74 / 105
74.高辻奏は背中を押す
しおりを挟む
「でさ、調子乗って生徒会が作った学祭のシンボル像の首切っちゃって、親呼び出されてめちゃくちゃ怒られた。」
「そりゃあ怒られるよ。」
奏くんはコミュ力が高い。歳が近いこともあって、あっという間にタメ口に名前で呼び合う事になった。
学生時代の思い出話にも花が咲いた。
「奏くん、ありがとね。仕事とは言え、こんなに気を遣ってくれて。」
「楓ちゃん、そうやって壁を作るのやめなよ。」
「えっ?」
「ずっと巫女様としてしか見られないのが嫌だから、名前で呼んでとか敬語無しでとかお願いしたんでしょ?」
「それは堅苦しいからで・・・でも・・・うん・・・今はそうかな・・・」
自分が巫女だからみんな優しいし、応えてくれているんだと、先生達と接する程に思って距離を感じていた。
「じゃあ、お金を払ってるからそうしてくれてる、巫女だからそうしてくれてるんだって考え、半分やめたら?」
「簡単に言わないでよ。向こうはそうだと思ってたら勘違い女なんだから。私なんて巫女である事を除いたらその辺のモブだよ?」
「でもさ。」
自分で言っといて何だけどちょっとは否定して欲しかった。
私の気持ちにはお構い無しに奏くんは話を続けた。
「楓ちゃんが巫女である以上、楓ちゃんが作った壁は楓ちゃんにしか壊せないよ。」
「でも・・・」
「壁を作るって事は楓ちゃんの素が見えないって事だよ。」
「私、いつも素だよ?」
「いつも監視カメラのチェックしてるけど、こんなに砕けた姿も、さっきの満面の笑みも、初めて見たよ?」
「そう・・・?」
「うん。楓ちゃん案外可愛いじゃんって思った。」
案外は余計だから、案外は。口から出そうになったけどギリギリ飲み込んだ。
「だから、楓ちゃんから壁をとっぱらいなよ。そしたら向こうも、理の巫女じゃなく、楓ちゃんが見えるよ。」
「そういうものなの・・・?」
「理の巫女って神様の次に神聖な存在だからね。楓ちゃんが壁作ってたら守り手はどうにもできないよ。」
奏くんはデリカシーが無いけど他はちゃんとしてる。
「両手を広げて構えてたら自然と距離は縮まるよ。」
距離が縮まったら縮まったで心臓が困るけど、それ以上に今の状況は寂しい。
時折、自分から頼んだ名前呼びやタメ口が虚しくなる程だ。
「楓ちゃんは魅力あるし、守られることを当然と思ってないでしょ?」
「うん。」
「なら大丈夫だよ。俺より時間は掛かると思うけど。」
「そっか・・・」
「俺も協力するよ。」
「有難いけど自分でなんとかするから大丈夫。気持ちだけ受け取るよ。」
奏くんのデリカシーの無さで場が凍りつく場面が容易に想像できて、私は丁重にお断りした。
でも、奏くんの主張には頷けた。今変えられるものは自分だけだ。
孤独を拗らせる前に何とかしたいし、善は急げだ。
「その先の関係がどうなるかわからないけど、考えてみるよ。」
「向こうは40超えたおっさんなんだから心配要らないよ。任せてたら良いって。」
「奏くん・・・それ絶対雪野さん達に言っちゃダメだよ。」
「どれ?」
「おっさん。」
「事実なのに?」
首を傾げる奏くんを見て、断って正解だったと強く思った。
奏くんは最後の紅茶を飲んで、手を合わせた。
「ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。」
「給料貰って楽しく話して美味しい物食べれるなんて最高だよ。話し相手が欲しくなったらまた呼んでね。」
「うん。ありがとう。」
「そりゃあ怒られるよ。」
奏くんはコミュ力が高い。歳が近いこともあって、あっという間にタメ口に名前で呼び合う事になった。
学生時代の思い出話にも花が咲いた。
「奏くん、ありがとね。仕事とは言え、こんなに気を遣ってくれて。」
「楓ちゃん、そうやって壁を作るのやめなよ。」
「えっ?」
「ずっと巫女様としてしか見られないのが嫌だから、名前で呼んでとか敬語無しでとかお願いしたんでしょ?」
「それは堅苦しいからで・・・でも・・・うん・・・今はそうかな・・・」
自分が巫女だからみんな優しいし、応えてくれているんだと、先生達と接する程に思って距離を感じていた。
「じゃあ、お金を払ってるからそうしてくれてる、巫女だからそうしてくれてるんだって考え、半分やめたら?」
「簡単に言わないでよ。向こうはそうだと思ってたら勘違い女なんだから。私なんて巫女である事を除いたらその辺のモブだよ?」
「でもさ。」
自分で言っといて何だけどちょっとは否定して欲しかった。
私の気持ちにはお構い無しに奏くんは話を続けた。
「楓ちゃんが巫女である以上、楓ちゃんが作った壁は楓ちゃんにしか壊せないよ。」
「でも・・・」
「壁を作るって事は楓ちゃんの素が見えないって事だよ。」
「私、いつも素だよ?」
「いつも監視カメラのチェックしてるけど、こんなに砕けた姿も、さっきの満面の笑みも、初めて見たよ?」
「そう・・・?」
「うん。楓ちゃん案外可愛いじゃんって思った。」
案外は余計だから、案外は。口から出そうになったけどギリギリ飲み込んだ。
「だから、楓ちゃんから壁をとっぱらいなよ。そしたら向こうも、理の巫女じゃなく、楓ちゃんが見えるよ。」
「そういうものなの・・・?」
「理の巫女って神様の次に神聖な存在だからね。楓ちゃんが壁作ってたら守り手はどうにもできないよ。」
奏くんはデリカシーが無いけど他はちゃんとしてる。
「両手を広げて構えてたら自然と距離は縮まるよ。」
距離が縮まったら縮まったで心臓が困るけど、それ以上に今の状況は寂しい。
時折、自分から頼んだ名前呼びやタメ口が虚しくなる程だ。
「楓ちゃんは魅力あるし、守られることを当然と思ってないでしょ?」
「うん。」
「なら大丈夫だよ。俺より時間は掛かると思うけど。」
「そっか・・・」
「俺も協力するよ。」
「有難いけど自分でなんとかするから大丈夫。気持ちだけ受け取るよ。」
奏くんのデリカシーの無さで場が凍りつく場面が容易に想像できて、私は丁重にお断りした。
でも、奏くんの主張には頷けた。今変えられるものは自分だけだ。
孤独を拗らせる前に何とかしたいし、善は急げだ。
「その先の関係がどうなるかわからないけど、考えてみるよ。」
「向こうは40超えたおっさんなんだから心配要らないよ。任せてたら良いって。」
「奏くん・・・それ絶対雪野さん達に言っちゃダメだよ。」
「どれ?」
「おっさん。」
「事実なのに?」
首を傾げる奏くんを見て、断って正解だったと強く思った。
奏くんは最後の紅茶を飲んで、手を合わせた。
「ご馳走様でした。」
「お粗末様でした。」
「給料貰って楽しく話して美味しい物食べれるなんて最高だよ。話し相手が欲しくなったらまた呼んでね。」
