孤島の洋館と死者の証言

葉羽

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5章

死者の影

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夜が深まり、洋館の空気はますます重くなっていた。葉羽と彩由美は、他の参加者たちと共にホールに集まり、次の行動を考えることにした。さっきの揺れが何だったのか、誰もが気にしていたが、誰もその原因を明確に説明できないままだった。

「とにかく、もう一度皆で集まって作戦を練ろう。」高橋が提案した。「この洋館には何かがある。私たちが知っている以上の何かが。」

参加者たちは頷き、ホールの中央に集まる。葉羽はその様子を見ながら、今まで以上に警戒心を高めた。彼の心の中に、何か恐ろしいものが潜んでいるという感覚が広がっていた。

「私たちが見つけた情報を共有しよう。」葉羽が声を上げると、他の参加者たちもそれに続いた。

「書斎の本には、かつてここに住んでいた一家の悲劇が書かれていた。」葉羽は話し始めた。「彼らは、精神的な問題を抱えていたようで、最終的には全員がこの洋館で亡くなったらしい。」

「それ、私も聞いたことがある。本当に怖い話だよね。」美香が言う。「噂では、彼らの霊が今でもこの洋館を徘徊しているって。」

その言葉に、周囲の参加者たちがざわめく。葉羽は一瞬、背筋に冷たいものが走るのを感じた。彼は自分の心の中に浮かぶ不安を振り払おうとしたが、なかなか難しかった。

「じゃあ、今夜はここで寝るの?それとも、どこか別の部屋に移る?」彩由美が心配そうに尋ねた。

「できれば、何か手がかりを見つけるまでここにいたい。みんなで一緒に行動すれば、少しは安心できるだろう。」高橋が提案する。

その直後、突然、洋館の奥からかすかな音が聞こえた。参加者たちは一斉にその音の方を振り向く。音は徐々に大きくなり、まるで誰かが廊下を歩いているかのようだった。

「誰かいるのか?」高橋が声を上げるが、返事はない。音はさらに近づいてきている。葉羽の心臓は早鐘のように鳴り、彩由美の手をしっかりと握りしめた。

「行ってみようか…」葉羽は彩由美に囁いた。彼女は不安そうに頷く。二人は、音のする方へと足を進めた。

廊下を進むにつれ、音はますます大きくなる。葉羽は心の中で、何か怖ろしいものが待ち受けているのではないかと考えた。先ほどの無表情の女性のことが頭をよぎる。

廊下の突き当たりにあるドアの前にたどり着くと、音は突然止まった。葉羽はドアノブに手をかけ、ゆっくりと回した。ドアはきしむ音を立てて開いた。

「誰もいない…」葉羽が呟く。部屋の中は暗く、かすかな月明かりが窓から差し込んでいるだけだった。

そのとき、ふと視線を感じた。葉羽は部屋の隅に目をやると、そこには一人の少女の姿があった。彼女は白いドレスを着ており、長い髪が肩にかかっている。まるでこの世のものではないような、不気味な存在感を放っていた。

「何…?」葉羽は息を呑む。少女の目は虚ろで、何かを訴えかけているように見えた。

「葉羽くん、後ろ…!」彩由美の声が響く。その瞬間、葉羽は背後に冷たい風を感じた。何かが彼の背後に迫っている。恐怖に駆られ、振り向くと、そこには無表情の女性が立っていた。

「あなたたち、ここに何をしに来たの?」彼女の声は冷たく、まるで氷のようだった。

「お、お邪魔しました…」葉羽は口ごもりながら後退る。彩由美も恐怖で震えている。

「ここはあなたたちの来る場所ではない。」女性は一歩前に出て、葉羽たちを見つめた。その視線には何か危険なものが宿っているように感じた。

「何か、私たちに言いたいことがあるのですか?」葉羽は思わず尋ねたが、女性は答えず、ただ静かに立ち尽くしていた。

その瞬間、少女の姿が再び視界に入った。彼女は、まるで助けを求めるかのように手を差し伸べていた。葉羽は心の中で何かが揺らぎ、彼女に近づこうとしたが、冷たい風が彼を阻む。

「逃げたほうがいい!」高橋の声が響く。彼は急いで葉羽と彩由美を引き寄せ、部屋から出るように促した。

葉羽は、恐怖に駆られながらも高橋に従い、廊下を全力で走った。振り返ると、無表情の女性が静かに立っている。彼女の目は、まるで彼らの行く手を阻もうとしているかのようだった。

「何が起きたの?」ホールに戻ると、他の参加者たちが心配そうに彼らを見つめていた。

「部屋の中に…あの女性がいた。」葉羽は息を切らしながら説明した。「そして…少女の霊も見た。」

参加者たちの表情が一瞬にして緊張に包まれる。誰もが、この洋館に隠された恐ろしい秘密を意識し始めていた。

「この洋館、やっぱりただのイベントじゃない。何かが本当に起こっている。」高橋が真剣な表情で言った。

葉羽はその言葉に強く頷いた。彼の心の中には、これから何が待ち受けているのかという恐怖が広がっていた。しかし、同時に彼は、この謎を解き明かさなければならないという決意も固めていた。

夜が深まるにつれ、洋館の影はますます濃くなり、参加者たちの心に恐怖を植え付けていた。葉羽は、彼らの運命がどのように変わっていくのか、自らの運命も含めて考えざるを得なかった。 

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