次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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愛を伝える

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「ちょっと待って」

立花さんが私の腕を掴んで引きとめ、背後から抱きしめてきた。
惨めすぎて涙が零れ落ちる。

「……っ、離して、ください」
「ごめん、それは無理かな」

腕の中から抜け出そうともがいた時、立花さんの熱い吐息が私の耳にかかる。
バクバクと心臓の音がうるさい。

「ど、どうして……」
「このまま君を帰すわけにはいかないから」

さっきよりさらにきつく抱きしめてくる。

「俺は本当に河野さんのことを大切にしたいから我慢しようと思ったんだ。でも、そのせいで君を泣かせてしまうのは本末転倒だ」

立花さんは抱きしめている腕を緩め、正面から私を見つめた。
そして「泣かせてごめん」と言って私の目じりを親指でそっと撫でる。

「さっきは驚きすぎて返事が出来なかった。ごめんな、勇気を振り絞って言ってくれたのに」

私は首を左右に振った。

「このまま、河野さんを抱いていいの?」

確認するように優しい声で聞いてくる。
何も言ってくれなかったから無理なのかと思っていた。

「あの、初めてなんで……それでも良ければ……」
「嫌なわけないだろ。大事にするよ」

立花さんは私を軽々と抱き上げた。

「今日から偽装じゃなく本当の恋愛をしよう」

その言葉に私はしっかりと頷いた。
立花さんは私をお姫様抱っこをして寝室に向かう。
ベッドの上に私をゆっくりと横たえると、覆いかぶさるようにして見下ろしてくる。
心臓が早鐘を打ち、息をのんだ。

「本当にいいの?」

最終確認してくるので、私は小さな声で「はい」と頷いた。
唇が重なると、優しく食むように何度も啄んでくる。
息継ぎをしようと少し口を開けた隙に肉厚な舌が入り、粘膜をなぞっていく。
舌を擦り合わせたり、吸い上げられると背筋が震える。
口内をかき混ぜられるとくちゅくちゅと唾液の混じる音が聞こえてきて、身体の奥に再び熱が灯る。
チュッと音を鳴らし、唇が離れた。

「脱がすよ」

立花さんは服の裾を掴むと、下に着ていたキャミソールごと一気にたくし上げてきて頭から引き抜いた。
上半身はブラジャーだけどいう心もとない姿に羞恥を覚えた。
海やプールも行くことがなかったので、人前で肌を出すということがなかった。
友達と温泉に行くことはあっても、それは同じ女性同士。
男性の前なんて、中学生の水泳の授業ぶりな気がする。
そんなことを考えていたら、履いていたワイドパンツを脱がされた。
今、ブラジャーにショーツという下着姿になっている。

「あまり見ないでください」
「それは無理な話だよ」

立花さんは笑顔で言うと、ブラのホックを片手で器用に外して取り払う。
あまり大きいとはいえない私の胸が露になり、咄嗟に手で隠した。

「綺麗だから隠さないで」

立花さんに手を掴まれてベッドに縫い付けられた。
彼の視線が私の身体に注がれていると思うだけで羞恥心を掻き立てられる。
優しく乳房を包むように触れ、感触を確かめるようにやわやわと揉まれると腰に甘い痺れが走った。
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