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46.雅楽代薫の激昂
しおりを挟む「そりゃああんた達は困らないからどっちでも良いだろう。だが、椎崎家はそうじゃないだろう?そっちの味方をしているが、三軍の椎崎家は巫女が100%の力で権能を与えなければ、折角の大チャンスを棒に振るどころか、権能の自然消滅さえありうる。」
「巫女様が死ぬくらいなら、そうなった方がマシですよ。 」
「当主は潔が良いねえ。でも、あんたの兄弟はそうじゃないだろ?」
「兄弟が何と言おうと当主の俺の選択が椎崎家の選択です。 」
「それで統率が取れたら良いが。」
「取れますよ。」
雅楽代は椎崎の言葉を鼻で笑った。
「綺麗事だ。あんたらのやってることは巫女の今後を考えた行動とは言えない。巫女を死ぬまで籠の鳥にするつもりか?力を使えない巫女なんて存在意義が無い。政府からも守り手からも命を狙われ続けるんだぞ。」
「死んだら元も子もない。巫女様は俺達が守り抜く。」
雅楽代は顔を歪めて横に倒れていたイスを片足で蹴り飛ばした。
「ふざけるな!!!戦えない奴等が守るなんて言葉を軽々しく遣うな!!!」
イスは倒れていたテーブルやイスを巻き込んで、ひしゃげた壁にクレーター状の大きな凹みを作った。
「ゆ、雪野さん・・・!」
「動じるな。まず建物の周辺の現象をクリアにしろ。完了したら外からも囲んで結界を張る。ポイントに到着したら知らせろ。」
「はい・・・!!」
動揺を堪えてインカムで他の隊員に指示を出した高辻の顎に伝った汗が床に落ちた。
高辻は震える手に力を入れた。
雅楽代薫は間違いなく世界最強の男だった。たった一人で一個小隊を殲滅した等の逸話を多く持ち、雪野が唯一勝てない人物でもあった。
自分が一生掛かっても勝てないと思う相手が勝てない相手を前にして、生存本能がサイレンを鳴らしたのだ。
「外敵から守るなんて言葉は、巫女の為に人を殺せる者しか使う事は許されない。もし陰の守り手が全員仕事を拒否したらどうするんだ?俺の様な敵からどうやって巫女を守るんだ?言ってみろ!!!」
「方法は考える。」
雅楽代はイスを紫々井に向かって蹴り飛ばした。
紫々井の魔力で軌道を逸れたイスは、紫々井の頬を掠って背後の壁にめり込んだ。
窓は粉々になり、外壁までもが雅楽代の魔力放出でひしゃげた。その圧は当然人間にも影響が大きく、雪野でさえも体が押し潰される様な圧を感じた。
「話にならない。」
雪野はこの状況の打開策を考え続けたが、答えは未だ見つからなかった。
両者とも一理ある意見を主張している。その二つは対極にあるが故に折衷案が見当たらない。しかも両者とも譲る気が無い。
にっちもさっちもいかない状況だった。
「あんたらは人を信じすぎだ。この世界のほぼ全ての人間は信じるに値しないと言うのに。」
「そうでもない。」
「典型的な陽の人間だな。脳内がご陽気だ。」
「今後巫女様にあんな提案はするな。」
話はループするばかりだった。
高辻のインカムに巫女の監視担当から連絡が入った。
「巫女がこちらに向かっています!!」
全員の魔力の放出がピタリと止まった。
「まだ動いたらあかん言うたのに・・・!」
紫々井は刀を納め、楓の元に走って行った。
雅楽代は詠川達を一瞥して、雪野の横を通って建物を出て行った。
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