君の未来に私はいらない

南 コウ

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第二章 日常に溶け込んでいく

第十三話 告白宣言

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 夕食時に透矢の妹達がやってくると、我が家の食卓は一気に賑やかになった。

 透矢には二人の妹がいる。上の妹は透矢とは六歳差で、下の妹は八歳差だ。この時代では二人ともまだ小学生だった。どちらもよく喋る子で、両親や朝陽とも楽しそうに会話をしていた。

「そういえば透矢くん、明後日が野球の試合なんだって?」

 こずえ姉さんが興味津々な表情で尋ねる。すると透矢は、ご飯を急いで飲み込んでから大きく頷いた。

「そうっすよ! 明後日は県予選の準々決勝です。相手は前北高校!」

「前北って、あんまり野球が強いイメージないけど、準々決勝まで進んでるんだね」

「今年から有名な監督が来たらしいっすよ。まあ、監督が凄かろうが、うちは負けませんけどね!」

 透矢はえっへんと胸を張って自信満々に宣言する。そんな透矢に同調するように、こずえ姉さんは大きく頷いた。

「伊崎高校も今年は凄いよね! 正直ここまで勝ち残るとは思わなかったよ!」

「今年はガチで甲子園目指してますよ! 先輩たちもやる気満々だし、俺もいますからね!」

 お調子者なところは相変わらずだ。透矢の勝気な態度にみんなが笑った。

「さすがエース! 期待してるよ!」

「おにいがいれば楽勝だよ!」

「頑張ってね! 透矢くん」

 透矢はみんなから英雄のように称えられていた。

 透矢はお調子者なところもあるが、野球には本気に打ち込んできた。小学校から少年野球チームに入っていて、中学時代も野球部でエースとして活躍していた。透矢の家の前を通りかかった時、庭で投球練習している姿を何度も見かけたことがある。

 ひたむきに努力して、周囲からも認められているのは素直に尊敬できる。俺もみんなに倣って、素直にエールを送った。

「透矢、頑張れよ」

「おう! 圭一郎も応援に来いよ」

「ああ、暇だったらな」

 そう答えた直後、朝陽が目を輝かせながら手を上げた。

「それじゃあ、私も応援に行く!」

「おお! 朝陽ちゃんも来てくれるのか! それじゃあ本気出さないとな」

 透矢はデレデレと笑う。その反応に、食卓はドッと笑いに包まれた。笑いが収まった頃、父さんが何気なく呟いた。

「でもまあ、透矢くんはまだ二年生だから来年もあるからね。あまり力まずに頑張るといいよ」

 透矢は一瞬だけ笑いを引っ込める。しかし、それはほんの一瞬で、すぐにいつものように能天気に笑った。

「そっすね! 空回りしない程度に頑張ります!」

 その後も和やかな空気のまま、夕食を終えた。



 夕食を終えた後、俺と透矢は縁側でスイカをかじっていた。

「圭一郎はスイカに塩をかける派?」

「かけない派」

「だよな! 俺も!」

 透矢はわっはっはと大袈裟に笑った。一体、何がそんなにおかしいのか?

「お前はさ、いつも楽しそうだよな」

「そりゃあ、しけた面してるよりは、笑ってるほうがいいだろう。しんどいときでも笑っていれば気力を保っていられるしな」

「そんなもんか?」

「そうだよ! だから圭一郎も笑え!」

 透矢はスイカの汁が付いた指先で、俺の頬をつまんだ。

「やめろって! スイカの汁がついたぞ!」

 俺が眉を顰めると、透矢はもう一度、わっはっはと楽しそうに笑った。スイカを食べ終わると、透矢は縁側でごろんと寝転んだ。

「なあ、圭一郎。聞いてもいいか?」
「なんだ?」

 妙に改まった言い方をするもんだから、こっちも身構えてしまう。透矢は俺の表情を伺いながら話した。

「お前さ、日和のこと、どう思ってんの?」

 唐突な質問に俺は固まる。咄嗟に過去の記憶を引っ張り出す。そういえば過去にも、透矢に同じ質問をされたような気がする。

 あの時の俺は、どんな返事をしたんだっけ? 恐らくはこんな返事だった気がする。

「どうって、ただの幼馴染だよ」

 俺にとって日和は、家族の次に長い時間を過ごしてきた存在だ。一緒にいるのが当たり前で、隣にいるとしっくりくる。だからといって、恋人のような甘い雰囲気が流れるわけでもなく、あくまで穏やかで優しい時間が流れて行く。

 この関係は幼馴染という以外に言いようがない。少なくともこの時点では。

「本当に?」

 透矢は真意を探るように聞き返す。突き刺さるような視線に居心地が悪くなり、俺は視線を逸らした。

「本当だよ」

 はっきりと告げたが、透矢はまだ疑っているようだった。二人の間に生暖かい風が吹く。微妙な空気のまま、沈黙が走った。俺は気まずさを紛らわすようにスイカを齧った。

 透矢は、夜空を見上げながら言う。

「俺さ、県大会で優勝したら、日和に告白する」

「は?」

 思いがけない言葉を投げかけられてフリーズする。

 透矢が日和に告白? そんなシチュエーションは、過去には存在しなかったはずだ。そもそも透矢は、日和のことが好きだったのか?

 思考が追い付かず、透矢の横顔を見つめることしかできない。固まる俺を見て、透矢はおかしそうに吹き出した。

「なんだよ、その顔!」

 それからひょいっと身体を起こし、俺の肩に手を置く。

「冗談だよ、真に受けんな」

 透矢はいつものように笑った。
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