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過去との決別
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一
香戸晋太郎は、新野藩へ戻っていた。陣屋を訪れて、殿様である池之端泰文へ、目通りをしていた。
「晋太郎、戻ったか。そなたの働きのおかげで、一つの本懐を遂げた」
泰文は上機嫌であった。殿様の言う一つの本懐が、先の泰英死去である事は、明らかであった。
泰文は、自室にて何やら書を書いている所であった。その側には、男女の童が、虚ろげな表情で、来客である晋太郎を見ていた。
館を出た際に、晋太郎は急な頭痛に見舞われる。額の古傷が疼いてどうしようもなく、その場に片膝をついて、頭を手で押さえる。
脳裏に、子供時代の忌まわしき事柄が、浮かんでくる。その過去の映像には、今より若い泰文の姿と、先程の二人の子供のような虚ろな瞳をした自分が映っていた。
すぐに頭を振って、過去の亡霊を追いやろうとする。
「晋太郎様、大丈夫ですか?」
声がした方を見ると、あの葦の女が心配そうに立っていた。女はすぐに駆け寄ると、晋太郎の背中を擦ってやる。
「お前か、無用だ」
声を掛けられた事で、どうやら亡霊は去ったようであった。晋太郎は、女の手を振り払うように、起き上がる。情けは無用だ。背中でそう語っていた。
「いつまでも、俺のような子供を作り続ける訳にはいかぬ」
苦悶の表情で、館の門を一睨みすると、晋太郎はその場を去るのだった。
そんな晋太郎の様子を館の近くで、ひっそりと見ていた者がいた。あんずである。あんずは、高昌寺で晋太郎と話した事が気にかかり、長屋を飛び出して、一人新野へと赴いたのだった。
晋太郎を見張れば、真相が分かる筈だ。そう信じて、今、あんずは一人で尾行している。普段であれば、あんずの尾行など、晋太郎はすぐに察知しただろう。しかし、今は晋太郎も心が乱れており、周囲を警戒する余裕などはなかった。
「どこへ行くんだろう?」
あんずは、見つからないように、晋太郎の後をついていく。一人で誰にも何も告げずに、長屋を飛び出してきたが、こんなにも早く、晋太郎を見つける事が出来るとは思っていなかった。
晋太郎が街角を曲がる。見失ってはいけないと、あんずは急いで、その角を曲がった。ドンッという音と共に、あんずは勢いよく、後ろに倒れる。
「あら、貴女一人なの?」
したたかについた尻を撫でながら、声がした方を向くと、そこには、あの葦の女が立っていた。どうやら、この女に当ってしまったらしい。
あんずは、すぐ立ち上がると、瞬時に身構える。あんずがどうしたって、この忍びの女に敵う道理などはないけあれど、黙ってやられるつもりは毛頭なかった。
「そんなに警戒しなくっても、貴女一人始末したって、何にもなりゃしないよ」
葦の女は、そう言って、顎に手をやりながら、あんずを嘲笑う。そして、あんずにこう言ったのだ。
「新野のお館様を調べてみなよ。そうすれば、貴女の義父が何をしたのか、分かるかもしれない」
女はそう言うと、高笑いしながら、あんずに背を向けて、去っていった。気が付けば、晋太郎を見失ってしまい、その場で途方に暮れるのだった。
「癪に障るが、仕方ないか」
あの女に言われた通りに行動するのは、とても嫌だったけど、他に良い手が思いつかない。致し方なく、あんずは、陣屋を再び訪ねる事にした。
何度か訪れた事のある所だ。この館の殿様は、子供達に菓子を配る事がある。その時を見計らって、紛れ込めばいい。幸いにも、前回来た時に、門番とも顔馴染みになっていた事が功を奏した。今、子供達が館へ来ているという。
屋敷内に通されると、以前見た光景が広がる。数名の村の子供達の輪の中に、初老の男が一人居て、菓子を皆に配っている。泰文に違いなかった。
「私にも一つ下さい」
あんずは、思い切って、その輪に飛び込む。
「おや?そなたは、あんずではないか?」
久しぶりに見たあんずの顔をお館様は覚えていた。そうか、よくぞ参ったと手つかずの菓子をあんずに与える。
「私の義父は、山本一蔵と申します。御存じでしょう?」
菓子を手の平で受取りながら、あんずは、賭けに出た。ここで、シラをきられれば、どうしようもない。相手の顔や声、表情など、一瞬の変化を見逃さないようにしなければ。
「そうか、あの一蔵の娘であったか。何と不憫な…」
あんずが想像した物と全く違う反応が返って来た。そうであったか、そうであったかと、泰文は、あんずの手を労わるように何度も擦ってやる。
そして、菓子を配り終わったら、知っている事を話そうと、別室に通してくれた。あんずは、拍子抜けすると共に、この殿様は、やはり良い殿様なんだと、この時は思っていた。
それから、暫くして、泰文が室内へ入って来た。待たせた、待たせたとあんずの元へ寄ってくる。あんずは、慌てて平伏するが、すぐに、そんな物は良い、何が聞きたいのだ?と、優しい口調で、あんずに尋ねた。
「香戸晋太郎様と義父は、何か関係があったのですか?」
平伏しながら、あんずは思い切って言葉にする。しかし、すぐには、あんずの問いに対する泰文の答えは返って来ない。一つ、二つ、三つと心の中で、ゆっくり数えるが、まだない。
痺れを切らすように、恐る恐る顔を上げると、
「そうか、晋太郎がな。困った男だ」
顔を上げた先に居たのは、先程の人の好い殿様のそれではなかった。憤怒、もしくは、蔑み、憐み、もしくは、その全ての表情で、あんずの事を見ていた。
(私は間違えたんだ…)
一瞬にして、あんずを絶望が覆った。あんずは、泰文を見誤っていた。この殿様が、余一郎が睨んだ通りに、事件に関わっている事は、明らかだったのに。
泰文は、あんずの心の動きを察したのか、その場に立ち上がると、声を出すなと、普段の甲高い声からは、想像も出来ない太く、低い声でその場を制した。
一歩ずつ迫る泰文から、逃げ出したいのに、あんずは、恐怖の余り、声を出す事も、目を逸らす事も出来ないでいた。
(余一郎様…)
迫る恐怖に対して、あんずは、余一郎の名を心の中で唱えるしかなかった。
二
「何だ、どういう事だ?」
