5 / 7
5章
存在の境界
しおりを挟む
意識が戻った時、そこは霧島研究所の最深部だった。
「ここが...研究所の核心部」 俺は周囲を見回す。
円形の巨大な空間。壁一面に並ぶコンピュータ群。中央には、先ほどのチャンバーの原型と思われる装置。そして...
「葉羽くん!」 彩由美の声が響く。しかし、その声は一つの場所から聞こえるのではなく、空間全体から降り注ぐように聞こえた。
彼女の姿が、幾重にも重なって見える。まるで、量子状態の重ね合わせのように。
「私、どうなってるの...?」
その時、俺は自分の体にも異変が起きていることに気付く。手を透かして向こう側が見える。そして、体の模様が、これまでにない輝きを放っていた。
「解離が始まっています」
振り向くと、そこには霧島教授と水沢真理が同時に存在していた。二人の姿が、波のように揺らめきながら、時に重なり、時に分離する。
「解離?」 俺は問う。
「意識の量子化」 教授が答える。その声は、水沢の声と完全に同期している。 「あなたたちの意識が、量子状態へと移行している」
突然、装置が稼働し始めた。無数のデータが壁面を流れ、空気が振動を帯びる。
「でも、おかしいですよね」 俺は必死に思考を整理する。 「なぜ、教授は自分の実験を...自分自身を消そうとした?」
その瞬間。 教授と水沢の表情が凍りつく。
「さすがです」 二人の声が完全に分離する。 「気付きましたか」
「ああ」 俺は確信を持って続ける。 「これは実験なんかじゃない。これは...」
「救済」 水沢が言葉を継ぐ。 「人類の、この三次元という檻からの」
しかし、俺は首を振る。 「違う。これは...封印」
教授の姿が激しく歪む。
「人間の意識を量子化することで、存在そのものを曖昧にする。なぜって...」
その時、彩由美が叫ぶ。 「葉羽くん、見て!」
壁面に新たなデータが流れ始めていた。
『次元侵食プロトコル:実行中』 『異次元存在:封印状態』 『量子バリア:87%展開』
「まさか...」 俺の声が震える。 「この実験の本当の目的は...」
「人類を守るためです」 教授の声が、悲しみを帯びる。 「彼ら」から」
「彼らって...」 彩由美の声が不安を滲ませる。空間が大きく波打ち、壁面に映し出されるデータが加速度的に流れ始める。
「人類は独りじゃない」 教授の声が重く響く。 「私たちの知覚できない次元に、別の知的生命体が存在する。そして彼らは...私たちの世界に介入し始めている」
「量子もつれ実験は、その副産物だった」 水沢が続ける。 「本当の目的は、彼らの存在を検知し、封じ込めること」
その時、装置が警告音を発し始めた。
『警告:次元境界崩壊』 『異次元存在:封印解除47%』 『緊急プロトコル起動』
「見えます」 彩由美の声が震える。 「私には見える...私たちの世界に重なる、別の世界が」
彼女の体の模様が激しく明滅し、その周囲の空間が歪み始める。そこに、人知を超えた「何か」の輪郭が浮かび上がる。
描写不能な形態。人間の認識を超えた存在。 その一部が、彩由美の意識に触れようとしていた。
「だめだ!」 俺は叫ぶ。 「彩由美の量子状態が、次元の扉を開いてしまう!」
教授が急いで装置を操作する。 「このままでは、封印が完全に解ける。人類の意識が、彼らの餌食に...」
その瞬間、俺は全てを理解した。
「だから教授は自分を量子化した」 「霧島教授自身が、封印の要だった」
水沢が頷く。 「でも、一人の意識では足りない。より強力な封印のために...」
「僕たちを選んだ」 俺は自分の体の模様を見つめる。 「若く、可能性を秘めた意識を」
突然、警告音が激化する。 空間が引き裂かれるような音。 そして...
「葉羽くん!」 彩由美の悲鳴。
彼女の周りの空間が、まるでガラスが割れるように砕け始める。その隙間から、「彼ら」の触手のような存在が...
「まだ間に合う!」 俺は叫ぶ。 「僕には分かった。この装置の本当の使い方が」
教授と水沢が驚いた表情を見せる。
「霧島教授は間違っていた」 俺は急いで説明する。 「封印に必要なのは、意識の量子化じゃない」
装置に駆け寄りながら、俺は続ける。 「必要なのは...」
その時、俺の体の模様が最大の輝きを放つ。 同時に、彩由美の模様も呼応するように煌めく。
「意識の共鳴」
俺は確信を持って、最後のボタンを押した。
空間が激しく振動し、光が渦を巻く。 そして...
