おじ専が異世界転生したらイケおじ達に囲まれて心臓が持ちません

１．最悪の日

私は暗い道を一人、重い足取りで歩いていた。

家に帰るのは二日ぶりだ。シャワーすら浴びれず、食事をしながら仕事して徹夜。

プログラマーを目指して頑張っていた学生時代は、徹夜が勲章に思えるくらい、やり甲斐があって楽しかった。

それが今ではどうだ。転職する余裕もなく、ブラック企業で働き詰め。死んだ魚の目をして、押し付けられた仕事をこなすだけの日々だ。

そのせいで、まともな恋愛もせず、２８歳だ。

「こんな筈じゃなかった...」

恋愛ができないのは別の理由もあるけど。

スマホを開いて、画像フォルダを見る。

「はぁ...佐田大輝様かっこいい...」

ため息が出るような美しさ。露出が少ないのに溢れ出る色気。アンニュイでミステリアスな雰囲気。

４８歳独身。独身俳優最後の砦の一人だ。

「抱かれたい...」

こんな人に迫られたら心臓が爆発するだろうけど。

私はおじ様が恋愛対象、所謂いわゆるおじ専。それが私の恋愛経験が少ない理由の一つだ。

「ん？」

ニュースアプリの通知が来て反射的に開いた私は固まった。

「嘘...で、デキ婚...佐田...大輝様が...」

私は膝から崩れ落ちた。

死ぬまで究極に幸せでいて、家族に看取られて幸せな最期を迎えて欲しい。それが推しへの切なる願いだ。

でも、結婚して欲しかったといえば嘘になる。

これはよく言われることだけど、自分にチャンスがあるとかは微塵も思っていない。

けれど、ああ、人のものになってしまったんだな、と思ってしまう。

そして、私は顔も名前も知らないモブですらない他人だということを突きつけられることに堪える。

「デキ婚か…」

喜ばしいのに、自分の価値観や自分でもなんとも説明がつかない回路を辿る感情が邪魔をする。

この心理全てを文字で表現できたら、その人にはノーベル賞をあげていいと思う。

ごめんなさい。勝手にこんな劣情を抱いてしまって、と凄く申し訳ない気持ちになった。

とりあえずおめでとう。私の推し。でも。

「明日休も...」

一日くらい休んでやる。

歩き出したら足音に気付いた。後ろから聞こえる。一瞬振り返ると、薄暗い路地に男性の人影が見えた。

まさかと思って足を早めると、同じ速度で足音はくっついて来た。