その報せを城で聞いて、余一郎は激怒した。あんずが行方不明という。密かに勘一郎から文が届いたのだ。
「馬じゃ、馬引けーっ」
廊下を怒鳴りながら進む。殿様のあまりの剣幕に、家臣たちが色めきたつ。
「殿、何事ですか?」
騒ぎを聞きつけた石田俊介が、馬に乗った余一郎の前に立ち塞がる。
「これより、新野へ向かう。遠乗りじゃ」
それだけ言うと、余一郎は馬を駆って、城を無理やり出てしまった。慌てた俊介とお付きの家来が、後を追う。あまりに急な事で、自分が乗る馬が見当たらない近習がいる始末であった。
「あんず、待っていろ。待っていろ」
余一郎は、馬上でずっとあんずの名を呼び続けていた。
一方、余一郎に文を送った張本人である勘一郎は、生涯一と言ってもよい程の焦りを感じていた。余一郎に文を出してから、富之助と共に、あんずの捜索の為、新野藩へ向かったのだが、その富之助と途中ではぐれてしまったのだ。
「どこに行ったのだ?あの馬鹿殿は」
心の声が、めい一杯漏れてしまう程に、勘一郎は焦っていた。何度も止めたのだが、富之助は頑として、一緒に行くと言って聞かない。それが、余り侍の責務だと言って譲らないのだ。
勘一郎は、後悔していた。あんずに、余一郎への想いを身分違いだから、断ち切るように言ってしまった。結果、あんずは、余り侍にも、富之助の殿にも、そして、自分にも誰にも頼る事が出来なくなってしまい、一人で突っ走ってしまったに違いないのだ。
「そういう真っ直ぐな娘なのだ」
あんずの事を思い、途端に心配になってきた。勘一郎の歩みは、駆けるといった表現が正しい程、速度を増していた。
「あの双子は、どこまで、俺に迷惑を掛けるんだ」
勘一郎は、とうとう大声を出しながら、走り続けている。気が付けば、新野藩の陣屋が、眼前に迫っていた。
「くそっ」
どこを探せど、あんずの姿も、富之助も見当たらない。勘一郎の焦りが募る。頭に血が上り、いっその事、陣屋の館に奇襲をかけようかと、充血した目を血走しらせながら、館を凝視していた。
「おいっ」
不意に背後から声を掛けられ、驚くと共に抜刀し、逆袈裟に刀を走らせていた。無意識の動作だった。
「手荒い歓迎だな。井上勘一郎」
自分の名を呼ぶ、その女の声には、聞き覚えがあった。
「何故、貴様がここにいる?」
勘一郎が突きつける刀の先には、葦の女が立っていた。女は、勘一郎の突然の抜刀にも、後ろに跳んで、難なく躱してみせた。
「何故とは、随分な事を言う」
私は新野の葦の者だ。居ても不思議はなかろう。それよりも、
「お前こそ、何故ここにいる?」
忍びの女は、こんな所で、油を売っていていいのか?と言わんばかりに、勘一郎を見て、含み笑いをする。その動作の一つ一つが、勘一郎を逆撫でする。
「貴様があんずをかどわかしたのではないのか?どこにいる」
葦の女は、クスクスと笑う。知りたければ、ついてきなと。お前が私の言う事を聞く勇気があるのならと。
「何の話しだ?貴様の事を信じる気などなかろう」
勘一郎は、無下もなく断る。ならば、あの可愛い女の子が、どうなっても知らないよ。もしもの事があったら、
「お前の真の主は、きっと嘆くだろう?」
葦の女の言葉に、勘一郎は愕然としていた。何をどこまで知っているのだ貴様は?その勘一郎の問いに、女は最早、答えようとはしない。
葦の女は、背を向け、勘一郎にお構い無しに、先を進んでいく。今なら斬れるかもしれない。勘一郎は思った。しかし、そうすれば、あんずへの手がかりが無くなってしまう。まして、敵の間者とはいえ、無防備の女を背後から斬ったとなれば、井上勘一郎の一生の名折れではないか。一種の甘い誘惑にかられながら、忸怩たる思いの中、勘一郎は、刀を鞘に収めて、女の後を付いて行くのだった。
勘一郎が葦の女と出会った数刻後に、馬を駆った余一郎は、新野藩へと着いた。どうやら、お付きの者達は、途中で撒けたらしい。今の内にとばかりに、余一郎は、馬を降りる。
さて、どうしたものか。城を急に飛び出したものの、当てがあった訳でもなく、文をくれた勘一郎と示し合わせている暇もなかった。余一郎は、陣屋より、少し離れた場所で、馬止めを探す事にした。
「おい、余り者こっちだ」
背後から声を掛けられるが、余一郎は声がした方を向かない。気づいていないのだろうか。
「貴様だ、余り侍」
やはり聞こえない振りをしていたようだ。余一郎は、さも気怠そうに、振り返る。
「おい、晋太郎よ。俺を余り者などと呼ぶな」
立っていたのは、香渡晋太郎であった。余一郎には、声の主が誰だか、姿を見ずとも分かっていた。久方ぶりの二人の再会であった。
「あんずを攫ったのは貴様か?」
先程の様子とは打って変わって、余一郎の表情が険しさを蓄えると共に、その背にある仕込み槍に手を伸ばす。
「俺ではない。だが、あの娘の居場所なら存じている」
晋太郎は、顎をしゃくる。その先には、陣屋の館が示されていた。
「あんずは、屋敷に閉じ込められている筈だ」
陣屋より少し離れた郊外のある廃寺に、余一郎は連れて来られた。そこに、勘一郎と葦の女もいる。事情を聞いた余一郎は、すぐ陣屋へ向かおうとする。
「せめて夜まで待て」
屋敷内の警護が手薄になってからの方がよい。晋太郎は、そう主張した。晋太郎に冷たい口調で言われると、癪に障ったのか、余一郎は、今にも襲いかかるかのような剣幕だ。
「夜まで待って、あんずに何かあれば如何するのだ?貴様の首を掛けるのか」
晋太郎に冷たい口調で言われると、癪に障ったのか、余一郎は、今にも襲いかかるかのような剣幕だ。
「俺が手を貸す」
いつもなら、余一郎の剣幕に負けじと、晋太郎も応戦するだろうが、今日の様子は少し違っていた。意外な言葉だった。真意を掴みかねた。何故?敵である筈のお前が。
あの娘は、まだ無事だ。屋敷に捉われた子供は、まずは、幽閉して空腹にするからな。そして、少しの食事と水だけを与える。それを数日繰り返して、相手の気力を削ぐんだ。捕らえた子供がもう逃げ出す力が無くなった頃を見計らって、次は豪勢な食事を与える。
今まで捕らえらえた子供達も、生まれて初めて食べる食事の数々だ。それを今度は数日続ける。そうしたらどうなると思う?年端も行かぬ子供が、そんな事を繰り返されたら、一体どうなると思う?