「これが、本当の量子の檻」
装置が、俺たちの意識が、そして空間そのものが、想像もつかない方向へと歪んでいく。
最後に見たのは、教授と水沢の安堵の表情。 そして、彩由美の必死に手を伸ばす姿。
意識が闇に溶けていく直前、俺は確信していた。
これは終わりではない。 新たな戦いの始まりだ。
人類の意識と、異次元の存在との、果てしない戦いの...。
「ここが...研究所の核心部」 俺は周囲を見回す。
円形の巨大な空間。壁一面に並ぶコンピュータ群。中央には、先ほどのチャンバーの原型と思われる装置。そして...
「葉羽くん!」 彩由美の声が響く。しかし、その声は一つの場所から聞こえるのではなく、空間全体から降り注ぐように聞こえた。
彼女の姿が、幾重にも重なって見える。まるで、量子状態の重ね合わせのように。
「私、どうなってるの...?」
その時、俺は自分の体にも異変が起きていることに気付く。手を透かして向こう側が見える。そして、体の模様が、これまでにない輝きを放っていた。
「解離が始まっています」
振り向くと、そこには霧島教授と水沢真理が同時に存在していた。二人の姿が、波のように揺らめきながら、時に重なり、時に分離する。
「解離?」 俺は問う。
「意識の量子化」 教授が答える。その声は、水沢の声と完全に同期している。 「あなたたちの意識が、量子状態へと移行している」
突然、装置が稼働し始めた。無数のデータが壁面を流れ、空気が振動を帯びる。
「でも、おかしいですよね」 俺は必死に思考を整理する。 「なぜ、教授は自分の実験を...自分自身を消そうとした?」
その瞬間。 教授と水沢の表情が凍りつく。
「さすがです」 二人の声が完全に分離する。 「気付きましたか」
「ああ」 俺は確信を持って続ける。 「これは実験なんかじゃない。これは...」
「救済」 水沢が言葉を継ぐ。 「人類の、この三次元という檻からの」
しかし、俺は首を振る。 「違う。これは...封印」
教授の姿が激しく歪む。
「人間の意識を量子化することで、存在そのものを曖昧にする。なぜって...」
その時、彩由美が叫ぶ。 「葉羽くん、見て!」
壁面に新たなデータが流れ始めていた。
『次元侵食プロトコル:実行中』 『異次元存在:封印状態』 『量子バリア:87%展開』
「まさか...」 俺の声が震える。 「この実験の本当の目的は...」
「人類を守るためです」 教授の声が、悲しみを帯びる。 「彼ら」から」
「彼らって...」 彩由美の声が不安を滲ませる。空間が大きく波打ち、壁面に映し出されるデータが加速度的に流れ始める。
「人類は独りじゃない」 教授の声が重く響く。 「私たちの知覚できない次元に、別の知的生命体が存在する。そして彼らは...私たちの世界に介入し始めている」
「量子もつれ実験は、その副産物だった」 水沢が続ける。 「本当の目的は、彼らの存在を検知し、封じ込めること」
その時、装置が警告音を発し始めた。
『警告:次元境界崩壊』 『異次元存在:封印解除47%』 『緊急プロトコル起動』
「見えます」 彩由美の声が震える。 「私には見える...私たちの世界に重なる、別の世界が」
彼女の体の模様が激しく明滅し、その周囲の空間が歪み始める。そこに、人知を超えた「何か」の輪郭が浮かび上がる。
描写不能な形態。人間の認識を超えた存在。 その一部が、彩由美の意識に触れようとしていた。
「だめだ!」 俺は叫ぶ。 「彩由美の量子状態が、次元の扉を開いてしまう!」
教授が急いで装置を操作する。 「このままでは、封印が完全に解ける。人類の意識が、彼らの餌食に...」
その瞬間、俺は全てを理解した。
「だから教授は自分を量子化した」 「霧島教授自身が、封印の要だった」
水沢が頷く。 「でも、一人の意識では足りない。より強力な封印のために...」
「僕たちを選んだ」 俺は自分の体の模様を見つめる。 「若く、可能性を秘めた意識を」
突然、警告音が激化する。 空間が引き裂かれるような音。 そして...
