込まれていく。死者の霊が語る過去の真実、参加者たちの隠された秘密、そして自らの心の中に潜む恐怖。果たして彼らは、事件の謎を解き明かし、無事にこの恐ろしい洋館から脱出できるのか?

暗闇の中の囁き

葉羽
ミステリー
名門の作家、黒崎一郎が自らの死を予感し、最後の作品『囁く影』を執筆する。その作品には、彼の過去や周囲の人間関係が暗号のように隠されている。彼の死後、古びた洋館で起きた不可解な殺人事件。被害者は、彼の作品の熱心なファンであり、館の中で自殺したかのように見せかけられていた。しかし、その背後には、作家の遺作に仕込まれた恐ろしいトリックと、館に潜む恐怖が待ち受けていた。探偵の名探偵、青木は、暗号を解読しながら事件の真相に迫っていくが、次第に彼自身も館の恐怖に飲み込まれていく。果たして、彼は真実を見つけ出し、恐怖から逃れることができるのか?

雌犬、女子高生になる

フルーツパフェ
大衆娯楽
最近は犬が人間になるアニメが流行りの様子。 流行に乗って元は犬だった女子高生美少女達の日常を描く

無限の迷路

葉羽
ミステリー
豪華なパーティーが開催された大邸宅で、一人の招待客が密室の中で死亡して発見される。部屋は内側から完全に施錠されており、窓も塞がれている。調査を進める中、次々と現れる証拠品や証言が事件をますます複雑にしていく。

処理中です...