おじ専が異世界転生したらイケおじ達に囲まれて心臓が持ちません

一条弥生

文字の大きさ
上 下
9 / 105

9.我慢の限界

しおりを挟む
 追分参五郎は、上州へ向けて旅立った。愛しい女のために清水寿郎長の命を取る旅だった。当然、足取りは軽くない。
 上田村辺りの峠に店が在り、飯を食う事にする。飯屋には先客が居て、どう見ても女衒だった。女衒とは、女を商品にして商売する連中の事で、主に百姓家で口減しにあった者や、借金の形で取り引きされた娘を、女郎宿や岡場所に売る職業だった。参五郎が男を女衒だと思ったのは、娘を三人連れているからだった。歳の頃から、男の実の娘とは思えないし、彼女たちが旅をする理由も思いつかない。三人とも、まだ十歳前後だと思われ、幼い顔立ちが哀れに思えた。参五郎は、節もこんな感じで女郎になったのかと思って見つめていた。

「何だい、お兄さん、子供が好みかい」
 不意に声をかけられ、慌ててしまう。女衒は、参五郎を不審そうに見ていた。女衒の世界も物騒で、商品を力づくで奪う不届き者も居た。しかも、参五郎は渡世人の格好をしている。警戒するのは当然だった。

「いや、なにね、あっしも郷里に妹が居るもんだから、つい見てしまったんですよ。勘弁しておくんなさいまし」
 女衒は、一応は参五郎を信用したらしく、広角を上げた。だが、目は笑っていない。やはり、人買い稼業なんぞをしていると、人が信じられなくなるらしい。

 女衒は、娘を連れて先に出た。参五郎は、飯が来たので腹ごしらえをする。
 丼に冷や飯が入っている。玄米六割に雑穀四割の黒飯だった。当時は、今と違って温かい白米が常時用意されている訳ではない。漬物を乗せ、熱い味噌汁をかける。これでちょうど食べ頃になる。川魚の塩焼きも入れ、骨も頭も箸でガシガシ汁かけご飯に馴染ませる。これを一気に掻き込んだ。行儀は悪いが気にしない。

 参五郎が急いで飯を食ったのは、訳があった。どうにも女衒が連れていた娘が気になる。頬の赤い娘は、どことなく節に似ていた。せめて途中まで見守ってあげたかった。

 参五郎は、急いで女衒たちを追う。すると、言い争う声が聞こえた。参五郎は走り出す。

「やめておくんなさい。この娘たちは、上州の前田栄五郎親分の元に連れて行く事が決まっているんですよ」
 女衒の声がした。見ると、三人の男に囲まれている。女衒の後ろで、娘たちは不安そうにしている。
 三人の男は、無頼者の類いに見えた。時に雲助、つまり、無法な駕籠かき、時に山賊などで生計を立てる悪党だった。
 参五郎は、両者に割って入る。
「おいおい、乱暴な真似はよしねぇ。この追分参五郎、騒動の仲裁に入るぜ」
 悪党は、お節介な渡世人に怒鳴る。
「引っ込んでろ三下! 怪我じゃ済まないぜ」
 参五郎は、相手の言い分が頭に来た。
「済まなきゃどうだって言うんだ。教えてくれよ」
 こうなると、血の気の多い連中だから、穏やかには収まらない。悪党は腰刀を抜く。猟師が獲物にとどめを刺す時に使うような簡単な拵えの刀だった。

 参五郎は、脇差を抜く。参五郎の刀は、短かった。右手で脇差を構え、左手には縞の合羽を持つ。
「さぁ、来やがれ、山猿ども!」
 丁々発止と戦いが始まった。
しおりを挟む
感想 6

あなたにおすすめの小説

我儘令嬢なんて無理だったので小心者令嬢になったらみんなに甘やかされました。

たぬきち25番
恋愛
「ここはどこですか?私はだれですか?」目を覚ましたら全く知らない場所にいました。 しかも以前の私は、かなり我儘令嬢だったそうです。 そんなマイナスからのスタートですが、文句はいえません。 ずっと冷たかった周りの目が、なんだか最近優しい気がします。 というか、甘やかされてません? これって、どういうことでしょう? ※後日談は激甘です。  激甘が苦手な方は後日談以外をお楽しみ下さい。 ※小説家になろう様にも公開させて頂いております。  ただあちらは、マルチエンディングではございませんので、その関係でこちらとは、内容が大幅に異なります。ご了承下さい。  タイトルも違います。タイトル:異世界、訳アリ令嬢の恋の行方は?!~あの時、もしあなたを選ばなければ~