「順々な下僕に成り下がる」
口にする晋太郎の淡々とした口調に、あれ程の剣幕だった余一郎も、いつしか言葉を失っていた。
「おい、貴様の口振りじゃ、あの屋敷には、今までも多くの子供たちが囚われていたのか?」
勘一郎が驚きの声を上げる。その問いに、葦の女がゆっくりと頷いた。
「泰文の…あの男は、自分の好みの子を物色する為に、子供に菓子を配るのさ」
怪しまれぬよう、藩内の村の子たちには、手を出さずに、あんずのような遠方から噂を聞いてきた子たちをかどわかす。まるで、糸に絡まった蝶を狙う蜘蛛のようにな。
「それが真実だとして、何故貴様が?」
話を聞いていた余一郎が、言葉を発すると、何故か葦の女は、晋太郎の顔をじっと見つめる。
「囚われた娘は、以前の俺だからだ…」
絞り出すように、口にする晋太郎の表情が、全ての過去を語っていた。だからこそ、これ以上の犠牲者を出さない為にも。
「作戦はあるんだろうな?」
余一郎のその言葉が、晋太郎と手を組み、夜まで待つ合図であった。
三
夜になって、行動を開始した四名は、二手に分かれていた。
「屋敷に正面から乗り込むってのは、どういう作戦なんだ?」
二人になってから、余一郎は、ずっとこの調子で、晋太郎に文句を言い続けている。
「嫌なら、貴様は来なくともよいわ」
とうとう晋太郎に愛想を尽かされて、余一郎は黙ってむくれている。
つまりは、陽動作戦なのだ。屋敷前にて、余一郎が暴れて、それを晋太郎が抑える。その隙に、勘一郎と葦の女が、あんずや、他にいる囚われた子たちを助け出すのだ。
「俺が一番損な役じゃないか?」
余一郎はまだぶつぶつ言っている。そうこうしている内に、屋敷前に着いた。
「おい、どうする?門番に喧嘩でも売るのか?」
余一郎は、横にいる晋太郎に声を掛けたが、晋太郎からは、意外な声が返ってきた。
「尾けられている」
後ろを振り返ると、夜目で薄らとしか見えないが、二人のすぐ近くに人がいるのが分かる。
「あれは、お前の弟だぞ」
その晋太郎の声で、その尾行者が、姿が見えなかった富之助である事が分かった。
「兄上、やはり参られたか」
富之助、お前もあんずを助けにきたのだな。よし、この調子で一気に屋敷内へ攻め込むか?
弟との再会を喜ぶ余一郎に、富之助が言った事は、意外な言葉であった。
「屋敷に行くのは、御止め下さい」
富之助、一生の頼みです。富之助は、そう言って、二人を前に頭を下げる。
「何を言っている?あそこには、あんずを含めた、年端も行かぬ子供達が囚われているのだぞ」
敵陣の近くだという事も忘れて、余一郎は、思わず声を荒げた。何故、富之助がそのような事を言うのか、全く理解出来なかったからだ。
「兄上の御怒りは重々、しかし、曲げてお頼み申す」
何と富之助は、地面に両手を付きながら、額を泥に汚してまで、余一郎を止めようとしている。
「よせ、一国の主が」
一体どうしたというのだ。お前ならば、これがどのような事か、分かる筈だ。弟を抱き立たせながら、兄は着物についた泥を払ってやる。
「池之端泰文は、幕府の重臣と繋がっており申す」
そして、裏で小津藩の乗っ取りを企んでいる。今、奴に何かあれば、幕府は、我が藩に介入する絶好の機会を得る事になる。
「だから…」
「その為に、無実の罪のあんずを、子供達を見殺しにするのか?」
その先を言いかけて、言葉にすることが出来ない富之助の為に、余一郎は、言葉を続けた。
「晋太郎、行くぞ」
兄は弟に無情な言葉を放つ。しかし、構う事はない。間違っているのは、富之助の方なのだから。
「おかしいと思われぬか?香渡晋太郎は、泰文を殺す気なのだ。その前に私の手で、その男を止めさせて下さい」
富之助は、必死に余一郎に懇願する。もしあんずや子供達を救いたいだけであれば、勝手知ったる屋敷内に、忍びこんで、隙を見て、連れ出せば良い筈である。しかし、仇敵の筈の余一郎らの手を借りるのは、事がそれ以上となる証拠ではないのか?
「だったら、何だと言うのだ。そんな下衆野郎は、俺の手で殺したいくらいだ」
富之助の必死の説得も、余一郎の火に油を注ぐだけとなってしまったようだ。
「これ以上は、問答無用、是非も無しに御座いまする」
余一郎の言葉に、覚悟を決めた富之助は、腰の鞘から、ゆっくりと刀を抜いた。
「一旦、事を構えるなら、覚悟を決めろよ。俺は弟だからと言って、加減出来る人間ではないぞ」
余一郎は、そう言うと、背中の仕込み杖より、双頭の槍を抜く。兄弟の間に、緊張が走る。
「晋太郎、ここは、俺たちだけにしてくれ」
あんずを助ければ、貴様が何をしようが、俺は構わぬ。晋太郎を先に行かせるべく、余一郎は、富之助の前に立ちはだかる。
「俺は貴様ら兄弟が争うのを止めはせぬぞ」
むしろ、その方が目障りな奴らが片付いて、一石二鳥だ。晋太郎は、抜いた刀を鞘へ収めると、その場を去り始めた。
三人が言い争っている間に、騒ぎが聞こえたのか、門番たちが、こちらを指差して、歩いてくるのが見えた。
「行け!晋太郎」
それが、兄弟による果し合いの合図の言葉となった。富之助は刀を、余一郎は双頭の槍を手に、じりじりと間合いを詰め、相手の出方を伺う体勢を取るのだった。そんな二人を後に、晋太郎は、夜の闇に紛れるように走り去るのだった。
屋敷前にて、兄弟による熾烈な争いが繰り広げられていた頃、勘一郎と葦の女は、屋敷内への侵入を果たしていた。今は中庭の死角にて、屋敷内の様子を伺っている所だ。
「おい、先程の事はどういう意味だ?一体何を知っている?」
少し離れた所に潜む、葦の女に話しかける。しかし、勘一郎の問いかけにも、葦の女は応じようとはしない。
「俺の何を知っていやがる」
聞こえないのかと、勘一郎は、口に手をやって、もう一度言う。すると、何も言わなかった女が、無言で勘一郎の方へ迫る。
「貴様、見つかりたいのか?」
状況を弁えろ。貴様にも忍ぶ事の心得え程度はあるだろう。そう怒られてしまった。
「貴様の事なら、全て知っている。井上勘一郎殿」
勘一郎が何か言いかけると、行くぞと、女は足早に屋敷内へ入ってしまった。その時、勘一郎に向かってあの女が少し微笑んだ気がしたが、気のせいだろうと、先を急ぐのだった。
「お目当ての娘の居るのは、きっとこの奥だ」
