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96.瑠璃川湊の軽蔑
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病室で目を覚ました楓は、瑠璃川と伊海に宥められ、詠川の張った結界が壊れる前に落ち着きを取り戻した。
瑠璃川の淹れたハーブティーを飲んだ楓は、ゆっくりと息を吐いて、カップをソーサーに置いた。
「明さ・・・紫々井先生に謝ってきます。」
「楓ちゃんが謝る事なんて何も無いよ。」
「そうよ。」
楓はゆっくりとかぶりを振った。
「私は最初からずっと迷惑なことしてたんだって、今回の事で良く分かりました。だから、紫々井先生に・・・守り手の人達には謝って、ちゃんと巫女らしい距離を取ります。」
「迷惑な事なんてしてないわ。」
「守り手の人達にとっては、私は人である前に神様に近い巫女。それ以外変わり様が無いのに、名前で呼んで欲しいとか、タメ口にして欲しいとか言われたら、迷惑以外の何物でも無いでしょう?でも、皆さん、巫女の希望だからずっと付き合ってくれてたんですよ。なのに、勝手に期待して、挙句紫々井先生にあんな酷いこと言って。私、自分が凄く恥ずかしいです・・・」
「楓ちゃん、誰も迷惑だなんて思って無いわ。」
同意を求めて伊海は瑠璃川に目を向けた。
伊海の視線を追った楓の目が、瑠璃川の目と合った。
「迷惑だとは思ってないよ。でも、これ以上は不毛だと思う。」
「瑠璃川くん・・・!」
「楓ちゃんの心がすり減るだけだよ。だからもう、やめよう。」
伊海は楓を説得したかったが、瑠璃川がそう言っては適わなかった。
瑠璃川は物言いたげな伊海を他所に、楓から目を離さず、楓は頷いた。
「楓ちゃんは悪いことも恥ずかしい事もしてないよ。だから、謝る必要は無い。向こうもそれはわかってる。これからは努力に使っていた時間を、好きなように使えばいいんだよ。毎日だってティータイムをしても良い。楓ちゃんの希望だったら俺は喜んで何だってするよ。」
「先生・・・」
目を潤ます楓に瑠璃川は優しげな笑みをしてみせた。
「今、俺は君だけの王子様だからね。」
「・・・ありがとうございます。」
ぎこちなくも、楓は瑠璃川の笑みに安堵して、瑠璃川の好意を受け取った。
楓を安心させた瑠璃川と伊海は、病室前で待機していた雅楽代と紫々井に目を向けることなく病室を去った。
伊海は建物を出たところで、先を行く瑠璃川の手を掴んで引っ張った。
振り返った瑠璃川は、先程の穏やかな様子とは違い明らかに気が立っていた。
「何であんなこと言ったの!もう少しで、少なくとも紫々井先生は変わりそうだったのに!」
「無駄だよ。紫々井先生達がどう思ってるかなんて知らないけど、楓ちゃんの想いを察していてこれだけ時間があったのに拒否も受容もしなかったんだから。」
「今回のことがあったんだから、可能性はあったでしょ!?」
「次は楓ちゃんが壊れてしまうよ。過去の巫女みたいに。」
過去に孤独から巫女が自ら命を絶った事があった事実は、伊海の言葉を詰まらせた。
「ほんの少しの可能性に賭ける程、俺は守り手を信用してないから、これからも応援することは絶対に無いよ。」
そう言って瑠璃川は人影が見える建物の二階を見上げた。
人影を一瞥して、瑠璃川はその場を去った。
瑠璃川の淹れたハーブティーを飲んだ楓は、ゆっくりと息を吐いて、カップをソーサーに置いた。
「明さ・・・紫々井先生に謝ってきます。」
「楓ちゃんが謝る事なんて何も無いよ。」
「そうよ。」
楓はゆっくりとかぶりを振った。
「私は最初からずっと迷惑なことしてたんだって、今回の事で良く分かりました。だから、紫々井先生に・・・守り手の人達には謝って、ちゃんと巫女らしい距離を取ります。」
「迷惑な事なんてしてないわ。」
「守り手の人達にとっては、私は人である前に神様に近い巫女。それ以外変わり様が無いのに、名前で呼んで欲しいとか、タメ口にして欲しいとか言われたら、迷惑以外の何物でも無いでしょう?でも、皆さん、巫女の希望だからずっと付き合ってくれてたんですよ。なのに、勝手に期待して、挙句紫々井先生にあんな酷いこと言って。私、自分が凄く恥ずかしいです・・・」
「楓ちゃん、誰も迷惑だなんて思って無いわ。」
同意を求めて伊海は瑠璃川に目を向けた。
伊海の視線を追った楓の目が、瑠璃川の目と合った。
「迷惑だとは思ってないよ。でも、これ以上は不毛だと思う。」
「瑠璃川くん・・・!」
「楓ちゃんの心がすり減るだけだよ。だからもう、やめよう。」
伊海は楓を説得したかったが、瑠璃川がそう言っては適わなかった。
瑠璃川は物言いたげな伊海を他所に、楓から目を離さず、楓は頷いた。
「楓ちゃんは悪いことも恥ずかしい事もしてないよ。だから、謝る必要は無い。向こうもそれはわかってる。これからは努力に使っていた時間を、好きなように使えばいいんだよ。毎日だってティータイムをしても良い。楓ちゃんの希望だったら俺は喜んで何だってするよ。」
「先生・・・」
目を潤ます楓に瑠璃川は優しげな笑みをしてみせた。
「今、俺は君だけの王子様だからね。」
「・・・ありがとうございます。」
ぎこちなくも、楓は瑠璃川の笑みに安堵して、瑠璃川の好意を受け取った。
楓を安心させた瑠璃川と伊海は、病室前で待機していた雅楽代と紫々井に目を向けることなく病室を去った。
伊海は建物を出たところで、先を行く瑠璃川の手を掴んで引っ張った。
振り返った瑠璃川は、先程の穏やかな様子とは違い明らかに気が立っていた。
「何であんなこと言ったの!もう少しで、少なくとも紫々井先生は変わりそうだったのに!」
「無駄だよ。紫々井先生達がどう思ってるかなんて知らないけど、楓ちゃんの想いを察していてこれだけ時間があったのに拒否も受容もしなかったんだから。」
「今回のことがあったんだから、可能性はあったでしょ!?」
「次は楓ちゃんが壊れてしまうよ。過去の巫女みたいに。」
過去に孤独から巫女が自ら命を絶った事があった事実は、伊海の言葉を詰まらせた。
「ほんの少しの可能性に賭ける程、俺は守り手を信用してないから、これからも応援することは絶対に無いよ。」
そう言って瑠璃川は人影が見える建物の二階を見上げた。
人影を一瞥して、瑠璃川はその場を去った。
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