次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

文字の大きさ
上 下
89 / 107
忍び寄る不穏な影

しおりを挟む
「藤崎、本人たちが否定しているのに憶測で引っ掻き回すような余計な詮索をするべきではない。同期なんだから仲良く話すことはあるだろ」

立花さんが藤崎さんに窘めるように口を開いた。
私はその言葉を聞いて誤解されていないと安堵した。

「あの人、かなりめんどくさい人だな。そんなことわざわざ上司に聞きに行くか?」

宮沢が舌打ちしながら言う。
その気持ちは痛いほど分かる。
私だってさっきからイライラしているし。

「二人とも、なんかごめんね。同期として恥ずかしいわ。あれは酔っ払いの戯言として聞き流しといてね」

志保さんが謝罪してくれて、なんだか申し訳なくなった。

宮沢は急に立ち上がり「トイレ」と言って部屋を出た。
私はつくねを頬張っていたら、隣に誰かが座る気配がした。
てっきり宮沢がトイレから戻ってきたと思っていたんだけど。

「河野さん、さっきはうちの部下が変なことを言ってごめんね」

今まで宮沢がいた場所にまさかの立花さんが座ったので、私は心臓が飛び出るぐらい驚いた。

「いえ、大丈夫です。気にしてませんから」

どうにか平静を装いながら答える。
公の席でこんな至近距離に立花さんが座ってるなんてドキドキしない訳がない。

「藤崎は仕事は出来るんだが、噂話に興味があるみたいだから、そこをどうにかしてもらえたらいいんだけど」
「立花課長も苦労されているんですね。でもまあ、あの子の噂好きは直りそうにないですよ。私たちも何度も注意しているんですけど」
「そうか、水谷さんも苦労しているね」

立花さんと志保さんの二人は苦笑いしながら話している。

嘘や冗談でも宮沢と付き合っているという話題が出るのは不本意だ。
それを立花さんに聞かれたのが本当に嫌だった。
宮沢だってやっと玲奈に告白してこれからって時なのに、変な噂が広まったら嫌だと思うし。

「根も葉もない噂話を広められたら困る人間もいるってことを学習して欲しいですけど」

トイレから戻ってきた宮沢がイライラした様子でぼやく。
ちょうど、藤崎さんがいなくなったのでその席に座る。

「確かにそうだよね。二人に不愉快な思いをさせてすまない。藤崎には日を改めて注意しておくよ」
「あ、すみません。立花課長にそこまでしてもらわなくても大丈夫です」

宮沢は焦りながら謝罪していた。

***

お開きの時間になり、居酒屋を出ると藤崎さんが駄々を捏ねていた。

「私も二次会に行くー」
「行かない。藤崎はもう帰る!」
「えー、まだ飲み足りない」
「もう十分だから。立花課長、藤崎を連れて帰ります」
「ありがとう。悪いけど頼むね」
「大丈夫です。慣れているので。お疲れさまでした」

志保さんは止めてあったタクシーに藤崎さんを押し込んだ。

「梨音ちゃんは二次会行く?」
「すみません。私はちょっと眠くなったのでここで失礼します」
「帰るなら送ろうか?」
「いえ、大丈夫です。野中さんが二次会に行かれなかったらみんな困りますよ」

野中さんに聞かれ、私は断りを入れた。

「俺がタクシーで送るんで大丈夫ですよ。河野の世話を同期に頼まれてるので。あっ、向こうで野中さんを呼んでますよ」

宮沢が二次会に行くメンバーを指さすと、「おーい」と手を振っている姿が見えた。

「悪いな。じゃあ、頼んだよ」

野中さんは足早にみんなの元へ向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

甘すぎるドクターへ。どうか手加減して下さい。

海咲雪
恋愛
その日、新幹線の隣の席に疲れて寝ている男性がいた。 ただそれだけのはずだったのに……その日、私の世界に甘さが加わった。 「案外、本当に君以外いないかも」 「いいの? こんな可愛いことされたら、本当にもう逃してあげられないけど」 「もう奏葉の許可なしに近づいたりしない。だから……近づく前に奏葉に聞くから、ちゃんと許可を出してね」 そのドクターの甘さは手加減を知らない。 【登場人物】 末永 奏葉[すえなが かなは]・・・25歳。普通の会社員。気を遣い過ぎてしまう性格。   恩田 時哉[おんだ ときや]・・・27歳。医者。奏葉をからかう時もあるのに、甘すぎる? 田代 有我[たしろ ゆうが]・・・25歳。奏葉の同期。テキトーな性格だが、奏葉の変化には鋭い? 【作者に医療知識はありません。恋愛小説として楽しんで頂ければ幸いです!】

甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・

希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!? 『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』 小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。 ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。 しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。 彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!? 過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。 *導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。 <表紙イラスト> 男女:わかめサロンパス様 背景:アート宇都宮様

腹黒上司が実は激甘だった件について。

あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。 彼はヤバいです。 サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。 まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。 本当に厳しいんだから。 ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。 マジで? 意味不明なんだけど。 めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。 素直に甘えたいとさえ思った。 だけど、私はその想いに応えられないよ。 どうしたらいいかわからない…。 ********** この作品は、他のサイトにも掲載しています。

隣人はクールな同期でした。

氷萌
恋愛
それなりに有名な出版会社に入社して早6年。 30歳を前にして 未婚で恋人もいないけれど。 マンションの隣に住む同期の男と 酒を酌み交わす日々。 心許すアイツとは ”同期以上、恋人未満―――” 1度は愛した元カレと再会し心を搔き乱され 恋敵の幼馴染には刃を向けられる。 広報部所属 ●七星 セツナ●-Setuna Nanase-(29歳) 編集部所属 副編集長 ●煌月 ジン●-Jin Kouduki-(29歳) 本当に好きな人は…誰? 己の気持ちに向き合う最後の恋。 “ただの恋愛物語”ってだけじゃない 命と、人との 向き合うという事。 現実に、なさそうな だけどちょっとあり得るかもしれない 複雑に絡み合う人間模様を描いた 等身大のラブストーリー。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

じれったい夜の残像

ペコかな
恋愛
キャリアウーマンの美咲は、日々の忙しさに追われながらも、 ふとした瞬間に孤独を感じることが増えていた。 そんな彼女の前に、昔の恋人であり今は経営者として成功している涼介が突然現れる。 再会した涼介は、冷たく離れていったかつての面影とは違い、成熟しながらも情熱的な姿勢で美咲に接する。 再燃する恋心と、互いに抱える過去の傷が交錯する中で、 美咲は「じれったい」感情に翻弄される。

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

如月さんは なびかない。~クラスで一番の美少女に、何故か告白された件~

八木崎(やぎさき)
恋愛
「ねぇ……私と、付き合って」  ある日、クラスで一番可愛い女子生徒である如月心奏に唐突に告白をされ、彼女と付き合う事になった同じクラスの平凡な高校生男子、立花蓮。  蓮は初めて出来た彼女の存在に浮かれる―――なんて事は無く、心奏から思いも寄らない頼み事をされて、それを受ける事になるのであった。  これは不器用で未熟な2人が成長をしていく物語である。彼ら彼女らの歩む物語を是非ともご覧ください。  一緒にいたい、でも近づきたくない―――臆病で内向的な少年と、偏屈で変わり者な少女との恋愛模様を描く、そんな青春物語です。

処理中です...