女が顎で指し示す先に、丈夫そうな扉がある納戸があった。見張りが二人いる。さて、どうしたものか。勘一郎は、思案する。
「二人ぐらい、すぐに打ち倒してもよいのだが、騒がれて、手勢が増えると、ちとやっかいだ。」
お前は、どう思う?と言いかけて、後ろを振り返ると、先程まで居た筈の、葦の女の姿が見えない。おい、おい、と何度か呼んでみるが、やはり返事はこない。大声で呼ぶ分けにもいかないし、勘一郎は敵陣にて、急に不安を感じるのだった。
致し方無い。ここは、強行突破するしかない。覚悟を決めて、納戸へ突撃しようとしたその時であった。
「おい」
急に背後から、肩を叩かれる。勘一郎はそのまま固まってしまう。ゆっくりと振り返ると、そこに居たのは、香渡晋太郎であった。
「貴様、脅かすな。何故、貴様一人なのだ?」
余一郎は、どうしたかと聞くが、貴様こそ一人で何をしていると聞かれ、ここで手をこまねいていたとは、言えずにいた。
「余り侍は、兄弟喧嘩の真っ最中だ」
それは、どういう意味だと、勘一郎は聞こうとしたが、晋太郎は行くぞと一言だけで、その場から納戸に向かって動いていた。
「香戸様、屋敷前が何やら騒がしいが、何か御座りましたか?」
そう納戸前の見張りに声を掛けられると、屋敷前で、酔っ払いが喧嘩をしておる。ここは代わるゆえ、見て来てくれぬかと言うと、見張りの男は、施錠された鍵を渡して、その場から立ち去るのだった。
「早くしろ、すぐに戻ってくるぞ」
上手く行ったと、晋太郎は、受け取った鍵を勘一郎に投げ渡しながらそう言う。鍵を受け取った勘一郎は、すぐに開錠する。
そして、二人で示し合わせると、せーのっの声で、重い扉を開けるのだった。
「よし、開いたぞ。もう大丈夫だ」
納戸の中に、声を掛けながら入っていく。あいにくと灯りが無いので、暗闇の中ではあったが、とにかく希望の扉は開いたのだ。あんず、おい、無事か?納戸の中で、勘一郎の声が響いていた。
四
勘一郎が屋敷内にて、悪戦苦闘していた頃、屋敷の門前では、未だ兄弟による睨み合いが続いていた。
「兄上、まだ分からないのか?」
「お前こそ、見損なったぞ」
兄弟は、刃でも言葉を交わす。余一郎は槍を、富之助は刀を手に取り、激しい競り合いを続ける。二人とも、本気の太刀筋である。
その激しい争いのせいで、門前に集まった陣屋に勤める藩士たちが集まってきていたが、近づく事も出来ず、ただ兄弟の争いを、固唾を飲んで、見守っていた。
「あんずにもしもの事があらば、お前とて許さぬぞ」
「ならば、ここで我らが争う暇など無い筈」
ぬかせ!富之助の言葉に激昂した余一郎が、更なる激しい打撃を繰り出したその時であった。
何かの爆発音と共に、陣屋の屋敷にて、火の手が上がったのだ。その日は、風足の強い夜であった。そのせいで、火の手は、見る間にぐんぐんと伸びて、屋敷内を大火と化すのに、僅かな時間しかかからなかった。
この火事の唯一の功績があるとするならば、それは、不毛な兄弟喧嘩を止めた事だろう。その場にいた、新谷藩の藩士たちも、何が起こったのか理解出来ずに、ただただ自分達の屋敷が燃えていくのを見守っているだけであった。
「まずいぞこれは」
その中で、一番早く、反応したのは、やはり余一郎であった。一旦、休戦じゃ!と弟に告げると、すぐに屋敷内に走り出した。
「お前たち、ぼさっとせずに、火を消すんじゃ」
屋敷の門を潜り抜ける際に、火を見たまま立ち尽くす、藩士たちに声を掛ける。
「近隣の民を逃がせ。急ぐんだ」
余一郎の後ろから、富之助の声がする。余一郎と富之助は、一瞬目線を合わせた。しかし、お互いに何も言わない。兄弟の声にようやく我に返った藩士達が、騒ぎ始める。屋敷内は、にわかに騒がしくなり始めた。
「あんずーっあんず、どこじゃ!」
あんずの姿を求めて、屋敷の中庭に入る。余一郎は、大声であんずの名を呼び続ける。今や屋敷内は大混乱の様子で、この侵入者を気にする余裕のある者など、一人としていなかった。
「こっちじゃ、余一郎!」
声のする方を向くと、屋敷内の一角から、勘一郎がこちらへ向かってくる。その両腕には、しっかりとあんずの身体が抱きかかえられていた。
「あんず、無事か?」
勘一郎の元へ駆け寄ると、あんずの身体へと、両腕を伸ばす。
「すまぬ、すまぬ」
自分の両腕に引き寄せたあんずの顔を少し強く、何度も撫ぜながら、話しかける。助けるのが遅かった。気づいてやれんで、すまなかったと、何度も謝っている。
「余一郎様…」
あんずは、衰弱はしているものの、どうやら命に関わる怪我はなさそうであった。
ふと目をやると、勘一郎の後ろに隠れるように、数名の子供達の姿が見える。皆、一様に脅えて、虚ろな表情をしている。この子供達の顔を見るだけで、沸々とした怒りが込み上げてくる。
「皆も私と一緒なの。助けてあげて…」
あんずは、絞り出すかのように、言葉にすると、ほっとしたのか眠ってしまったのだった。余一郎は、目を閉じたあんずの頬を労わるように、そっと撫ぜたのだった。
「あの女、あんな所にいやがった」
上を見上げる勘一郎の目線には、屋敷の屋根に立つ、葦の女の姿があった。
「あの女が火をつけたに違いない」
勘一郎は、そう憎々しげに言ったが、余一郎にとっては、葦の女の思惑など、どうでもよい事であった。
「香戸晋太郎の姿が見あたらぬが?」
振り向くと、いつの間にか、富之助の姿がそこにあった。富之助の言う通り、先に屋敷に侵入した筈の晋太郎の姿が見えない。勘一郎に聞くと、子供達の救出までは一緒だったが、火の手が上がり、屋敷内が混乱する内に、何処かへ姿を消したという。
「ん?何だ」
再び屋根上に立つ葦の女に目をやると、屋敷内の一室を指差しているのが分かる。三人がその指の先に、目線を移している時、男の断末魔のような叫び声が、聞こえてきた。
「まさか…」
富之助は、手で口を塞ぎ絶句する。余一郎は、片膝を付きながら、抱くあんずの両腕の力が少し強くなるのを自分でも感じていた。
「やりやがったな」
朱に染まった全身を拭う事無く、ゆっくりとした歩調で、部屋から出てくる晋太郎の禍々しい姿を見た勘一郎が、最初に口を開いた。
「これは、大変な事になった…」
富之助が微かにそう呟くのを余一郎だけには、聞こえていた。
「あっはっはっはっ」
