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忍び寄る不穏な影
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「君ならそう言ってくれると思っていたよ。出来れば早めに別れて欲しい。これで翔真も海外支店の件もスムーズに話が運ぶと喜ぶだろう」
社長は満足そうに笑みを浮かべながら言う。
私は息が上手く吸えなくなり、一刻も早くここから立ち去りたかった。
どうにかソファから立ち上がり、一礼する。
「失礼しました」
社長室のドアを開けて出ると、亀井さんと目が合う。
さっきまで冷たい目を向けていたのに、今は申し訳なさそうな表情で私を見る。
「悪く思わないでください。社長も会社のことを真剣に考えた末のことなので」
亀井さんは深々と頭を下げると私の横を通り、社長室に入って行く。
涙が出そうになるのを必死に堪え、唇を噛みしめた。
企画部のフロアに戻ることなく、普段あまり誰も立ち寄ることのない備品庫に向かった。
廊下の一番奥にあり、人気が少ない。
私は備品庫の前でへたり込んだ。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
我慢していた涙がポロリと零れ落ちた。
別れたくないよ……と本音が漏れる。
でも、私の我がままで会社に迷惑をかけることなんて出来ない。
好きだけじゃどうにもならないんだ。
膝に顔を埋めていたら、誰かの足音が静かな廊下に響いた。
「君、こんなところで何をしているんだい?」
その声に顔を上げると、作業服を着たしげさんが心配そうに私を見ていた。
「おや、梨音ちゃんじゃないか。どうしたんだ、泣いているように見えるけど。何か辛いことがあったのかい?」
しげさんは私の側にしゃがみこみ声をかける。
「あ、目にゴミが入っただけです」
涙を拭いながらとっさに誤魔化した。
どう見ても嘘なのは明白だけど、しげさんは追及することなく、労るように私の頭を撫でてくれた。
「こんな老いぼれじいさんのわしに優しくしてくれる梨音ちゃんを泣かす不届きな奴がいるなんて許せんな。わしが成敗してやろうか」
茶目っ気たっぷりに言うしげさんの優しさに胸が温かくなる。
「ふふ、誰にも泣かされてないので大丈夫ですよ」
「そうかい?それならいいけど。やっぱり梨音ちゃんは笑顔じゃないとな。嫌なことがあったり困ったことがあったら何でも言ってくれ。わしは梨音ちゃんの味方だから」
「ありがとうございます。しげさんが味方だなんて心強いなぁ」
しげさんと話していたら自然と笑みがこぼれていた。
「そうじゃろう。梨音ちゃんは孫みたいなもんだからな。さて、わしは花壇の草むしりでもして来ようかな」
よっこらしょ、としげさんは立ち上がると腰をポンポンと叩く。
私もスカートの汚れを払いながら立ち上がる。
一人であのまま泣き続けていたら、気持ちが浮上出来なかったかもしれない。
しげさんがそばにいてくれただけで心が落ち着き、その優しさに救われた。
「しげさん、ありがとうございました」
私はお辞儀をしてその場を離れた。
社長は満足そうに笑みを浮かべながら言う。
私は息が上手く吸えなくなり、一刻も早くここから立ち去りたかった。
どうにかソファから立ち上がり、一礼する。
「失礼しました」
社長室のドアを開けて出ると、亀井さんと目が合う。
さっきまで冷たい目を向けていたのに、今は申し訳なさそうな表情で私を見る。
「悪く思わないでください。社長も会社のことを真剣に考えた末のことなので」
亀井さんは深々と頭を下げると私の横を通り、社長室に入って行く。
涙が出そうになるのを必死に堪え、唇を噛みしめた。
企画部のフロアに戻ることなく、普段あまり誰も立ち寄ることのない備品庫に向かった。
廊下の一番奥にあり、人気が少ない。
私は備品庫の前でへたり込んだ。
どうしてこんなことになってしまったんだろう。
我慢していた涙がポロリと零れ落ちた。
別れたくないよ……と本音が漏れる。
でも、私の我がままで会社に迷惑をかけることなんて出来ない。
好きだけじゃどうにもならないんだ。
膝に顔を埋めていたら、誰かの足音が静かな廊下に響いた。
「君、こんなところで何をしているんだい?」
その声に顔を上げると、作業服を着たしげさんが心配そうに私を見ていた。
「おや、梨音ちゃんじゃないか。どうしたんだ、泣いているように見えるけど。何か辛いことがあったのかい?」
しげさんは私の側にしゃがみこみ声をかける。
「あ、目にゴミが入っただけです」
涙を拭いながらとっさに誤魔化した。
どう見ても嘘なのは明白だけど、しげさんは追及することなく、労るように私の頭を撫でてくれた。
「こんな老いぼれじいさんのわしに優しくしてくれる梨音ちゃんを泣かす不届きな奴がいるなんて許せんな。わしが成敗してやろうか」
茶目っ気たっぷりに言うしげさんの優しさに胸が温かくなる。
「ふふ、誰にも泣かされてないので大丈夫ですよ」
「そうかい?それならいいけど。やっぱり梨音ちゃんは笑顔じゃないとな。嫌なことがあったり困ったことがあったら何でも言ってくれ。わしは梨音ちゃんの味方だから」
「ありがとうございます。しげさんが味方だなんて心強いなぁ」
しげさんと話していたら自然と笑みがこぼれていた。
「そうじゃろう。梨音ちゃんは孫みたいなもんだからな。さて、わしは花壇の草むしりでもして来ようかな」
よっこらしょ、としげさんは立ち上がると腰をポンポンと叩く。
私もスカートの汚れを払いながら立ち上がる。
一人であのまま泣き続けていたら、気持ちが浮上出来なかったかもしれない。
しげさんがそばにいてくれただけで心が落ち着き、その優しさに救われた。
「しげさん、ありがとうございました」
私はお辞儀をしてその場を離れた。
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