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忍び寄る不穏な影
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秋が深まり朝晩と冷え込むようになってきた十一月後半のある日。
「河野梨音さん、ですね」
会議室の片付けを終えて部屋を出ようとした時、秘書課の亀井さんに声をかけられた。
「突然すみません。ちょっとよろしいですか?」
「えっと……はい」
「お時間は取らせませんので」
再び、会議室に入るように促された。
亀井さんは社長秘書だ。
その社長秘書が私に何の用だろう。
「あの、何か私に用事が、」
「社長があなたとお話ししたいと仰っているので、十分後に社長室にお越しください」
困惑しながら発した私の言葉を遮るように亀井さんが口を開く。
それより、彼は今なんて言った?
「社長が……?」
「ええ。社長の息子は誰なのか、どうしてあなたが社長に呼ばれることになったのか考えれば分かることだと思います。ただ、このことは他言無用でお願いします。それでは失礼します」
小さくお辞儀をして亀井さんは私に背を向けた。
社長の息子というのは立花さんのことだ。
呼ばれた理由は、私が立花さんと付き合っていること以外にはない。
どうして社長たちが知っているんだろう。
もしかして、立花さんが話をしたの?
そんな話は聞いていないけど。
さっきの亀井さんの私を見る目からして、歓迎はされていない。
次期社長の立花さんと私とでは、つり合いなんて取れないのは分かっていたはずだ。
嫌な汗が背中を伝う。
このまま逃げてしまいたいけど、そんなこと出来る訳がない。
十分後ということは、もうそろそろ行かないといけない。
私は重い足取りで最上階にある社長室を目指した。
秘書室で亀井さんに出迎えられ、社長室に行くように促される。
社長室の前に立ち、心臓が口から飛び出るんじゃないかってぐらい緊張している。
深呼吸し、社長室のドアをノックした。
社長の「どうぞ」の声に、ビクビクしながらドアを開けた。
「失礼します、企画部の河野梨音です……」
「河野梨音さん、待っていたよ。そこへ座って」
社長に促されたのは、座るのも躊躇ってしまうような高級な革張りのソファ。
私は浅く腰掛け、背筋をピンと伸ばす。
目の前には、『ラブイット』の代表取締役社長、立花和志。
立花さんのお父さんだ。
「急に呼び出してすまなかったね」
「いえ、とんでもないです」
「さて、私が君と話がしたかった理由だが」
社長はそこで言葉を止め、私はゴクリと唾をのんだ。
「大体は予想がついていると思うから単刀直入に言うが、翔真と別れてくれないか?」
予想はしていたけど、実際に目の前で社長に言われると絶望的な気持ちになった。
社長は私を見据える。
「翔真がこの『ラブイット』の次期社長というのは周知のことだとは思うが、いつまでも独身という訳にもいかなくてね。翔真にはうちの取引銀行の娘さんとの縁談話がある」
縁談?
突然のことに頭が真っ白になり、思考が追い付かない。
立花さんにそういった存在の人がいるとは思っていなくて言葉を失った。
「河野梨音さん、ですね」
会議室の片付けを終えて部屋を出ようとした時、秘書課の亀井さんに声をかけられた。
「突然すみません。ちょっとよろしいですか?」
「えっと……はい」
「お時間は取らせませんので」
再び、会議室に入るように促された。
亀井さんは社長秘書だ。
その社長秘書が私に何の用だろう。
「あの、何か私に用事が、」
「社長があなたとお話ししたいと仰っているので、十分後に社長室にお越しください」
困惑しながら発した私の言葉を遮るように亀井さんが口を開く。
それより、彼は今なんて言った?
「社長が……?」
「ええ。社長の息子は誰なのか、どうしてあなたが社長に呼ばれることになったのか考えれば分かることだと思います。ただ、このことは他言無用でお願いします。それでは失礼します」
小さくお辞儀をして亀井さんは私に背を向けた。
社長の息子というのは立花さんのことだ。
呼ばれた理由は、私が立花さんと付き合っていること以外にはない。
どうして社長たちが知っているんだろう。
もしかして、立花さんが話をしたの?
そんな話は聞いていないけど。
さっきの亀井さんの私を見る目からして、歓迎はされていない。
次期社長の立花さんと私とでは、つり合いなんて取れないのは分かっていたはずだ。
嫌な汗が背中を伝う。
このまま逃げてしまいたいけど、そんなこと出来る訳がない。
十分後ということは、もうそろそろ行かないといけない。
私は重い足取りで最上階にある社長室を目指した。
秘書室で亀井さんに出迎えられ、社長室に行くように促される。
社長室の前に立ち、心臓が口から飛び出るんじゃないかってぐらい緊張している。
深呼吸し、社長室のドアをノックした。
社長の「どうぞ」の声に、ビクビクしながらドアを開けた。
「失礼します、企画部の河野梨音です……」
「河野梨音さん、待っていたよ。そこへ座って」
社長に促されたのは、座るのも躊躇ってしまうような高級な革張りのソファ。
私は浅く腰掛け、背筋をピンと伸ばす。
目の前には、『ラブイット』の代表取締役社長、立花和志。
立花さんのお父さんだ。
「急に呼び出してすまなかったね」
「いえ、とんでもないです」
「さて、私が君と話がしたかった理由だが」
社長はそこで言葉を止め、私はゴクリと唾をのんだ。
「大体は予想がついていると思うから単刀直入に言うが、翔真と別れてくれないか?」
予想はしていたけど、実際に目の前で社長に言われると絶望的な気持ちになった。
社長は私を見据える。
「翔真がこの『ラブイット』の次期社長というのは周知のことだとは思うが、いつまでも独身という訳にもいかなくてね。翔真にはうちの取引銀行の娘さんとの縁談話がある」
縁談?
突然のことに頭が真っ白になり、思考が追い付かない。
立花さんにそういった存在の人がいるとは思っていなくて言葉を失った。
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