晋太郎の姿を見て、葦の女が高笑いする。それを受けてか、晋太郎は、何も言わず、叫ばず、ただその右手に強く握った刀を大きく頭上に掲げてみせた。その刀身からは、恐らく標的を切った痕跡だろう血が滴っては、床に落ちていた。
まるでこれが、香戸晋太郎による静かなる勝鬨であるかのようであった。陣屋は未だ燃え続けていたのだった。
香戸晋太郎は、新野藩へ戻っていた。陣屋を訪れて、殿様である池之端泰文へ、目通りをしていた。
「晋太郎、戻ったか。そなたの働きのおかげで、一つの本懐を遂げた」
泰文は上機嫌であった。殿様の言う一つの本懐が、先の泰英死去である事は、明らかであった。
泰文は、自室にて何やら書を書いている所であった。その側には、男女の童が、虚ろげな表情で、来客である晋太郎を見ていた。
館を出た際に、晋太郎は急な頭痛に見舞われる。額の古傷が疼いてどうしようもなく、その場に片膝をついて、頭を手で押さえる。
脳裏に、子供時代の忌まわしき事柄が、浮かんでくる。その過去の映像には、今より若い泰文の姿と、先程の二人の子供のような虚ろな瞳をした自分が映っていた。
すぐに頭を振って、過去の亡霊を追いやろうとする。
「晋太郎様、大丈夫ですか?」
声がした方を見ると、あの葦の女が心配そうに立っていた。女はすぐに駆け寄ると、晋太郎の背中を擦ってやる。
「お前か、無用だ」
声を掛けられた事で、どうやら亡霊は去ったようであった。晋太郎は、女の手を振り払うように、起き上がる。情けは無用だ。背中でそう語っていた。
「いつまでも、俺のような子供を作り続ける訳にはいかぬ」
苦悶の表情で、館の門を一睨みすると、晋太郎はその場を去るのだった。
そんな晋太郎の様子を館の近くで、ひっそりと見ていた者がいた。あんずである。あんずは、高昌寺で晋太郎と話した事が気にかかり、長屋を飛び出して、一人新野へと赴いたのだった。
晋太郎を見張れば、真相が分かる筈だ。そう信じて、今、あんずは一人で尾行している。普段であれば、あんずの尾行など、晋太郎はすぐに察知しただろう。しかし、今は晋太郎も心が乱れており、周囲を警戒する余裕などはなかった。
「どこへ行くんだろう?」
あんずは、見つからないように、晋太郎の後をついていく。一人で誰にも何も告げずに、長屋を飛び出してきたが、こんなにも早く、晋太郎を見つける事が出来るとは思っていなかった。
晋太郎が街角を曲がる。見失ってはいけないと、あんずは急いで、その角を曲がった。ドンッという音と共に、あんずは勢いよく、後ろに倒れる。
「あら、貴女一人なの?」
したたかについた尻を撫でながら、声がした方を向くと、そこには、あの葦の女が立っていた。どうやら、この女に当ってしまったらしい。
あんずは、すぐ立ち上がると、瞬時に身構える。あんずがどうしたって、この忍びの女に敵う道理などはないけあれど、黙ってやられるつもりは毛頭なかった。
「そんなに警戒しなくっても、貴女一人始末したって、何にもなりゃしないよ」
葦の女は、そう言って、顎に手をやりながら、あんずを嘲笑う。そして、あんずにこう言ったのだ。
「新野のお館様を調べてみなよ。そうすれば、貴女の義父が何をしたのか、分かるかもしれない」
女はそう言うと、高笑いしながら、あんずに背を向けて、去っていった。気が付けば、晋太郎を見失ってしまい、その場で途方に暮れるのだった。
「癪に障るが、仕方ないか」
あの女に言われた通りに行動するのは、とても嫌だったけど、他に良い手が思いつかない。致し方なく、あんずは、陣屋を再び訪ねる事にした。
何度か訪れた事のある所だ。この館の殿様は、子供達に菓子を配る事がある。その時を見計らって、紛れ込めばいい。幸いにも、前回来た時に、門番とも顔馴染みになっていた事が功を奏した。今、子供達が館へ来ているという。
屋敷内に通されると、以前見た光景が広がる。数名の村の子供達の輪の中に、初老の男が一人居て、菓子を皆に配っている。泰文に違いなかった。
「私にも一つ下さい」
あんずは、思い切って、その輪に飛び込む。
「おや?そなたは、あんずではないか?」
久しぶりに見たあんずの顔をお館様は覚えていた。そうか、よくぞ参ったと手つかずの菓子をあんずに与える。
「私の義父は、山本一蔵と申します。御存じでしょう?」
菓子を手の平で受取りながら、あんずは、賭けに出た。ここで、シラをきられれば、どうしようもない。相手の顔や声、表情など、一瞬の変化を見逃さないようにしなければ。
「そうか、あの一蔵の娘であったか。何と不憫な…」
あんずが想像した物と全く違う反応が返って来た。そうであったか、そうであったかと、泰文は、あんずの手を労わるように何度も擦ってやる。
そして、菓子を配り終わったら、知っている事を話そうと、別室に通してくれた。あんずは、拍子抜けすると共に、この殿様は、やはり良い殿様なんだと、この時は思っていた。
それから、暫くして、泰文が室内へ入って来た。待たせた、待たせたとあんずの元へ寄ってくる。あんずは、慌てて平伏するが、すぐに、そんな物は良い、何が聞きたいのだ?と、優しい口調で、あんずに尋ねた。
「香戸晋太郎様と義父は、何か関係があったのですか?」
平伏しながら、あんずは思い切って言葉にする。しかし、すぐには、あんずの問いに対する泰文の答えは返って来ない。一つ、二つ、三つと心の中で、ゆっくり数えるが、まだない。
痺れを切らすように、恐る恐る顔を上げると、
「そうか、晋太郎がな。困った男だ」
顔を上げた先に居たのは、先程の人の好い殿様のそれではなかった。憤怒、もしくは、蔑み、憐み、もしくは、その全ての表情で、あんずの事を見ていた。
(私は間違えたんだ…)
一瞬にして、あんずを絶望が覆った。あんずは、泰文を見誤っていた。この殿様が、余一郎が睨んだ通りに、事件に関わっている事は、明らかだったのに。
泰文は、あんずの心の動きを察したのか、その場に立ち上がると、声を出すなと、普段の甲高い声からは、想像も出来ない太く、低い声でその場を制した。
一歩ずつ迫る泰文から、逃げ出したいのに、あんずは、恐怖の余り、声を出す事も、目を逸らす事も出来ないでいた。
(余一郎様…)
迫る恐怖に対して、あんずは、余一郎の名を心の中で唱えるしかなかった。
二
「何だ、どういう事だ?」
