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忍び寄る不穏な影

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「我が社は海外にも力を入れていることは君も知っていると思うが、新たに海外支店を設立する予定なんだ。それには莫大な資金が必要だ。ここまで言えば君も分かるかな」

試すような言い方をされ、必死に考える。
莫大な資金……それには銀行からの融資が必要不可欠だ。
付き合いのあった銀行と今まで通りの友好関係が続けば会社として支障はない。
その上で銀行の娘さんと立花さんの縁談がまとまれば、さらに強固な繋がりが生まれる。

だけど、それを邪魔する存在がいた。
立花さんと付き合っている私だ。
社長にとって私という存在は邪魔でしかない。
だから早めに排除しないといけないと思ったんだろう。

「前々から翔真は縁談には興味はないと言ってあまり乗り気ではなかったが、私の後継者として時が来たら受け入れるだろうと思っていた。そろそろ縁談の話を進めようとしていた矢先、付き合っている人がいるから縁談は白紙に戻してくれと言い出した。その相手というのが君だ」

社長は鋭い視線を向けてきた。

「翔真に何を馬鹿なことを言っているんだと一蹴したらおとなしくなったよ。自分の立場を理解していれば私に従わざるを得ないだろう」

自信ありげに社長は言い放つ。

「翔真が君とすんなりと別れてくれればいいが、このまま付き合いを続ける可能性も無きにしもあらず。不穏な芽は早めに摘み取っておかないといけないからね。君は一個人の問題で会社の発展の邪魔するなんてことが出来るかい?」
「えっ?」
「河野さんのせいで縁談がまとまらなかったらどうするつもりだ?」

私のせいで……?

「もし縁談を白紙に戻したら銀行からの融資がなくなる可能性がある。それが会社にとってどんな影響を与えるか、考えればすぐに分かるだろう。君は賢い人だと思っている。この縁談は我が社にとっても重要なことなんだよ。君から別れ話を切り出してくれた方が翔真も諦めがつく。未練なんて一切残らないよう、キッパリと別れを告げてくれ」

社長の言葉が胸に突き刺さる。
私と立花さんの未来なんてないんだというのを改めて突きつけられた気がした。

一度、私から偽装恋愛の解消を言い出して立花さんを傷つけている。
一度ならず二度までも私から別れを告げなければならないなんて胸が痛む。

私はどうしたらいいんだろう。
苦しくて悲しくてマイナスな感情が私を埋め尽くす。

縁談の話があったのに私に話さなかったのはなぜ?
時期がきたら別れるつもりだったの?
でも、立花さんはそんな不誠実なことをするような人じゃない。
だけど、会社を背負う人間として責任感のある彼なら社長の気持ちを重んじるはずだ。

立花さんは優しいから別れを切り出せないのかもしれない。
それだったら私が悪者になれば解決する話だ。
立花さんと別れたくないけど、会社に迷惑をかけることになることは出来ない。
追い詰められた私の答えはひとつしかない。

「……分かりました」

今にも消え入りそうな声で答える。
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