救国の魔女と滅国の皇子~プログラマーは魔法も作れる!?~

一条弥生

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プログラマー、魔法技術者に転職する

15.取り分

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「来たか嬢ちゃん。」

「お待たせして申し訳ありません。 」

「俺達が集まった時点で嬢ちゃんが着いてたら人間じゃないだろ。」

「そうですね...」

昼間に走った時の自分を思い出して苦笑いをした。

ラルさんが隣のイスを軽く叩いた。

村長のコンザさんの向かいであるその席に座った。

「昨日は挨拶ができなかったが、彼は補佐のハンソンだ。」

初老のハンソンさんの目は 私を訝しんでいた。

「昨日ご挨拶できず申し訳ありませんでした。椿、近衛です。」

「あんた、記憶が無いんだってたな。」

「はい。」

訝しげるのは当然だ。

何も警戒せず受け入れてくれたラルさん達の方が珍しい。

「サウルタイガーで得た金は、本当に分配でいいのかい?」

「はい。仕留めたのも解体して売ったのも村の方々ですし、素性の知れない私を助けてくださいましたから。」

「この国の金や物のことも覚えていないんだろ?」

「あっ。」

「説明してやるよ。この国の通貨の単位はネルクだ。金は4種類ある。鉄貨、銅貨、銀貨、金貨、大金貨だ。鉄貨1枚が1ネルク。銅貨1枚が100ネルク、銀貨1枚が1,000ネルク、金貨1枚が10,000ネルク、大金貨1枚が100万ネルクだ。大金貨は金庫に金を入れる時のかさを減らすくらいでしか使われない。」

話を聞いているだけなのに、ハンソンさんの視線が痛い。

「この村の1人あたりの月収が1,700ネルク前後。サウルタイガーは金貨284枚で売れた。」

ラルさんから村の月収8ヶ月分くらいと聞いた時はピンとこなかったけど、物凄い額だ。

「嬢ちゃんはどうしたい。」

「あまり持っていると危険なので少額にしたいです。まずは金貨を1枚いただいて、街で必要な物を買い揃えます。その際に、長期滞在ができる宿の予約と物価の調査をします。準備に使った分と宿に払う分を差し引いて、銀貨1枚をもらえれば十分です。買い物はできる限り金貨1枚で押さえますし、あまればお返しします。」

もらいすぎだろうか。顔色を伺っていたら、村長が困りげに頭を掻いた。

「それだけでいいのか?」

「村の方の収入を考えると貰いすぎだと思ったんですけど...」

「ラル。この子には欲張るってことを教えてやれ。こんなお人好しじゃ、身ぐるみ剥がされちまう。」

「おい、本当にそれだけか?後で要求するんじゃないだろうな。」

「ハンソンさん!嬢ちゃんはそんな子じゃない!」

「二日で何がわかる。俺達を騙す気何じゃないのか。」

「疑われるのは当然です。ですが、その疑心暗鬼は論理的ではないと思います。」

「なんだと?」

「もし仮に私が村の皆さんを騙してお金をせしめる気なら、割に合わないと思いませんか?サウルタイガーは金貨284枚で売れたんですよね。村の月給8ヶ月分も儲かったというのは、逆に言えば、サウルタイガー討伐の8分の1しか収入がないんですよ。見た感じ、村に貯金があるとは思えませんし、旨味はほとんど無いでしょう。サウルタイガーをあの場所まで連れて来て倒し、自分で瀕死の怪我を偽装して助けられ、記憶のない演技をする。騙し取るにも時間が掛かるので、村の人を騙してお金を奪うなんて合理的ではありません。」

ハンソンさんはムッとした顔で黙り込んでしまった。

「ハンソン、この子の言う通りだ。うちの村を騙したところで利益があるとは思えん。」

ハンソンさんはもそもそ私の事が気に食わないんだ。

そっぽを向いてしまったのを見てそう思った。
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