その報せを城で聞いて、余一郎は激怒した。あんずが行方不明という。密かに勘一郎から文が届いたのだ。
「馬じゃ、馬引けーっ」
廊下を怒鳴りながら進む。殿様のあまりの剣幕に、家臣たちが色めきたつ。
「殿、何事ですか?」
騒ぎを聞きつけた石田俊介が、馬に乗った余一郎の前に立ち塞がる。
「これより、新野へ向かう。遠乗りじゃ」
それだけ言うと、余一郎は馬を駆って、城を無理やり出てしまった。慌てた俊介とお付きの家来が、後を追う。あまりに急な事で、自分が乗る馬が見当たらない近習がいる始末であった。
「あんず、待っていろ。待っていろ」
余一郎は、馬上でずっとあんずの名を呼び続けていた。
一方、余一郎に文を送った張本人である勘一郎は、生涯一と言ってもよい程の焦りを感じていた。余一郎に文を出してから、富之助と共に、あんずの捜索の為、新野藩へ向かったのだが、その富之助と途中ではぐれてしまったのだ。
「どこに行ったのだ?あの馬鹿殿は」
心の声が、めい一杯漏れてしまう程に、勘一郎は焦っていた。何度も止めたのだが、富之助は頑として、一緒に行くと言って聞かない。それが、余り侍の責務だと言って譲らないのだ。
勘一郎は、後悔していた。あんずに、余一郎への想いを身分違いだから、断ち切るように言ってしまった。結果、あんずは、余り侍にも、富之助の殿にも、そして、自分にも誰にも頼る事が出来なくなってしまい、一人で突っ走ってしまったに違いないのだ。
「そういう真っ直ぐな娘なのだ」
あんずの事を思い、途端に心配になってきた。勘一郎の歩みは、駆けるといった表現が正しい程、速度を増していた。
「あの双子は、どこまで、俺に迷惑を掛けるんだ」
勘一郎は、とうとう大声を出しながら、走り続けている。気が付けば、新野藩の陣屋が、眼前に迫っていた。
「くそっ」
どこを探せど、あんずの姿も、富之助も見当たらない。勘一郎の焦りが募る。頭に血が上り、いっその事、陣屋の館に奇襲をかけようかと、充血した目を血走しらせながら、館を凝視していた。
「おいっ」
不意に背後から声を掛けられ、驚くと共に抜刀し、逆袈裟に刀を走らせていた。無意識の動作だった。
「手荒い歓迎だな。井上勘一郎」
自分の名を呼ぶ、その女の声には、聞き覚えがあった。
「何故、貴様がここにいる?」
勘一郎が突きつける刀の先には、葦の女が立っていた。女は、勘一郎の突然の抜刀にも、後ろに跳んで、難なく躱してみせた。
「何故とは、随分な事を言う」
私は新野の葦の者だ。居ても不思議はなかろう。それよりも、
「お前こそ、何故ここにいる?」
忍びの女は、こんな所で、油を売っていていいのか?と言わんばかりに、勘一郎を見て、含み笑いをする。その動作の一つ一つが、勘一郎を逆撫でする。
「貴様があんずをかどわかしたのではないのか?どこにいる」
葦の女は、クスクスと笑う。知りたければ、ついてきなと。お前が私の言う事を聞く勇気があるのならと。
「何の話しだ?貴様の事を信じる気などなかろう」
勘一郎は、無下もなく断る。ならば、あの可愛い女の子が、どうなっても知らないよ。もしもの事があったら、
「お前の真の主は、きっと嘆くだろう?」
葦の女の言葉に、勘一郎は愕然としていた。何をどこまで知っているのだ貴様は?その勘一郎の問いに、女は最早、答えようとはしない。
葦の女は、背を向け、勘一郎にお構い無しに、先を進んでいく。今なら斬れるかもしれない。勘一郎は思った。しかし、そうすれば、あんずへの手がかりが無くなってしまう。まして、敵の間者とはいえ、無防備の女を背後から斬ったとなれば、井上勘一郎の一生の名折れではないか。一種の甘い誘惑にかられながら、忸怩たる思いの中、勘一郎は、刀を鞘に収めて、女の後を付いて行くのだった。
勘一郎が葦の女と出会った数刻後に、馬を駆った余一郎は、新野藩へと着いた。どうやら、お付きの者達は、途中で撒けたらしい。今の内にとばかりに、余一郎は、馬を降りる。
さて、どうしたものか。城を急に飛び出したものの、当てがあった訳でもなく、文をくれた勘一郎と示し合わせている暇もなかった。余一郎は、陣屋より、少し離れた場所で、馬止めを探す事にした。
「おい、余り者こっちだ」
背後から声を掛けられるが、余一郎は声がした方を向かない。気づいていないのだろうか。
「貴様だ、余り侍」
やはり聞こえない振りをしていたようだ。余一郎は、さも気怠そうに、振り返る。
「おい、晋太郎よ。俺を余り者などと呼ぶな」
立っていたのは、香渡晋太郎であった。余一郎には、声の主が誰だか、姿を見ずとも分かっていた。久方ぶりの二人の再会であった。
「あんずを攫ったのは貴様か?」
先程の様子とは打って変わって、余一郎の表情が険しさを蓄えると共に、その背にある仕込み槍に手を伸ばす。
「俺ではない。だが、あの娘の居場所なら存じている」
晋太郎は、顎をしゃくる。その先には、陣屋の館が示されていた。
「あんずは、屋敷に閉じ込められている筈だ」
陣屋より少し離れた郊外のある廃寺に、余一郎は連れて来られた。そこに、勘一郎と葦の女もいる。事情を聞いた余一郎は、すぐ陣屋へ向かおうとする。
「せめて夜まで待て」
屋敷内の警護が手薄になってからの方がよい。晋太郎は、そう主張した。晋太郎に冷たい口調で言われると、癪に障ったのか、余一郎は、今にも襲いかかるかのような剣幕だ。
「夜まで待って、あんずに何かあれば如何するのだ?貴様の首を掛けるのか」
晋太郎に冷たい口調で言われると、癪に障ったのか、余一郎は、今にも襲いかかるかのような剣幕だ。
「俺が手を貸す」
いつもなら、余一郎の剣幕に負けじと、晋太郎も応戦するだろうが、今日の様子は少し違っていた。意外な言葉だった。真意を掴みかねた。何故?敵である筈のお前が。
あの娘は、まだ無事だ。屋敷に捉われた子供は、まずは、幽閉して空腹にするからな。そして、少しの食事と水だけを与える。それを数日繰り返して、相手の気力を削ぐんだ。捕らえた子供がもう逃げ出す力が無くなった頃を見計らって、次は豪勢な食事を与える。
今まで捕らえらえた子供達も、生まれて初めて食べる食事の数々だ。それを今度は数日続ける。そうしたらどうなると思う?年端も行かぬ子供が、そんな事を繰り返されたら、一体どうなると思う?
