声の響く洋館

5章

謎の録音

地下室の薄暗い空間に足を踏み入れた神藤葉羽と望月彩由美は、恐怖と興奮が交錯する中で、さらに奥へと進んでいった。湿った空気が肌を撫で、古い木材の匂いが鼻をつく。葉羽は懐中電灯の光を頼りに、周囲を注意深く照らしながら、何か手がかりが見つかることを期待していた。

「この地下室、なんだか不気味だね…」彩由美は声をひそめて言った。彼女の目には恐れが浮かんでおり、葉羽の後ろにぴったりと寄り添っていた。

「でも、何か重要なものが隠されているかもしれない。失踪した友人のことも、この地下室に何か関係があるんじゃないかな。」葉羽は自分自身を奮い立たせるように言った。

さらに進むと、壁の一部が崩れている場所を見つけた。葉羽はその隙間を覗き込み、何か物が落ちているのを発見した。「見て、あそこに何かある！」

彼は手を伸ばして、隙間から物を引き出した。それは古びた録音機だった。埃をかぶり、長い間放置されていたようだったが、まだ動作する気配を感じさせる。

「これ、録音機だよ。もしかしたら、ここで何か録音されたものがあるかもしれない。」葉羽は興奮を隠せず、彩由美に見せた。

「それ、どうやって使うの？」彩由美は不安げに訊ねる。

「俺がやってみるよ。」葉羽は録音機の電源を入れ、再生ボタンを押す。すると、機械がかすかな音を立て、静かに動き始めた。

最初に流れ出したのは、ノイズ混じりの音だった。だが、次第に、何かが聞こえてきた。それは、かすかな声で「助けて…」と繰り返す音だった。葉羽はその声を聞いて、背筋が凍りつく思いをした。

「これ…失踪した友人の声？」彩由美は恐れに満ちた目で葉羽を見つめた。

「おそらく…」葉羽は答えた。「彼がここで何かを録音したのかもしれない。」

録音が続く中で、声は次第に明瞭になり、彼の恐れや絶望が伝わってくる。葉羽はその声に引き込まれ、まるで彼の側にいるかのような錯覚を覚えた。「もう、逃げられない…」という言葉が響き渡る。

「これ、どういうことなの？」彩由美の声は震えていた。「本当に、何が起こったのか…」

葉羽はその録音を止め、録音機をじっと見つめた。「この声は、彼がこの洋館で何か恐ろしい経験をした結果なんだ。もしかしたら、俺たちが見つけるべき真実がまだ隠されている。」

彼は録音機を持ち上げ、周囲を見回した。「もっと詳しく調べないと。失踪した友人が何を体験したのか、知る必要がある。」

「でも、葉羽くん…もう帰ったほうがいいんじゃない？ここには何か恐ろしいものがいる気がする。」彩由美は不安を隠しきれずに言った。

「分かってる。恐いけど、俺たちがこのまま帰ったら、何も解決しない。俺たちが知るべきことを知りたいんだ。」葉羽は決意を固めた。

再び録音機を起動し、再生ボタンを押した。今度は、さらに長い音声が流れ始めた。そこには、失踪した友人の恐怖の叫びや、何かから逃げようとする様子が記録されていた。「誰かが後ろにいる…助けてくれ…」

その瞬間、葉羽は体を強張らせた。まるでその声が自分の耳元でささやいているかのように感じた。彼は恐怖を感じながらも、その声に引き寄せられるように、さらに録音を進めた。

「もう、逃げられない。誰か助けて…」

その言葉が繰り返される中、彩由美は急に目を見開き、恐れが増す。「葉羽くん、やっぱりここから出よう。何かが起こる前に…」

「少し待って、もう一度だけ聞かせて。」葉羽は録音機のボタンを押し続けた。その瞬間、突然、録音が途切れ、機械が異常な音を発し始めた。まるで誰かが無理やり止めようとしているかのように、雑音が響き渡る。

「何だ、これ？」葉羽は驚いて録音機を覗き込んだ。機械はバチバチと音を立て、まるで異常を訴えているかのようだった。

「葉羽くん、もう本当に帰ろうよ…」彩由美は声を震わせながら言った。

その時、彼らの背後から、かすかな足音が聞こえた。葉羽は振り返り、何かが近づいている気配を感じた。部屋の暗闇の中から、誰かがじっとこちらを見ているような気がした。

「誰かいるのか？」葉羽は叫び声を上げた。

しかし、返事はなかった。ただ、重苦しい静寂だけが二人を包み込んでいた。葉羽は心臓が高鳴り、恐怖で体が硬直した。何かが、彼らに迫っている。

「もう、出よう！」彩由美は不安に駆られ、葉羽の腕を掴んだ。

葉羽もその言葉に従い、急いで地下室を後にした。彼らの心には、一体何が待ち受けているのかという不安が渦巻いていた。果たして、この洋館には何が隠されているのか。そして、失踪した友人の声の真相はどこにあるのか。葉羽はその疑問を胸に抱えながら、急いで出口へと向かうのだった。