「うん。ありがとう。」
24
お気に入りに追加
336
あなたにおすすめの小説
我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。
たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。
しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。
そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。
ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。
というか、甘やかされてません?
これって、どういうことでしょう?
※後日談は激甘です。
激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。
※小説家になろう様にも公開させて頂いております。
ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。
タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~
私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜
朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。
(この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??)
これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。
所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。
暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。
※休載中
(4月5日前後から投稿再開予定です)
美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける
朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。
お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン
絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。
「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」
「えっ!? ええぇぇえええ!!!」
この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。
旦那様が多すぎて困っています!? 〜逆ハー異世界ラブコメ〜
ことりとりとん
恋愛
男女比8:1の逆ハーレム異世界に転移してしまった女子大生・大森泉
転移早々旦那さんが6人もできて、しかも魔力無限チートがあると教えられて!?
のんびりまったり暮らしたいのにいつの間にか国を救うハメになりました……
イケメン山盛りの逆ハーです
前半はラブラブまったりの予定。後半で主人公が頑張ります
小説家になろう、カクヨムに転載しています
キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。
新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、
もしかしてこの世界美醜逆転?………はっ、勝った!妹よ、そのブサメン第2王子は喜んで差し上げますわ!
結ノ葉
ファンタジー
目が冷めたらめ~っちゃくちゃ美少女!って言うわけではないけど色々ケアしまくってそこそこの美少女になった昨日と同じ顔の私が!(それどころか若返ってる分ほっぺ何て、ぷにっぷにだよぷにっぷに…)
でもちょっと小さい?ってことは…私の唯一自慢のわがままぼでぃーがない!
何てこと‼まぁ…成長を願いましょう…きっときっと大丈夫よ…………
……で何コレ……もしや転生?よっしゃこれテンプレで何回も見た、人生勝ち組!って思ってたら…何で周りの人たち布被ってんの!?宗教?宗教なの?え…親もお兄ちゃまも?この家で布被ってないのが私と妹だけ?
え?イケメンは?新聞見ても外に出てもブサメンばっか……イヤ無理無理無理外出たく無い…
え?何で俺イケメンだろみたいな顔して外歩いてんの?絶対にケア何もしてない…まじで無理清潔感皆無じゃん…清潔感…com…back…
ってん?あれは………うちのバカ(妹)と第2王子?
無理…清潔感皆無×清潔感皆無…うぇ…せめて布してよ、布!
って、こっち来ないでよ!マジで来ないで!恥ずかしいとかじゃないから!やだ!匂い移るじゃない!
イヤー!!!!!助けてお兄ー様!
俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない
亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。
不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。
そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。
帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。
そして邂逅する謎の組織。
萌の物語が始まる。
転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~
月
恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん)
は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。
しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!?
(もしかして、私、転生してる!!?)
そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!!
そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる