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翔真side
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先日、親父に縁談の白紙を申し出た時、『何を馬鹿なことを言っているんだ。無理に決まっている。自分が後継者だということを忘れるな』と言って取り合おうとしなかった。
俺が付き合っている人がいると言っても突っぱねられた。
その時、言い合いをするのも面倒になり、また日を改めようと思って引き下がったことが悔やまれる。
親父が納得するまで話し合えば、梨音ちゃんに矛先が向かなかったはずだ。
会社で梨音ちゃんを見かけるたびに抱きしめたい衝動に駆られる。
でも、何も解決していない今の状態で会いに行くことは出来ない。
日中は俺も仕事が忙しくて親父と話す時間が取れない。
夜は夜で親父は俺を避けるように用事があると言ってすれ違いが続いている。
本当に勘弁してほしい。
最悪、実力行使でもしてやろうか。
我が家は父、母、弟の四人家族だ。
そして、典型的なかかあ天下で親父は母親の言うことはなんでも聞く。
母親に親父を引き留めてもらうしかない。
だけど、その頼みの母親は旅行中で不在という不運も重なり、身動きが取れないでいた。
「梨音も別れたくはないけど、苦渋の決断をしたんだろうな」
マキがしみじみ呟く。
「何度も言うけど、俺は別れてないからな」
「はいはい。お前はそのつもりでも梨音は別れたと思っているんだろ。それで、どうするんだ?」
「親父と話をつける」
「上手くいくのか?」
「分からない。でも、何度でも話し合うつもりだ。俺には梨音ちゃんが何よりも大切だし、彼女以外の人と結婚するつもりはない」
「翔真って何気に独占欲が強いよな」
マキが笑いながら言う。
それは最近、自分でも自覚したところだ。
他の男が梨音ちゃんの視界に入るのも、彼女の口から他の男の話を聞くのも嫌だ。
梨音ちゃんを誰の目にも触れさせないようにしたいなんて狂気じみたことを考えたことがある。
表面上は平静を装っているけど、実は心の内に激しい独占欲を秘めていることに気づいた。
それだけ、本気で梨音ちゃんのことを想っている証拠なんだ。
「とにかく、俺も梨音のことは妹のように思っているから、幸せになってもらいたいんだ。梨音の泣き顔はホントに堪えるんだ。頼んだよ、翔真」
マキも梨音ちゃんを泣かせてしまった過去があったから余計にそう思うんだろう。
「言われなくても分かってるよ」
強い決意を込めて言い放つ。
俺だって泣かせたい訳じゃない。
目に涙を溜めながらも必死に堪える姿に胸が張り裂けそうになった。
涙を拭いたいけど、それを出来ない状況にしてしまった自分を殴りたかった。
彼女の笑顔を取り戻すためには、なりふり構っていられない。
「マキ、お前はどうなんだ?親父さんは恋愛関係は何も言ってこないのか?」
「ありがたいことに、俺はその件で親に干渉されていないからな。お前の好きな子と結婚すればいいって言ってくれている」
ニヤリと笑い、ワイングラスに口をつける。
マキたちの他にも同じような境遇の友人がいるけど、彼も親から縁談話を持ち掛けられたことはないと言っていた。
どうしてこうも違うんだろう。
うちの頑固親父にマキたちの親の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわ。
「マキが羨ましいよ」
俺がため息をつきながら言うと、マキは嫌な笑みを浮かべながら口を開いた。
「響也に知られる前にどうにかしないといけないな」
こいつ、さっきから面白がってないか?
