次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

文字の大きさ
上 下
101 / 107
次期社長と紡ぐ未来のために

しおりを挟む
「昨日、翔真が頼むから銀行の娘との縁談を白紙に戻してくれと言ってきただろう。それが無理なら、自分が先方のところに行って納得してもらうまで話をすると。そこまで翔真は覚悟を決めているんだ」

しげさんは一度言葉を止めて私を見て微笑む。
そして、再び社長に向けて口を開いた。

「もっと早くお前と向き合っていなかったせいで好きな人を泣かせてしまったと悔やんでいた。あんな翔真を見たのは初めてだよ」
「確かに、そうですね……」

社長は静かに目を伏せた。
成り行きとはいえ、立花さんの想いを知って胸がいっぱいになった。

「自分は好きな人と結婚して幸せに暮らしているくせに、息子にはそれをさせないなんて理不尽にもほどがある。父親失格だと思わないのか」

しげさんが呆れたように問いかけた時、ノックと同時に勢いよく社長室のドアが開いた。

「じいちゃん、どうしたんだ?」

そこに飛び込んできたのは立花さんだった。

「翔真、遅いじゃないか」
「これでも急いできたんだよ。いきなり社長室に来いって電話があって何事かと思ったよ」

立花さんは息を整えながらネクタイを緩めていたら、私に気づいて目を見開いた。

「梨音ちゃん……」
「わしが呼んだんだよ。翔真、梨音ちゃんの隣に座りなさい」

しげさんに促され、立花さんは私の隣に座った。

「これはどういうこと?親父、まさかまた梨音ちゃんに酷いことを言ったんじゃないだろうな」

立花さんの怒気を孕んだ声に社長も気まずそうに肩を竦める。

「私は何も……」
「梨音ちゃんを傷つけるようなことを言ったら絶対に許さないと伝えただろ。これ以上、彼女を巻き込まないでくれ」
「翔真、落ち着きなさい。お前たちを呼んだのは他でもない。二人の今後についてだよ」

なだめる様に言った後、しげさんがニッコリと笑う。

「二人の今後ってどういうこと?」
「翔真と梨音ちゃんの結婚についてだよ」
「は?結婚……?」

驚きの声をあげた立花さんと目が合う。

「翔真と梨音ちゃんは将来結婚するつもりなんだろう?」
「まあ、ゆくゆくは」
「わしはそれに大賛成だ。和志も納得済みだよ。なあ、和志」

しげさんは視線を社長へと向ける。

「翔真、勝手に縁談話を決めてすまなかった。私は目先のことにとらわれて周りのことがよく見えてなかったんだ。私は父親としても社長としてもまだまだ未熟だった。縁談の話は白紙に戻す。河野さん、君には酷いことを言ってしまって本当に申し訳ない」

社長は深々と頭を下げた。

「えっ、あの、頭を上げてください。私なら大丈夫です」
「和志、梨音ちゃんもそう言ってくれているんだ。頭を上げなさい」
「大丈夫な訳ないだろ。梨音ちゃんに辛い思いをさせた挙げ句、俺たちは危うく別れることになるところだったんだぞ」

立花さんは憤慨したように言う。

「翔真、まぁ落ち着きなさい。和志、梨音ちゃんは本当にいい子なんだよ。わしが趣味で植えている花に興味を持ってくれたり、蛍光灯を交換するために脚立に乗っていたら、危ないからとそれを支えてくれるんだ。他の社員なんか見向きもせん。そういった気遣いの出来る子なんだ。梨音ちゃんみたいないい子が孫のお嫁さんだったらいいなと思っていたんだよ。まさか翔真と付き合っているとは思わなかったけどな。さすがわしの孫だ。翔真、グッジョブ!」

しげさんは立花さんに向かって親指を立てる。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

運命だけはいらない

BL / 連載中 24h.ポイント:21pt お気に入り:166

昨日、課長に抱かれました

恋愛 / 完結 24h.ポイント:35pt お気に入り:1,207

幼馴染の女の子を奴隷にして可愛がる魔女の私【百合×拷問】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:0pt お気に入り:2

【R18】姫初めからのはじめかた

恋愛 / 完結 24h.ポイント:63pt お気に入り:113

ハズレ嫁は最強の天才公爵様と再婚しました。

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:134,972pt お気に入り:3,098

もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:226,860pt お気に入り:4,591

猛毒天使に捕まりました

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:179

処理中です...