「順々な下僕に成り下がる」
口にする晋太郎の淡々とした口調に、あれ程の剣幕だった余一郎も、いつしか言葉を失っていた。
「おい、貴様の口振りじゃ、あの屋敷には、今までも多くの子供たちが囚われていたのか?」
勘一郎が驚きの声を上げる。その問いに、葦の女がゆっくりと頷いた。
「泰文の…あの男は、自分の好みの子を物色する為に、子供に菓子を配るのさ」
怪しまれぬよう、藩内の村の子たちには、手を出さずに、あんずのような遠方から噂を聞いてきた子たちをかどわかす。まるで、糸に絡まった蝶を狙う蜘蛛のようにな。
「それが真実だとして、何故貴様が?」
話を聞いていた余一郎が、言葉を発すると、何故か葦の女は、晋太郎の顔をじっと見つめる。
「囚われた娘は、以前の俺だからだ…」
絞り出すように、口にする晋太郎の表情が、全ての過去を語っていた。だからこそ、これ以上の犠牲者を出さない為にも。
「作戦はあるんだろうな?」
余一郎のその言葉が、晋太郎と手を組み、夜まで待つ合図であった。
三
夜になって、行動を開始した四名は、二手に分かれていた。
「屋敷に正面から乗り込むってのは、どういう作戦なんだ?」
二人になってから、余一郎は、ずっとこの調子で、晋太郎に文句を言い続けている。
「嫌なら、貴様は来なくともよいわ」
とうとう晋太郎に愛想を尽かされて、余一郎は黙ってむくれている。
つまりは、陽動作戦なのだ。屋敷前にて、余一郎が暴れて、それを晋太郎が抑える。その隙に、勘一郎と葦の女が、あんずや、他にいる囚われた子たちを助け出すのだ。
「俺が一番損な役じゃないか?」
余一郎はまだぶつぶつ言っている。そうこうしている内に、屋敷前に着いた。
「おい、どうする?門番に喧嘩でも売るのか?」
余一郎は、横にいる晋太郎に声を掛けたが、晋太郎からは、意外な声が返ってきた。
「尾けられている」
後ろを振り返ると、夜目で薄らとしか見えないが、二人のすぐ近くに人がいるのが分かる。
「あれは、お前の弟だぞ」
その晋太郎の声で、その尾行者が、姿が見えなかった富之助である事が分かった。
「兄上、やはり参られたか」
富之助、お前もあんずを助けにきたのだな。よし、この調子で一気に屋敷内へ攻め込むか?
弟との再会を喜ぶ余一郎に、富之助が言った事は、意外な言葉であった。
「屋敷に行くのは、御止め下さい」
富之助、一生の頼みです。富之助は、そう言って、二人を前に頭を下げる。
「何を言っている?あそこには、あんずを含めた、年端も行かぬ子供達が囚われているのだぞ」
敵陣の近くだという事も忘れて、余一郎は、思わず声を荒げた。何故、富之助がそのような事を言うのか、全く理解出来なかったからだ。
「兄上の御怒りは重々、しかし、曲げてお頼み申す」
何と富之助は、地面に両手を付きながら、額を泥に汚してまで、余一郎を止めようとしている。
「よせ、一国の主が」
一体どうしたというのだ。お前ならば、これがどのような事か、分かる筈だ。弟を抱き立たせながら、兄は着物についた泥を払ってやる。
「池之端泰文は、幕府の重臣と繋がっており申す」
そして、裏で小津藩の乗っ取りを企んでいる。今、奴に何かあれば、幕府は、我が藩に介入する絶好の機会を得る事になる。
「だから…」
「その為に、無実の罪のあんずを、子供達を見殺しにするのか?」
その先を言いかけて、言葉にすることが出来ない富之助の為に、余一郎は、言葉を続けた。
「晋太郎、行くぞ」
兄は弟に無情な言葉を放つ。しかし、構う事はない。間違っているのは、富之助の方なのだから。
「おかしいと思われぬか?香渡晋太郎は、泰文を殺す気なのだ。その前に私の手で、その男を止めさせて下さい」
富之助は、必死に余一郎に懇願する。もしあんずや子供達を救いたいだけであれば、勝手知ったる屋敷内に、忍びこんで、隙を見て、連れ出せば良い筈である。しかし、仇敵の筈の余一郎らの手を借りるのは、事がそれ以上となる証拠ではないのか?
「だったら、何だと言うのだ。そんな下衆野郎は、俺の手で殺したいくらいだ」
富之助の必死の説得も、余一郎の火に油を注ぐだけとなってしまったようだ。
「これ以上は、問答無用、是非も無しに御座いまする」
余一郎の言葉に、覚悟を決めた富之助は、腰の鞘から、ゆっくりと刀を抜いた。
「一旦、事を構えるなら、覚悟を決めろよ。俺は弟だからと言って、加減出来る人間ではないぞ」
余一郎は、そう言うと、背中の仕込み杖より、双頭の槍を抜く。兄弟の間に、緊張が走る。
「晋太郎、ここは、俺たちだけにしてくれ」
あんずを助ければ、貴様が何をしようが、俺は構わぬ。晋太郎を先に行かせるべく、余一郎は、富之助の前に立ちはだかる。
「俺は貴様ら兄弟が争うのを止めはせぬぞ」
むしろ、その方が目障りな奴らが片付いて、一石二鳥だ。晋太郎は、抜いた刀を鞘へ収めると、その場を去り始めた。
三人が言い争っている間に、騒ぎが聞こえたのか、門番たちが、こちらを指差して、歩いてくるのが見えた。
「行け!晋太郎」
それが、兄弟による果し合いの合図の言葉となった。富之助は刀を、余一郎は双頭の槍を手に、じりじりと間合いを詰め、相手の出方を伺う体勢を取るのだった。そんな二人を後に、晋太郎は、夜の闇に紛れるように走り去るのだった。
屋敷前にて、兄弟による熾烈な争いが繰り広げられていた頃、勘一郎と葦の女は、屋敷内への侵入を果たしていた。今は中庭の死角にて、屋敷内の様子を伺っている所だ。
「おい、先程の事はどういう意味だ?一体何を知っている?」
少し離れた所に潜む、葦の女に話しかける。しかし、勘一郎の問いかけにも、葦の女は応じようとはしない。
「俺の何を知っていやがる」
聞こえないのかと、勘一郎は、口に手をやって、もう一度言う。すると、何も言わなかった女が、無言で勘一郎の方へ迫る。
「貴様、見つかりたいのか?」
状況を弁えろ。貴様にも忍ぶ事の心得え程度はあるだろう。そう怒られてしまった。
「貴様の事なら、全て知っている。井上勘一郎殿」
勘一郎が何か言いかけると、行くぞと、女は足早に屋敷内へ入ってしまった。その時、勘一郎に向かってあの女が少し微笑んだ気がしたが、気のせいだろうと、先を急ぐのだった。
「お目当ての娘の居るのは、きっとこの奥だ」
女が顎で指し示す先に、丈夫そうな扉がある納戸があった。見張りが二人いる。さて、どうしたものか。勘一郎は、思案する。
「二人ぐらい、すぐに打ち倒してもよいのだが、騒がれて、手勢が増えると、ちとやっかいだ。」