響也はどうでもいいが、早めに話をつけて梨音ちゃんに会いに行って誠心誠意、謝罪して俺の気持ちを伝えよう。
手遅れになる前に動くしかない。
「あいつ、口では梨音ちゃんのことをボロクソ言うけど実はシスコンだからな」
本当に心配しているから結構キツイ言葉を言ってしまうんだろう。
「だよな。まあ、可愛い妹が二人もいたらシスコンにもなるだろう」
「確かに」
「梨音から響也に別れたって報告することはないと思うけど、とにかく健闘を祈るよ」
マキが俺の肩をポンと叩き、それに応えるように頷いた。
俺が付き合っている人がいると言っても突っぱねられた。
その時、言い合いをするのも面倒になり、また日を改めようと思って引き下がったことが悔やまれる。
親父が納得するまで話し合えば、梨音ちゃんに矛先が向かなかったはずだ。
会社で梨音ちゃんを見かけるたびに抱きしめたい衝動に駆られる。
でも、何も解決していない今の状態で会いに行くことは出来ない。
日中は俺も仕事が忙しくて親父と話す時間が取れない。
夜は夜で親父は俺を避けるように用事があると言ってすれ違いが続いている。
本当に勘弁してほしい。
最悪、実力行使でもしてやろうか。
我が家は父、母、弟の四人家族だ。
そして、典型的なかかあ天下で親父は母親の言うことはなんでも聞く。
母親に親父を引き留めてもらうしかない。
だけど、その頼みの母親は旅行中で不在という不運も重なり、身動きが取れないでいた。
「梨音も別れたくはないけど、苦渋の決断をしたんだろうな」
マキがしみじみ呟く。
「何度も言うけど、俺は別れてないからな」
「はいはい。お前はそのつもりでも梨音は別れたと思っているんだろ。それで、どうするんだ?」
「親父と話をつける」
「上手くいくのか?」
「分からない。でも、何度でも話し合うつもりだ。俺には梨音ちゃんが何よりも大切だし、彼女以外の人と結婚するつもりはない」
「翔真って何気に独占欲が強いよな」
マキが笑いながら言う。
それは最近、自分でも自覚したところだ。
他の男が梨音ちゃんの視界に入るのも、彼女の口から他の男の話を聞くのも嫌だ。
梨音ちゃんを誰の目にも触れさせないようにしたいなんて狂気じみたことを考えたことがある。
表面上は平静を装っているけど、実は心の内に激しい独占欲を秘めていることに気づいた。
それだけ、本気で梨音ちゃんのことを想っている証拠なんだ。
「とにかく、俺も梨音のことは妹のように思っているから、幸せになってもらいたいんだ。梨音の泣き顔はホントに堪えるんだ。頼んだよ、翔真」
マキも梨音ちゃんを泣かせてしまった過去があったから余計にそう思うんだろう。
「言われなくても分かってるよ」
強い決意を込めて言い放つ。
俺だって泣かせたい訳じゃない。
目に涙を溜めながらも必死に堪える姿に胸が張り裂けそうになった。
涙を拭いたいけど、それを出来ない状況にしてしまった自分を殴りたかった。
彼女の笑顔を取り戻すためには、なりふり構っていられない。
「マキ、お前はどうなんだ?親父さんは恋愛関係は何も言ってこないのか?」
「ありがたいことに、俺はその件で親に干渉されていないからな。お前の好きな子と結婚すればいいって言ってくれている」
ニヤリと笑い、ワイングラスに口をつける。
マキたちの他にも同じような境遇の友人がいるけど、彼も親から縁談話を持ち掛けられたことはないと言っていた。
どうしてこうも違うんだろう。
うちの頑固親父にマキたちの親の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいわ。
「マキが羨ましいよ」
俺がため息をつきながら言うと、マキは嫌な笑みを浮かべながら口を開いた。
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こいつ、さっきから面白がってないか?
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手遅れになる前に動くしかない。
「あいつ、口では梨音ちゃんのことをボロクソ言うけど実はシスコンだからな」
本当に心配しているから結構キツイ言葉を言ってしまうんだろう。
「だよな。まあ、可愛い妹が二人もいたらシスコンにもなるだろう」
「確かに」
「梨音から響也に別れたって報告することはないと思うけど、とにかく健闘を祈るよ」
マキが俺の肩をポンと叩き、それに応えるように頷いた。
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