100 / 107
次期社長と紡ぐ未来のために
3
しおりを挟む
何このデジャブ……。
週が明けた月曜日、私は社長室の前にいた。
昼休憩が終わり午後の仕事に取りかかっていたら、社長秘書の亀井さんから内線が鳴った。
そしてなぜか社長室に来るように言われた。
まだ心の傷も癒えていないのに、どうしてまた社長室に行かないといけないんだろう。
社長に言われた通り、立花さんに別れを告げたし迷惑をかけるようなことはしていないはずだ。
複雑な気持ちを抱えながら社長室のドアをノックした。
「どうぞ」
「失礼します、企画部の河野です」
中から聞こえてきた声を確認し、ドアを開けて目に飛び込んできた人に衝撃を受けた。
「え、しげさん?」
あの高級なソファーに清掃員のしげさんが座っていた。
でも、今日はいつもの作業服じゃない。
スーツを着ていて、まるで別人だ。
「河野さん、会長に向かってしげさんとは失礼ですよ」
「す、すみません」
亀井さんに注意され、慌てて謝罪する。
会長ってどういうこと?
「いいんだよ。いつものようにしげさんで。やあ、待っていたよ。梨音ちゃん」
立ち上がってにこやかに笑うしげさん。
「会長。彼女を呼び出してどういうつもりですか?」
社長の声にビクッと反応し、この前のこともあり怖くて俯いてしまう。
「今は会長ではない。お前の父親としてここにいる。そして、わしの大事な孫のために梨音ちゃんに来てもらったんだ」
しげさんが会社の会長で、社長の父親?
孫ということは、しげさんは立花さんの祖父?
理解が追い付かない。
「何を訳の分からないことを仰っているんですか?彼女はもう翔真とは……」
「別れたと?それはお前が無理やり梨音ちゃんに別れるように言ったんだろう」
「確かにそうですが、翔真には縁談相手がいるんですよ」
「それはお前が勝手に決めた話だろ。そこに翔真の気持ちは一切ない。そんな縁談をわしが許す訳がない」
しげさんの鋭い声に息を飲んだ。
私に話しかけてくれる時のような優しい声色とは全然違っている。
しげさんと社長のやり取りに私はどうしていいのか分からず、ただ見つめることしか出来ない。
「和志、お前は会社の為と言うが、自分の息子の幸せは考えてやらんのか?」
「それは……」
「お前がこの会社を大きくしようと努力してくれているのはわしも嬉しく思う。だがな、孫の気持ちを無視した縁談は納得がいかない。何より翔真が可哀想だと思わないのか」
社長は言葉を詰まらせる。
「翔真の縁談がなくとも、取引先との信頼関係や繋がりは途切れることはない。代々、わしたちは上辺だけの付き合いをしてきた訳ではないだろう。それは和志、お前も十分理解しているはずだ。薄っぺらい付き合いなら既に切れている」
しげさんは真っ直ぐに社長を見据える。
「和志、そもそもお前は自分の好きな相手と結婚したんだろ。洋子さんを連れてきた時、この人は世界で一番愛する人です。二人で幸せになるので結婚します、とお前は言ったよな」
「……はい」
「わしは反対したか?」
「いえ」
「なら、どうして翔真の望みを聞いてやらんのだ。翔真もお前と同じように世界で一番愛する人が出来たんだろう。それなのに、お前が縁談相手を勝手に決めて翔真が幸せになれると思っているのか。父親なら息子の言葉に耳を傾けてやるのは当然じゃないのか?翔真はお前の道具じゃない」
しげさんの言葉が社長室に響く。
立花さんを思うしげさんの言葉が心に染みた。
週が明けた月曜日、私は社長室の前にいた。
昼休憩が終わり午後の仕事に取りかかっていたら、社長秘書の亀井さんから内線が鳴った。
そしてなぜか社長室に来るように言われた。
まだ心の傷も癒えていないのに、どうしてまた社長室に行かないといけないんだろう。
社長に言われた通り、立花さんに別れを告げたし迷惑をかけるようなことはしていないはずだ。
複雑な気持ちを抱えながら社長室のドアをノックした。
「どうぞ」
「失礼します、企画部の河野です」
中から聞こえてきた声を確認し、ドアを開けて目に飛び込んできた人に衝撃を受けた。
「え、しげさん?」
あの高級なソファーに清掃員のしげさんが座っていた。
でも、今日はいつもの作業服じゃない。
スーツを着ていて、まるで別人だ。
「河野さん、会長に向かってしげさんとは失礼ですよ」
「す、すみません」
亀井さんに注意され、慌てて謝罪する。
会長ってどういうこと?
「いいんだよ。いつものようにしげさんで。やあ、待っていたよ。梨音ちゃん」
立ち上がってにこやかに笑うしげさん。
「会長。彼女を呼び出してどういうつもりですか?」
社長の声にビクッと反応し、この前のこともあり怖くて俯いてしまう。
「今は会長ではない。お前の父親としてここにいる。そして、わしの大事な孫のために梨音ちゃんに来てもらったんだ」
しげさんが会社の会長で、社長の父親?
孫ということは、しげさんは立花さんの祖父?
理解が追い付かない。
「何を訳の分からないことを仰っているんですか?彼女はもう翔真とは……」
「別れたと?それはお前が無理やり梨音ちゃんに別れるように言ったんだろう」
「確かにそうですが、翔真には縁談相手がいるんですよ」
「それはお前が勝手に決めた話だろ。そこに翔真の気持ちは一切ない。そんな縁談をわしが許す訳がない」
しげさんの鋭い声に息を飲んだ。
私に話しかけてくれる時のような優しい声色とは全然違っている。
しげさんと社長のやり取りに私はどうしていいのか分からず、ただ見つめることしか出来ない。
「和志、お前は会社の為と言うが、自分の息子の幸せは考えてやらんのか?」
「それは……」
「お前がこの会社を大きくしようと努力してくれているのはわしも嬉しく思う。だがな、孫の気持ちを無視した縁談は納得がいかない。何より翔真が可哀想だと思わないのか」
社長は言葉を詰まらせる。
「翔真の縁談がなくとも、取引先との信頼関係や繋がりは途切れることはない。代々、わしたちは上辺だけの付き合いをしてきた訳ではないだろう。それは和志、お前も十分理解しているはずだ。薄っぺらい付き合いなら既に切れている」
しげさんは真っ直ぐに社長を見据える。
「和志、そもそもお前は自分の好きな相手と結婚したんだろ。洋子さんを連れてきた時、この人は世界で一番愛する人です。二人で幸せになるので結婚します、とお前は言ったよな」
「……はい」
「わしは反対したか?」
「いえ」
「なら、どうして翔真の望みを聞いてやらんのだ。翔真もお前と同じように世界で一番愛する人が出来たんだろう。それなのに、お前が縁談相手を勝手に決めて翔真が幸せになれると思っているのか。父親なら息子の言葉に耳を傾けてやるのは当然じゃないのか?翔真はお前の道具じゃない」
しげさんの言葉が社長室に響く。
立花さんを思うしげさんの言葉が心に染みた。
応援ありがとうございます!
24
お気に入りに追加
53
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる