上 下
84 / 105

84.樹

しおりを挟む
「楓ちゃん、そのまま、そのままで。そのままゆっくり魔力を注ぎ続けて良い感じだよ。」

細い木の横には定規が立てられていて、定規に記された赤い矢印で木の成長を止めなければならない。

後1センチ。ここで、ここで止めれば初めての合格だ。

もう少しだったのに、突然森の中の鳥がギャーっと鳴いて、驚いた私はコントロールを切ってしまった。

「あ、ああ・・・ああああ・・・」

それまでゆっくり成長していた木は、あっという間に屋久杉ほどまで大きくなり、私は膝から崩れ落ちた。


「過去のデータの中では最小だよ。イレギュラーが無ければ成功してただろうし、ほぼ合格だよ。」

嶺島みねしまさんはいつもべた褒めしてくれるけど、驚いただけでビル十階分くらいありそうな大樹を生み出すのだから、プログラムならゼロ点だ。

大樹を見上げた嶺島さんは何かを見付けて指を指した。

「楓ちゃん!レモンがなってるよ!」

見上げたものの私の視力では見えなかった。

「柑橘系の果物が生る事はめずらしいんだよ。心が綺麗じゃないと生らない。」
「別に綺麗じゃないと思うけど、じゃあ、悪い人が育てたらどんな実が生るの?」
「度合いにも寄るけど、文献で禍々しい見た目をした実の写真を見たことがあるよ。」
「禍々しい見た目ってどんなの?」
「一つの目玉と、ボロボロの歯をした口が複数付いていて笑ってた。」
「想像の百倍禍々しかった・・・」

「魔力の込め方を変えれば食べれるくらいに果実を育てることができるから、やってみよう。」
「馬鹿でかくなって落ちる未来しか見えないけど・・・」
「その時は俺が輪切りにするよ。多少果汁にまみれるけど、楓ちゃんの育てたレモンの果汁なら大丈夫。むしろ浴びた方が健康に良いかもしれないよ。ほら、やってみて。」
「う、うん・・・」

不安しかなかったけど、私は木に魔力を込めた。
でも、一度あることは二度ある。
今度はけたたましい鳴き声が聞こえて、私はコントロールを切ってしまった。

最初に変化があったのは木の方だった。
バキバキと音を立て変化した木。木の根元には目を閉じた顔の仏像の様な模様が現れて、幹は太くなり樹冠はまるで手で、天に向けて指を広げている様になった。

「ま、待って!!」

私は魔力を止めたけど、次々何かが弾ける音がして、雨のようなものが降り注いだ。
砂利だった地面から草木が生えて、木の周辺はあっという間に緑化して、何だか空気も清々しくなった。
いくつもの果物の巨大な実がたわわに実って、今にも落ちそうなところで止まった。

嶺島さんはやらかして頭を抱える私の横で、スマホを操作した。

「嶺島です。詠川先生、紫々井先生、今すぐグラウンドに来てください。楓ちゃんが創成樹を生み出しました。」
「そうせいじゅ・・・?」

意味を聞こうとしたら、建物が破壊される音が警備棟の方向から聞こえて、私はまた頭を抱えた。
あれは雅楽代さんが最短時間で駆けつける為に、全ての障害物を排除しながら向かう時の音だ。つまりこれは、雅楽代さん直行案件。
私のやらかしレベルのレベルマックスだ。

また何個か何かが弾けた。
嶺島さんはジャケットを脱ぎ、ネクタイを取った。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

男女比が偏っている異世界に転移して逆ハーレムを築いた、その後の話

やなぎ怜
恋愛
花嫁探しのために異世界から集団で拉致されてきた少女たちのひとりであるユーリ。それがハルの妻である。色々あって学生結婚し、ハルより年上のユーリはすでに学園を卒業している。この世界は著しく男女比が偏っているから、ユーリには他にも夫がいる。ならば負けないようにストレートに好意を示すべきだが、スラム育ちで口が悪いハルは素直な感情表現を苦手としており、そのことをもどかしく思っていた。そんな中でも、妊娠適正年齢の始まりとして定められている二〇歳の誕生日――有り体に言ってしまえば「子作り解禁日」をユーリが迎える日は近づく。それとは別に、ユーリたち拉致被害者が元の世界に帰れるかもしれないという噂も立ち……。 順風満帆に見えた一家に、ささやかな波風が立つ二日間のお話。 ※作品の性質上、露骨に性的な話題が出てきます。

男女比がおかしい世界にオタクが放り込まれました

かたつむり
恋愛
主人公の本条 まつりはある日目覚めたら男女比が40:1の世界に転生してしまっていた。 「日本」とは似てるようで違う世界。なんてったって私の推しキャラが存在してない。生きていけるのか????私。無理じゃね? 周りの溺愛具合にちょっぴり引きつつ、なんだかんだで楽しく過ごしたが、高校に入学するとそこには前世の推しキャラそっくりの男の子。まじかよやったぜ。 ※この作品の人物および設定は完全フィクションです ※特に内容に影響が無ければサイレント編集しています。 ※一応短編にはしていますがノープランなのでどうなるかわかりません。(2021/8/16 長編に変更しました。) ※処女作ですのでご指摘等頂けると幸いです。 ※作者の好みで出来ておりますのでご都合展開しかないと思われます。ご了承下さい。

旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜

ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉 転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!? のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました…… イケメン山盛りの逆ハーです 前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります 小説家になろう、カクヨムに転載しています

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

異世界転生先で溺愛されてます!

目玉焼きはソース
恋愛
異世界転生した18歳のエマが転生先で色々なタイプのイケメンたちから溺愛される話。 ・男性のみ美醜逆転した世界 ・一妻多夫制 ・一応R指定にしてます ⚠️一部、差別的表現・暴力的表現が入るかもしれません タグは追加していきます。

二度目の人生は異世界で溺愛されています

ノッポ
恋愛
私はブラック企業で働く彼氏ナシのおひとりさまアラフォー会社員だった。 ある日 信号で轢かれそうな男の子を助けたことがキッカケで異世界に行くことに。 加護とチート有りな上に超絶美少女にまでしてもらったけど……中身は今まで喪女の地味女だったので周りの環境変化にタジタジ。 おまけに女性が少ない世界のため 夫をたくさん持つことになりー…… 周りに流されて愛されてつつ たまに前世の知識で少しだけ生活を改善しながら異世界で生きていくお話。

処理中です...