上 下
98 / 105

98.高辻奏の配慮

しおりを挟む
書物を読み漁っても手掛かりを見付けられず、私は過去の巫女が残した品々を持ってきてもらって、それを使ったトライアンドエラーを繰り返した。
勿論何が起こるか分からないから、グラウンドで雅楽代さんと雪野さん、詠川先生と紫々井先生が見守る中で行った。
詠川先生は、次々に巫女関連の貴重らしい物が壊れるから目眩を起こして、少し離れたところの紫々井先生の横に座って見守る事となった。
壊した品々が散乱して途方に暮れていたら、いつの間にか奏くんが隣に来ていて、しゃがんで陶器の欠片を摘んだ。

「凄い。扱うのが怖いほど魔力が篭っていたのに、完全に抜けてる。」
「それは過去の巫女の魔力を吸い取ったら何か起こるんじゃないかと思って。」
「で、魔力を抜かれて砕けたと。」
「うん。」
「詠川先生と紫々井先生の横を通ったんだけど、詠川先生、品物のリスト見ながら悲しみに打ちひしがれてたよ。」
「申し訳ない・・・」
「俺は、また作ればいいじゃんって思うけど。」
「それ詠川先生の前で言っちゃダメだよ。」
「ダメなの?」
「ダメだよ。巫女が作った物は全て、奏くんにとっての猫丸ねこまると同じように大切な物なんだから。歴史的な価値も付いてるし。」

奏くんは腰に携えた刀を見た。
魔刀まとう猫丸。凄く強力な刀で、猫丸が主と認めた者が高辻家の当主になるという。
これを聞いた時は、抜いたら勇者になるやつだ、と感動した。高辻家じゃないとダメだとか、条件が色々あるらしく、奏くん曰く面倒臭い刀だそうだ。

「・・・分かってて破壊しまくってる楓ちゃん鬼畜じゃん。」

酷い言いようだけど、これは私も思ってるから否定できなかった。

「これさ、いつまで続けるの?歴代の巫女が残した物を破壊し尽くすまで?」
「流石にそこまでは・・・」

しない、とは言えなかった。やる事がもうこれしか無いのだから。

「この倍壊したら詠川先生ぶっ倒れるよ。」
「だよね・・・」
「詠川先生、巫女様が作った物だからって繰り返し呟いてた。」
「そっか・・・」

 頑張ったけど、結局詠川先生と紫々井先生とは、瑠璃川先生との様な関係は築けなかった。
諦めたら心は軽くなったけど、悲しみと虚無感に襲われた。
瑠璃川先生と伊海先生が支えてくれたからこうして前を向けているけど、二人が居なかったら私は絶望していたことだろう。

「まあいいじゃん。もしかしたら直せるかもよ?」
「粉々だよ?」
「楓ちゃんは理を変える力があるんだから、できるんじゃない。」
「そうかな・・・。みんな理を変えられるって言ってたけど、私にはさっぱりわからないよ。」
「・・・楓ちゃん、前なら直ぐに試してたのに、どうしたの?」
「えっ・・・」

言われて気付いた。私はその気力も失っているんだ。

「そうだね・・・やらないと・・・」
「気が進んだらでいいじゃん。この施設の中で暮らしてても、楓ちゃんが元のメンタルに戻せるなら。できないなら、こっそり外に出てみる?出してあげるよ?」

奏くんが無邪気に微笑んでみせた。
自然と私の頬も緩む。

「ふふっ、ありがとう。」
「あ、もしかして、今の気の沈みって生理も関係してる?だったら言わないと。ここはキツくない?そうだ、生理中は連れ出せないから前もって」

私にも、手が先に出ることなんてあるんだ。正確には頭だけど。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話

やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。 順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。 ※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

めーめー
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこから彼女は義理の弟、王太子、公爵令息、伯爵令息、執事に出会い彼女は彼らに愛されていく。 作者のめーめーです! この作品は私の初めての小説なのでおかしいところがあると思いますが優しい目で見ていただけると嬉しいです! 投稿は2日に1回23時投稿で行きたいと思います!!

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

処理中です...