お前は、どう思う?と言いかけて、後ろを振り返ると、先程まで居た筈の、葦の女の姿が見えない。おい、おい、と何度か呼んでみるが、やはり返事はこない。大声で呼ぶ分けにもいかないし、勘一郎は敵陣にて、急に不安を感じるのだった。
致し方無い。ここは、強行突破するしかない。覚悟を決めて、納戸へ突撃しようとしたその時であった。
「おい」
急に背後から、肩を叩かれる。勘一郎はそのまま固まってしまう。ゆっくりと振り返ると、そこに居たのは、香渡晋太郎であった。
「貴様、脅かすな。何故、貴様一人なのだ?」
余一郎は、どうしたかと聞くが、貴様こそ一人で何をしていると聞かれ、ここで手をこまねいていたとは、言えずにいた。
「余り侍は、兄弟喧嘩の真っ最中だ」
それは、どういう意味だと、勘一郎は聞こうとしたが、晋太郎は行くぞと一言だけで、その場から納戸に向かって動いていた。
「香戸様、屋敷前が何やら騒がしいが、何か御座りましたか?」
そう納戸前の見張りに声を掛けられると、屋敷前で、酔っ払いが喧嘩をしておる。ここは代わるゆえ、見て来てくれぬかと言うと、見張りの男は、施錠された鍵を渡して、その場から立ち去るのだった。
「早くしろ、すぐに戻ってくるぞ」
上手く行ったと、晋太郎は、受け取った鍵を勘一郎に投げ渡しながらそう言う。鍵を受け取った勘一郎は、すぐに開錠する。
そして、二人で示し合わせると、せーのっの声で、重い扉を開けるのだった。
「よし、開いたぞ。もう大丈夫だ」
納戸の中に、声を掛けながら入っていく。あいにくと灯りが無いので、暗闇の中ではあったが、とにかく希望の扉は開いたのだ。あんず、おい、無事か?納戸の中で、勘一郎の声が響いていた。
四
勘一郎が屋敷内にて、悪戦苦闘していた頃、屋敷の門前では、未だ兄弟による睨み合いが続いていた。
「兄上、まだ分からないのか?」
「お前こそ、見損なったぞ」
兄弟は、刃でも言葉を交わす。余一郎は槍を、富之助は刀を手に取り、激しい競り合いを続ける。二人とも、本気の太刀筋である。
その激しい争いのせいで、門前に集まった陣屋に勤める藩士たちが集まってきていたが、近づく事も出来ず、ただ兄弟の争いを、固唾を飲んで、見守っていた。
「あんずにもしもの事があらば、お前とて許さぬぞ」
「ならば、ここで我らが争う暇など無い筈」
ぬかせ!富之助の言葉に激昂した余一郎が、更なる激しい打撃を繰り出したその時であった。
何かの爆発音と共に、陣屋の屋敷にて、火の手が上がったのだ。その日は、風足の強い夜であった。そのせいで、火の手は、見る間にぐんぐんと伸びて、屋敷内を大火と化すのに、僅かな時間しかかからなかった。
この火事の唯一の功績があるとするならば、それは、不毛な兄弟喧嘩を止めた事だろう。その場にいた、新谷藩の藩士たちも、何が起こったのか理解出来ずに、ただただ自分達の屋敷が燃えていくのを見守っているだけであった。
「まずいぞこれは」
その中で、一番早く、反応したのは、やはり余一郎であった。一旦、休戦じゃ!と弟に告げると、すぐに屋敷内に走り出した。
「お前たち、ぼさっとせずに、火を消すんじゃ」
屋敷の門を潜り抜ける際に、火を見たまま立ち尽くす、藩士たちに声を掛ける。
「近隣の民を逃がせ。急ぐんだ」
余一郎の後ろから、富之助の声がする。余一郎と富之助は、一瞬目線を合わせた。しかし、お互いに何も言わない。兄弟の声にようやく我に返った藩士達が、騒ぎ始める。屋敷内は、にわかに騒がしくなり始めた。
「あんずーっあんず、どこじゃ!」
あんずの姿を求めて、屋敷の中庭に入る。余一郎は、大声であんずの名を呼び続ける。今や屋敷内は大混乱の様子で、この侵入者を気にする余裕のある者など、一人としていなかった。
「こっちじゃ、余一郎!」
声のする方を向くと、屋敷内の一角から、勘一郎がこちらへ向かってくる。その両腕には、しっかりとあんずの身体が抱きかかえられていた。
「あんず、無事か?」
勘一郎の元へ駆け寄ると、あんずの身体へと、両腕を伸ばす。
「すまぬ、すまぬ」
自分の両腕に引き寄せたあんずの顔を少し強く、何度も撫ぜながら、話しかける。助けるのが遅かった。気づいてやれんで、すまなかったと、何度も謝っている。
「余一郎様…」
あんずは、衰弱はしているものの、どうやら命に関わる怪我はなさそうであった。
ふと目をやると、勘一郎の後ろに隠れるように、数名の子供達の姿が見える。皆、一様に脅えて、虚ろな表情をしている。この子供達の顔を見るだけで、沸々とした怒りが込み上げてくる。
「皆も私と一緒なの。助けてあげて…」
あんずは、絞り出すかのように、言葉にすると、ほっとしたのか眠ってしまったのだった。余一郎は、目を閉じたあんずの頬を労わるように、そっと撫ぜたのだった。
「あの女、あんな所にいやがった」
上を見上げる勘一郎の目線には、屋敷の屋根に立つ、葦の女の姿があった。
「あの女が火をつけたに違いない」
勘一郎は、そう憎々しげに言ったが、余一郎にとっては、葦の女の思惑など、どうでもよい事であった。
「香戸晋太郎の姿が見あたらぬが?」
振り向くと、いつの間にか、富之助の姿がそこにあった。富之助の言う通り、先に屋敷に侵入した筈の晋太郎の姿が見えない。勘一郎に聞くと、子供達の救出までは一緒だったが、火の手が上がり、屋敷内が混乱する内に、何処かへ姿を消したという。
「ん?何だ」
再び屋根上に立つ葦の女に目をやると、屋敷内の一室を指差しているのが分かる。三人がその指の先に、目線を移している時、男の断末魔のような叫び声が、聞こえてきた。
「まさか…」
富之助は、手で口を塞ぎ絶句する。余一郎は、片膝を付きながら、抱くあんずの両腕の力が少し強くなるのを自分でも感じていた。
「やりやがったな」
朱に染まった全身を拭う事無く、ゆっくりとした歩調で、部屋から出てくる晋太郎の禍々しい姿を見た勘一郎が、最初に口を開いた。
「これは、大変な事になった…」
富之助が微かにそう呟くのを余一郎だけには、聞こえていた。
「あっはっはっはっ」
晋太郎の姿を見て、葦の女が高笑いする。それを受けてか、晋太郎は、何も言わず、叫ばず、ただその右手に強く握った刀を大きく頭上に掲げてみせた。その刀身からは、恐らく標的を切った痕跡だろう血が滴っては、床に落ちていた。
まるでこれが、香戸晋太郎による静かなる勝鬨であるかのようであった。陣屋は未だ燃え続けていたのだった。
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