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39.椎崎忠幸の憧憬(しょうけい)

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夜寝れなくて、私はコートを羽織って外に出た。

都会では絶対に見れなかった満天の星空が気に入っているからだ。

座って眺めようといつも座るベンチに向かうと、先客が居た。

「椎崎先生?」

「楓ちゃん、こんな夜更けにどうしたの?」

「寝れなくて、星を眺めに来たの。」

「俺もだよ。座る?」

「うん。」

先生は横に少し移動してスペースを開けてくれた。

隣に座ると、普段見ない私服に目が行った。

お洒落で椎崎先生っぽいファッションだ。

「どうした?」

「私服見るの初めてだったから。」

「ダサい?」

「凄くお洒落だよ!」

「ありがとう。」

「先生は星が好きなの?」

「ああ。昔は天文学者になりたかったんだ。」

「守り手だから諦めたの?」

「いや、親父が急に死んで、椎崎家を継がなきゃいけなくなったんだ。」

「そうなんだ・・・」

「でも、未練は無いよ。継いでみたら案外悪くなかったし、こうして楓ちゃんに仕えることができたし。」

「私に仕えたから・・・」

「守り手の一族はかなりの数が居て、ヒエラルキーがある。有能さ、優秀さ、貢献度の高さや歴史、そういう要素で自然と作り上げられたヒエラルキーだ。紫々井家と詠川家がトップで、葉山家が二番目、椎崎家は三番目。本来なら、直接巫女様にお仕えすることはかなり難しいんだ。その椎崎家が、神崎家を押し退けて巫女様に直接使えてるなんて。」

先生は軽く笑って空を見上げた。

「奇跡って起こるもんなんだなって思ったよ。」

「これでヒエラルキーの上に行けるんですか?」

「一回だけだからトップには行けないけど、二番目には格上げになったんじゃないかな。紫々井先生には足向けて寝らんないよ。」

ヒエラルキーか。無い方がおかしいけど、めんどくさいものはどこにでもあるんだな、と思った。

「俺さ、娘が居るんだよね。」

「えっ!?」

突然の告白に二度見した。

「俺、バツ1なんだ。元嫁の方に中一の娘が居る。もう随分前から会わしてくれなくなって顔見て無いんだけど、もし会えたら、星空が綺麗に見える場所に連れてって、こんな風に一緒に星空を眺めたいんだ。」

先生の横顔は物悲しさがあった。私が隣に座ったから、思い出したのかな。

「ま、叶わないけどね。」

「何ともならないんですか?」

「元嫁はとっくに再婚してるし、娘も嫌がってるらしい。それに、会いたいけど、もう新しい父親が居るのに、前の父親が出て来ても困るだろうから、行動しようとは思わないよ。」

「そっか・・・」

「俺もさっさと新しい相手を見付けないと。」

先生は本音と逆のことを言ったと思った。いつも飄々ひょうひょうとしていて考えが読めない人だけど、星空がちょっとばかり素直にさせているのかもしれない。

「先生、今見えてる星のこと教えて。」

「長くなるよ?」

「寝れなくてここに来てるから。」

それからしばらく、私は星空を眺めながら、先生に星の話をしてもらった。
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