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3章

絶対密室の謎

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葉羽と彩由美が「禁じられた部屋」の不気味さに圧倒されながらも、扉を後にしたとき、屋敷全体が異様な静けさに包まれていた。背後の扉が静かに閉まり、再び重い足音が遠くから聞こえ始める――まるで二人を監視するように、ゆっくりと不規則なリズムで。

「……次はどこだろう?」  
葉羽は短く息をつき、屋敷の奥を見据えた。いくつもの廊下と扉が交差する迷路のような構造。その先に、彼が確信している「答え」があるはずだ。

「ねぇ葉羽、これ……本当に続けるの?」  
彩由美の声には明らかに不安が混じっていた。彼女の大きな瞳が怯えるように葉羽を見つめる。

葉羽は一瞬立ち止まり、彼女に向き直った。  
「俺だって、不安がないわけじゃない。でも……何かが俺たちをここに引き寄せた。これを解かないと、たぶんずっとモヤモヤしたままだ。」

そう言いながらも、葉羽の胸中には得体の知れない恐怖が忍び寄っていた。屋敷の異常な空気、時間感覚の狂い、それに耳元で囁く不気味な声。すべてがまるで葉羽たちを試しているかのようだった。しかし、彼は自分の好奇心がそれ以上の恐怖に打ち勝つことを知っていた。

---

二人は再び長い廊下を進む。その途中で見つけたのは、古びた絵画や壊れた時計――どれも時代を超えて生き残ったように埃をかぶっているが、どこか不自然な位置に配置されている。葉羽はふと、その配置に意味があるのではないかと思い、じっと観察する。

「彩由美、この時計……気づいたか? 針が全て逆回りしているんだ。」

彼が指さしたのは、廊下の壁に掛かっている大きな時計だった。時間は通常通りに流れているはずだが、この時計は奇妙なことに、全ての針が逆に回っていた。まるで、何かがここでは正しい方向に進んでいないことを示しているかのようだ。

「うわ……なんでこんな風に……」

彩由美は時計を凝視し、寒気が背筋を走るのを感じた。だが、その瞬間、屋敷全体がわずかに揺れた。まるで何かが内部で巨大な歯車を動かし始めたような、低く不気味な音が遠くから響いてくる。

「これは……密室だ。仕掛けられた罠が動き出したんだ。」  
葉羽は冷静さを取り戻し、素早く周囲を見渡した。屋敷の中に張り巡らされた数々の謎は、葉羽がこれまでに読んできた推理小説のあらゆるトリックと重なり合うように見えた。すべては、計算された「謎解き」の一部なのだ。

---

進んだ先にあったのは、見覚えのない一枚の扉だった。だが、その扉の上には不気味な文字が刻まれていた。

「**絶対密室**」

その文字を見た瞬間、葉羽は脳内で一気にピースがはまる音を感じた。「絶対密室」という言葉が何を意味するのか、彼にははっきりと理解できた。これは、いわゆる古典的な推理小説における最高のトリックの一つであり、外部から決して解けない謎を意味している。

「ここに、何かが隠されている……これを解くための鍵が。」

葉羽は扉に手をかけ、そっと開けようとした。だがその瞬間、扉は重々しく軋み、まるで彼に挑戦するかのように開くのを拒んだ。

「おかしいな……何か仕掛けがあるのか?」

葉羽は扉の縁に手を当て、周囲を探り始めた。すると、彼は扉の上部にある小さな隙間に気づいた。そこには、小さな金属の歯車が埋め込まれていたのだ。

「なるほど……これか。」  
彼は素早く歯車を回し、錠前を解除する。すると、扉はゆっくりと開き、二人は中に足を踏み入れた。

---

部屋の中は、まるで別世界だった。窓もなく、外界と完全に切り離された空間。中央には古びた大きな机と、天井から吊るされた奇妙なシャンデリアが光を放っている。だが、その光は薄暗く、全てを不気味に照らし出しているだけだった。

「ここが……絶対密室……?」

彩由美が不安げに部屋の中を見回すが、葉羽は冷静に観察を始める。彼の目はすぐに机の上に置かれた一通の封筒に引き寄せられた。その封筒は、まるで彼らが来ることを予見していたかのように、新品のようにきれいだった。

「『解けるなら、解いてみよ』……か。」  
葉羽は封筒を開け、中の手紙を取り出した。その瞬間、彼は驚愕の声を上げた。

「これ、見ろ……時計が『真実を告げる唯一の証拠』だと書かれている。」

手紙には、部屋の中にある大きな時計が重要な役割を果たすと記されていた。しかし、その時計もまた、奇妙なことに逆回りしていたのだ。

「この逆回りの時計、ただの装飾じゃない……。何か物理的なトリックが仕込まれている。」

葉羽は時計をじっと見つめ、動きを分析し始めた。温度や気圧の影響で時間の進み方が変わるように仕掛けられている――まるで、犯行時刻を偽装するために用意された罠のように。

「これは温度によるトリックだ……!時計の動きが逆回りしているのは、何かしらの仕掛けで犯行時刻を誤魔化すためだ。」  
葉羽は興奮気味に推理を進め、次々と論理を組み立てていった。

しかし、彩由美はその推理に集中する葉羽の後ろで、何かを感じ始めた。彼女の背後、暗闇の中から、かすかな囁き声が聞こえてきたのだ。

「……戻るな……」

彩由美は震えながら振り返る。だが、そこには誰もいない。ただ、冷たい風のような感覚が部屋の中をかすめ、時間が狂っていくような不気味な雰囲気が漂っていた。

---

葉羽はふと彩由美の異変に気づき、彼女に声をかけた。  
「彩由美、大丈夫か?何かおかしいことが……」

だが、その時だった。部屋の中央にあった時計が急に動きを止め、シャンデリアの灯りが一瞬だけ激しく明滅した。部屋全体が暗闇に包まれ、二人は立ち尽くす。

「葉羽……これ、もう普通の謎解きじゃない……!」

彩由美の声が震える。しかし葉羽は、まだ何かに気づいているような表情を浮かべ、時計の前に立った。

「いや、これこそが本当の『絶対密室』の謎だ。俺たちが解かなければ、ここから抜け出すことはできない。」

葉羽の瞳には、解けない謎に挑む覚悟

が映し出されていた。
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