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翔真side
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しおりを挟む週末、行きつけのバー『ダークムーン』ではなく、『ベリルスター』というホテルにあるスカイラウンジに来ていた。
バーカウンターに座り、目の前に置かれたマティーニのグラスを眺めながらため息をつく。
「珍しいな、こんなところで飲むなんて。何かあったのか?」
背後から声をかけてきたのは、友人のマキこと槙田昴。
マキは化粧品メーカー『リュシュレ』の御曹司。
最近、彼女が出来たこともあり、惚気話ばかり聞かされている。
しかも、マキの彼女は梨音ちゃんの友達でこんな偶然があるんだなと驚いたところだ。
「親父が裏で手を回しやがった」
苛立ちを隠すことなく言い、マティーニに口をつける。
「どういうことだ?」
マキは俺の隣の席に座りながら聞いてくる。
「俺に縁談の話があることを梨音ちゃんに言ったらしい」
「は?」
「それで梨音ちゃんから別れを切り出された」
その時のことを思い出し、胸が痛んだ。
梨音ちゃんに終わりにしようと言われた時、情けないことに頭が真っ白になった。
何か言わないとと思っても、俺に縁談の話があったのは事実。
そのことで親父と揉めていたこともあり、梨音ちゃんに何を話しても言い訳にしかならない。
中途半端な状態で話すより、親父を説得してから彼女と向き合うことを選択した。
あの状態で梨音ちゃんを一人にするのは心苦しかったけど、何も言わずにその場を離れた。
親父の秘書の亀井さんからいろいろ話を聞いた。
『社長や会社のためとはいえ、河野さんには申し訳ないことをしました』と言って頭を下げてきた。
でも、それはすべて親父が企んだことで亀井さんには何も非はないのにと申し訳なくなった。
『どうか社長と話し合ってください。これでは誰も幸せになれません』と懇願された。
亀井さんが善悪の分かる秘書だったのがせめてもの救いだ。
社長室に呼び出されることだけでも精神的に負担だったと思う。
しかも、梨音ちゃんは面と向かって俺と別れるように言われて苦しんだに違いない。
彼女を傷つけた親父が許せず、それと同時に不甲斐ない自分に腹が立った。
「それでお前は梨音の言い分を了承したのか?」
「するわけないだろ。俺に別れるという選択肢は一切ない」
間髪入れずに答え、マキは苦笑する。
「なるほど。だから今の状態で響也も行く可能性のあるいつものバーではなく、ここで飲んでたんだな」
マキの言葉に肩を竦めた。
行きつけのバー『ダークムーン』は梨音ちゃんのいとこの朔斗さんがオーナーということもあり、今の状態では行けないと判断したからだ。
マキと梨音ちゃんの兄の河野響也は高校の時からの友人だ。
響也は祖父が建築会社の社長だったが、親父さんは跡を継がずに別の会社に就職した。
響也自身は建築に興味があったので祖父の会社に就職し、今は跡を継ぐために日々努力中だと言っていた。
偶然にも、俺たち三人は祖父や親が会社の社長という家で育った。
同じような境遇の俺たちは意気投合し、今も定期的に会っている。
この前、響也に梨音ちゃんと付き合うことを報告したばかりなのに今は会わせる顔がない。
亀井さんの言う通り、元凶の親父と話をつけるしか方法はない。
縁談の話だって元々は親父が勝手に言い出したことで、俺は興味がないからと断っていた。
それなのに、親父は凝りもせず再び縁談の話を持ち掛けてきた。
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