転生したら、6人の最強旦那様に溺愛されてます!?~6人の愛が重すぎて困ってます!~

恋愛
ある日、女子高生だった白川凛(しらかわりん) は学校の帰り道、バイトに遅刻しそうになったのでスピードを上げすぎ、そのまま階段から落ちて死亡した。 しかし、目が覚めるとそこは異世界だった!? (もしかして、私、転生してる!!?) そして、なんと凛が転生した世界は女性が少なく、一妻多夫制だった!!! そんな世界に転生した凛と、将来の旦那様は一体誰!?

女性の少ない異世界に生まれ変わったら

Azuki
恋愛
高校に登校している途中、道路に飛び出した子供を助ける形でトラックに轢かれてそのまま意識を失った私。 目を覚ますと、私はベッドに寝ていて、目の前にも周りにもイケメン、イケメン、イケメンだらけーーー!? なんと私は幼女に生まれ変わっており、しかもお嬢様だった!! ーーやった〜!勝ち組人生来た〜〜〜!!! そう、心の中で思いっきり歓喜していた私だけど、この世界はとんでもない世界で・・・!? これは、女性が圧倒的に少ない異世界に転生した私が、家族や周りから溺愛されながら様々な問題を解決して、更に溺愛されていく物語。

目が覚めたら男女比がおかしくなっていた

いつき
恋愛
主人公である宮坂葵は、ある日階段から落ちて暫く昏睡状態になってしまう。 一週間後、葵が目を覚ますとそこは男女比が約50:1の世界に!?自分の父も何故かイケメンになっていて、不安の中高校へ進学するも、わがままな女性だらけのこの世界では葵のような優しい女性は珍しく、沢山のイケメン達から迫られる事に!? 「私はただ普通の高校生活を送りたいんです!!」 ##### r15は保険です。 2024年12月12日 私生活に余裕が出たため、投稿再開します。 それにあたって一部を再編集します。 設定や話の流れに変更はありません。

私は女神じゃありません!!〜この世界の美的感覚はおかしい〜

朝比奈
恋愛
年齢=彼氏いない歴な平凡かつ地味顔な私はある日突然美的感覚がおかしい異世界にトリップしてしまったようでして・・・。 (この世界で私はめっちゃ美人ってどゆこと??) これは主人公が美的感覚が違う世界で醜い男(私にとってイケメン)に恋に落ちる物語。 所々、意味が違うのに使っちゃってる言葉とかあれば教えて下さると幸いです。 暇つぶしにでも呼んでくれると嬉しいです。 ※休載中 (4月5日前後から投稿再開予定です)

美醜逆転世界でお姫様は超絶美形な従者に目を付ける

朝比奈
恋愛
ある世界に『ティーラン』と言う、まだ、歴史の浅い小さな王国がありました。『ティーラン王国』には、王子様とお姫様がいました。 お姫様の名前はアリス・ラメ・ティーラン 絶世の美女を母に持つ、母親にの美しいお姫様でした。彼女は小国の姫でありながら多くの国の王子様や貴族様から求婚を受けていました。けれども、彼女は20歳になった今、婚約者もいない。浮いた話一つ無い、お姫様でした。 「ねぇ、ルイ。 私と駆け落ちしましょう?」 「えっ!? ええぇぇえええ!!!」 この話はそんなお姫様と従者である─ ルイ・ブリースの恋のお話。

美幼女に転生したら地獄のような逆ハーレム状態になりました

市森 唯
恋愛
極々普通の学生だった私は……目が覚めたら美幼女になっていました。 私は侯爵令嬢らしく多分異世界転生してるし、そして何故か婚約者が2人?! しかも婚約者達との関係も最悪で…… まぁ転生しちゃったのでなんとか上手く生きていけるよう頑張ります!

キャンプに行ったら異世界転移しましたが、最速で保護されました。

新条 カイ
恋愛
週末の休みを利用してキャンプ場に来た。一歩振り返ったら、周りの環境がガラッと変わって山の中に。車もキャンプ場の施設もないってなに!?クマ出現するし!?と、どうなることかと思いきや、最速でイケメンに保護されました、

処理中です...