「葉羽くん!」 彩由美の悲鳴。
彼女の周りの空間が、まるでガラスが割れるように砕け始める。その隙間から、「彼ら」の触手のような存在が...
「まだ間に合う!」 俺は叫ぶ。 「僕には分かった。この装置の本当の使い方が」
教授と水沢が驚いた表情を見せる。
「霧島教授は間違っていた」 俺は急いで説明する。 「封印に必要なのは、意識の量子化じゃない」
装置に駆け寄りながら、俺は続ける。 「必要なのは...」
その時、俺の体の模様が最大の輝きを放つ。 同時に、彩由美の模様も呼応するように煌めく。
「意識の共鳴」
俺は確信を持って、最後のボタンを押した。
空間が激しく振動し、光が渦を巻く。 そして...
「これが、本当の量子の檻」
装置が、俺たちの意識が、そして空間そのものが、想像もつかない方向へと歪んでいく。
最後に見たのは、教授と水沢の安堵の表情。 そして、彩由美の必死に手を伸ばす姿。
意識が闇に溶けていく直前、俺は確信していた。
これは終わりではない。 新たな戦いの始まりだ。
人類の意識と、異次元の存在との、果てしない戦いの...。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
ピエロの嘲笑が消えない
葉羽
ミステリー
天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美から奇妙な相談を受ける。彼女の叔母が入院している精神科診療所「クロウ・ハウス」で、不可解な現象が続いているというのだ。患者たちは一様に「ピエロを見た」と怯え、精神を病んでいく。葉羽は、彩由美と共に診療所を訪れ、調査を開始する。だが、そこは常識では計り知れない恐怖が支配する場所だった。患者たちの証言、院長の怪しい行動、そして診療所に隠された秘密。葉羽は持ち前の推理力で謎に挑むが、見えない敵は彼の想像を遥かに超える狡猾さで迫ってくる。ピエロの正体は何なのか? 診療所で何が行われているのか? そして、葉羽は愛する彩由美を守り抜き、この悪夢を終わらせることができるのか? 深層心理に潜む恐怖を暴き出す、戦慄の本格推理ホラー。
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子
ちひろ
恋愛
マッサージ師にそれっぽい理由をつけられて、乳首とクリトリスをいっぱい弄られた後、ちゃっかり手マンされていっぱい潮吹きしながらイッちゃう女の子の話。
Fantiaでは他にもえっちなお話を書いてます。よかったら遊びに来てね。
小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話
矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」
「あら、いいのかしら」
夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……?
微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。
※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。
※小説家になろうでも同内容で投稿しています。
※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。
幼なじみとセックスごっこを始めて、10年がたった。
スタジオ.T
青春
幼なじみの鞠川春姫(まりかわはるひめ)は、学校内でも屈指の美少女だ。
そんな春姫と俺は、毎週水曜日にセックスごっこをする約束をしている。
ゆるいイチャラブ、そしてエッチなラブストーリー。
「鏡像のイデア」 難解な推理小説
葉羽
ミステリー
豪邸に一人暮らしする天才高校生、神藤葉羽(しんどう はね)。幼馴染の望月彩由美との平穏な日常は、一枚の奇妙な鏡によって破られる。鏡に映る自分は、確かに自分自身なのに、どこか異質な存在感を放っていた。やがて葉羽は、鏡像と現実が融合する禁断の現象、「鏡像融合」に巻き込まれていく。時を同じくして街では異形の存在が目撃され、空間に歪みが生じ始める。鏡像、異次元、そして幼馴染の少女。複雑に絡み合う謎を解き明かそうとする葉羽の前に、想像を絶する恐怖が待ち受けていた。
影蝕の虚塔 - かげむしばみのきょとう -
葉羽
ミステリー
孤島に建つ天文台廃墟「虚塔」で相次ぐ怪死事件。被害者たちは皆一様に、存在しない「何か」に怯え、精神を蝕まれて死に至ったという。天才高校生・神藤葉羽は、幼馴染の望月彩由美と共に島を訪れ、事件の謎に挑む。だが、彼らを待ち受けていたのは、常識を覆す恐るべき真実だった。歪んだ視界、錯綜する時間、そして影のように忍び寄る「異形」の恐怖。葉羽は、科学と論理を武器に、目に見えない迷宮からの脱出を試みる。果たして彼は、虚塔に潜む戦慄の謎を解き明かし、彩由美を守り抜くことができるのか? 真実の扉が開かれた時、予測不能のホラーが読者を襲う。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる