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84.樹
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「楓ちゃん、そのまま、そのままで。そのままゆっくり魔力を注ぎ続けて良い感じだよ。」
細い木の横には定規が立てられていて、定規に記された赤い矢印で木の成長を止めなければならない。
後1センチ。ここで、ここで止めれば初めての合格だ。
もう少しだったのに、突然森の中の鳥がギャーっと鳴いて、驚いた私はコントロールを切ってしまった。
「あ、ああ・・・ああああ・・・」
それまでゆっくり成長していた木は、あっという間に屋久杉ほどまで大きくなり、私は膝から崩れ落ちた。
「過去のデータの中では最小だよ。イレギュラーが無ければ成功してただろうし、ほぼ合格だよ。」
嶺島さんはいつもべた褒めしてくれるけど、驚いただけでビル十階分くらいありそうな大樹を生み出すのだから、プログラムならゼロ点だ。
大樹を見上げた嶺島さんは何かを見付けて指を指した。
「楓ちゃん!レモンがなってるよ!」
見上げたものの私の視力では見えなかった。
「柑橘系の果物が生る事はめずらしいんだよ。心が綺麗じゃないと生らない。」
「別に綺麗じゃないと思うけど、じゃあ、悪い人が育てたらどんな実が生るの?」
「度合いにも寄るけど、文献で禍々しい見た目をした実の写真を見たことがあるよ。」
「禍々しい見た目ってどんなの?」
「一つの目玉と、ボロボロの歯をした口が複数付いていて笑ってた。」
「想像の百倍禍々しかった・・・」
「魔力の込め方を変えれば食べれるくらいに果実を育てることができるから、やってみよう。」
「馬鹿でかくなって落ちる未来しか見えないけど・・・」
「その時は俺が輪切りにするよ。多少果汁に塗れるけど、楓ちゃんの育てたレモンの果汁なら大丈夫。むしろ浴びた方が健康に良いかもしれないよ。ほら、やってみて。」
「う、うん・・・」
不安しかなかったけど、私は木に魔力を込めた。
でも、一度あることは二度ある。
今度はけたたましい鳴き声が聞こえて、私はコントロールを切ってしまった。
最初に変化があったのは木の方だった。
バキバキと音を立て変化した木。木の根元には目を閉じた顔の仏像の様な模様が現れて、幹は太くなり樹冠はまるで手で、天に向けて指を広げている様になった。
「ま、待って!!」
私は魔力を止めたけど、次々何かが弾ける音がして、雨のようなものが降り注いだ。
砂利だった地面から草木が生えて、木の周辺はあっという間に緑化して、何だか空気も清々しくなった。
いくつもの果物の巨大な実がたわわに実って、今にも落ちそうなところで止まった。
嶺島さんはやらかして頭を抱える私の横で、スマホを操作した。
「嶺島です。詠川先生、紫々井先生、今すぐグラウンドに来てください。楓ちゃんが創成樹を生み出しました。」
「そうせいじゅ・・・?」
意味を聞こうとしたら、建物が破壊される音が警備棟の方向から聞こえて、私はまた頭を抱えた。
あれは雅楽代さんが最短時間で駆けつける為に、全ての障害物を排除しながら向かう時の音だ。つまりこれは、雅楽代さん直行案件。
私のやらかしレベルのレベルマックスだ。
また何個か何かが弾けた。
嶺島さんはジャケットを脱ぎ、ネクタイを取った。
細い木の横には定規が立てられていて、定規に記された赤い矢印で木の成長を止めなければならない。
後1センチ。ここで、ここで止めれば初めての合格だ。
もう少しだったのに、突然森の中の鳥がギャーっと鳴いて、驚いた私はコントロールを切ってしまった。
「あ、ああ・・・ああああ・・・」
それまでゆっくり成長していた木は、あっという間に屋久杉ほどまで大きくなり、私は膝から崩れ落ちた。
「過去のデータの中では最小だよ。イレギュラーが無ければ成功してただろうし、ほぼ合格だよ。」
嶺島さんはいつもべた褒めしてくれるけど、驚いただけでビル十階分くらいありそうな大樹を生み出すのだから、プログラムならゼロ点だ。
大樹を見上げた嶺島さんは何かを見付けて指を指した。
「楓ちゃん!レモンがなってるよ!」
見上げたものの私の視力では見えなかった。
「柑橘系の果物が生る事はめずらしいんだよ。心が綺麗じゃないと生らない。」
「別に綺麗じゃないと思うけど、じゃあ、悪い人が育てたらどんな実が生るの?」
「度合いにも寄るけど、文献で禍々しい見た目をした実の写真を見たことがあるよ。」
「禍々しい見た目ってどんなの?」
「一つの目玉と、ボロボロの歯をした口が複数付いていて笑ってた。」
「想像の百倍禍々しかった・・・」
「魔力の込め方を変えれば食べれるくらいに果実を育てることができるから、やってみよう。」
「馬鹿でかくなって落ちる未来しか見えないけど・・・」
「その時は俺が輪切りにするよ。多少果汁に塗れるけど、楓ちゃんの育てたレモンの果汁なら大丈夫。むしろ浴びた方が健康に良いかもしれないよ。ほら、やってみて。」
「う、うん・・・」
不安しかなかったけど、私は木に魔力を込めた。
でも、一度あることは二度ある。
今度はけたたましい鳴き声が聞こえて、私はコントロールを切ってしまった。
最初に変化があったのは木の方だった。
バキバキと音を立て変化した木。木の根元には目を閉じた顔の仏像の様な模様が現れて、幹は太くなり樹冠はまるで手で、天に向けて指を広げている様になった。
「ま、待って!!」
私は魔力を止めたけど、次々何かが弾ける音がして、雨のようなものが降り注いだ。
砂利だった地面から草木が生えて、木の周辺はあっという間に緑化して、何だか空気も清々しくなった。
いくつもの果物の巨大な実がたわわに実って、今にも落ちそうなところで止まった。
嶺島さんはやらかして頭を抱える私の横で、スマホを操作した。
「嶺島です。詠川先生、紫々井先生、今すぐグラウンドに来てください。楓ちゃんが創成樹を生み出しました。」
「そうせいじゅ・・・?」
意味を聞こうとしたら、建物が破壊される音が警備棟の方向から聞こえて、私はまた頭を抱えた。
あれは雅楽代さんが最短時間で駆けつける為に、全ての障害物を排除しながら向かう時の音だ。つまりこれは、雅楽代さん直行案件。
私のやらかしレベルのレベルマックスだ。
また何個か何かが弾けた。
嶺島さんはジャケットを脱ぎ、ネクタイを取った。
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