次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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社内恋愛の醍醐味?

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「仕方ないなぁ。じゃあ、今度は人には見られない場所でイチャイチャしようか」
「えっ」

立花さんの口からそんな言葉が出るなんて思わず凝視してしまった。

「なに?」

目を真ん丸にしてアホ面になっているであろう私の様子に立花さんが首を傾げる。

「いえ、立花さんがそんなことを言うとは思わなかったので……」
「俺も普通の男ってことだよ。好きな子とは触れ合いたいし、イチャイチャだってしたいよ」

真顔で言われ、私は赤面してしまう。

「梨音ちゃんはホントに可愛いね。これ以上、困らせたら嫌われそうだから仕事に戻るよ」

クスッと笑って私から離れた。
どこまでも甘い立花さんにクラクラしっぱなしだ。

「そうだ、今日も遅くなるから残念だけど晩飯を一緒に食べれないんだ」

立花さんは落胆したように小さくため息を吐く。
ホントに最近、忙しそうなんだよな。

「あの、無理しないでくださいね」
「ありがとう。こうして梨音ちゃんと話をしているだけで癒されるよ。俺としてはイチャイチャした方がもっと癒されるけどね」

いたずらっ子のような顔をして言う。
言葉ではそんなことを言っているけど、本当に疲れているように見えた。
私は無意識のうちに目の前の立花さんの身体にギュッと抱きついた。

「どうしたの?」

私の突然の行動に驚きの声を出す。

「少しでも癒されるかなと思って」
「あー、もう!可愛い事ばかりしないでよ。押し倒したくなるから」

立花さんは私の身体を強く抱きしめた。

「社内恋愛の醍醐味とは言ったけど、さすがにここでキスは出来ないよな」

我慢するか、なんて呟く声が耳に届いた。
冷静に考えると、私から抱きつくとかとんでもないことをしている気がする。
ハッとして立花さんの胸を押し、距離を取ろうとした。

「もう離れるの?俺的にはあと少しこのままでもよかったけど」
「いえ、そういう訳には……」

誰も見ていないかキョロキョロと周りを見回した。
私の様子を見て、立花さんはクスッと笑う。

「心配しなくても誰も見てないから大丈夫だよ。今度こそ、仕事に戻るよ」

じゃあ、と私の頭を優しく撫でて休憩スペースを後にした。

私は安堵のため息をつき、自動販売機で購入した紅茶を手に椅子に座る。
よくあんな大胆なことが出来たよな、とさっきの自分の行動を思い出してひとり赤面する。

立花さんが目の前にいると、いろいろと流されてしまいそうになるので、会社では気を引き締めなきゃ。
ペットボトルの蓋を開け、紅茶を一口飲んでいたら休憩スペースに人が入ってきた。

あれは、秘書課の亀井祐介さんだ。
黒髪のオールバックに黒縁眼鏡、いつも冷静沈着で怖いイメージがある。
不意に目が合い、慌てて会釈した。
亀井さんは小さく頭を下げ、すぐに目を逸らすと自動販売機に視線を向けた。

休憩スペースに亀井さんと二人。
特に会話する訳ではないけど、居心地が悪くなったのでさっさと仕事に戻ろう。
私は椅子から立ち上がると飲みかけの紅茶のペットボトルを持ち、その場を離れた。
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