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89.躊躇い
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驚いて顔を上げると、雅楽代さんと目が合った。
いつも笑みを張り付けているのに、どうして今日はこう何度も真剣な表情を見るのだろう。
「雅楽代さん・・・?」
雅楽代さんは表情を笑顔に戻して、申し訳ありません、といってまた歩き出した。
「まさかその質問を私がされるとは思わなかったもので。・・・そのご様子だと、私達の心配は本当に杞憂だったようですね。」
「心配・・・?」
「ええ。私が手を汚してきた事にはお気づきなのでしょう。」
「ああ・・・そのことですか。雅楽代さんは私の味方で裏切らないでしょう。だから怖くありません。」
「・・・楓様、裏の人間を簡単に信用してはいけません。過去には裏切った守り手もいるのですから。」
「雅楽代家はわかりません。でも雅楽代さんが私を裏切らないことはわかります。」
雅楽代さんの笑い声は小さかったけど確かに聞こえた。見たことの無い雅楽代さんの本当の笑顔が見たくてちらっと見上げたけど、一瞬のそれを見ることは叶わなかった。
「真剣に言ってるんですよ。」
「申し訳ありません。」
「おかしい事言いましたか?」
「いいえ。伝わっているのだなと、嬉しく思ったもので、つい。」
雅楽代さんが喜んでくれるなんて嬉しい。そんな素直な気持ちが、いつもと違う心の揺れをもたらした。
けれどそんな自分に一瞥した。
私達は利害関係が一致しているだけでここにいる。
雅楽代さんは私が巫女だからこうして接してくれている。それだけなんだから。
「そもそも、雅楽代家にそういう仕事をさせたのは前世の私でしょう。今の私だって、雅楽代さんを解放したらそんなことしなくて済むのに、こうして状況に甘んじてます。もし怖がってたらどうかと思います。」
「楓様らしいお考えですね。」
声色から何となく、雅楽代さんが喜んでいるような気がした。
「楓様、歌代家は守り手になることで裏の仕事をするようになったのではありません。」
「そうなんですか・・・」
「この話は別の機会にお話します。楓様が望まれるのならばですが。」
「聞かせてください。」
「承知しました。」
「後・・・・・・いえ、何でもないです。」
私は口を噤んだ。雅楽代さんは私が嫌がる事はしないから聞き返しはしなかった。
雅楽代さんの事が知りたい。その願いは自動的に立場を利用する。だから私はやっぱり聞けなかった。
いつも笑みを張り付けているのに、どうして今日はこう何度も真剣な表情を見るのだろう。
「雅楽代さん・・・?」
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「心配・・・?」
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「ああ・・・そのことですか。雅楽代さんは私の味方で裏切らないでしょう。だから怖くありません。」
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けれどそんな自分に一瞥した。
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「聞かせてください。」
「承知しました。」
「後・・・・・・いえ、何でもないです。」
私は口を噤んだ。雅楽代さんは私が嫌がる事はしないから聞き返しはしなかった。
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