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社内恋愛の醍醐味?
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「準備が出来たので私は失礼します」
「ありがとう。助かったよ」
高柳課長は自分が座る席に置いてあった資料を手に取るとパラパラと捲り目を通す。
私はお辞儀し、会議室を出ようとしたら再び立花さんと目が合った。
『弁当、美味しかった』と口パクで言われ、カァと顔が赤くなる。
反射的に高柳課長を見ると、まだ資料に視線を落としていた。
胸を撫で下ろし、会議室のドアを開けた。
背後で立花さんがフッと笑う気配がし、小さな声で呟いた。
「ホント可愛い」
「ん?何か言ったか?」
高柳課長が聞いてきて、立花さんは「いや」と首を左右に振っていた。
「高柳、忘れ物したから取りに行ってくる」
「分かった」
私が会議室のドアを閉める直前、そんな会話が聞こえた気がした。
さっき閉めたはずのドアが開き、立花さんが出てきた。
「ぼーっと立てっていたら邪魔になるよ」
驚いて動けずにいた私の肩をポン、と叩く。
ハッとして周りを見ると、会議室に入ろうとしていた人がいるのに気づく。
「あっ、すみません」
その人に謝罪し、慌ててドアの前から離れる。
「大丈夫ですよ。それより、立花課長は入られないんですか?」
「ちょっと忘れ物をしたんだ。小松は先に入って資料に目を通しといて」
「分かりました」
小松と呼ばれた人は小さく頭を下げて会議室の中へ入っていった。
企画部のフロアへ戻ろうとしたら、私を呼び止める声が耳に届いた。
「ちょっといい?」
「へ?」
いきなり立花さんに話しかけられて声が裏返る。
手招きされてあとを追えば、立花さんは休憩スペースへ入っていく。
そこは誰もいなくて二人きりの空間になる。
「あの、何か?」
「少し充電させて」
そう言って身体を抱き寄せられ、一気に体温が上昇する。
会社で抱き締められるとは思わず心臓がバクバクとうるさい音を立てる。
しかも、誰が来てもおかしくないような休憩スペースでこんなこと!と違う意味でもドキドキする。
「忘れ物をしたんじゃ……」
「あれは口実。梨音ちゃんと触れあうために」
震える声で問いただせば、思いもよらない答えが返ってきて絶句した。
「最近、残業続きでまともに晩ご飯も食べれてないし、何より梨音ちゃん不足」
私の存在を確かめるように、首元に顔を埋める。
首に吐息がかかり、身体がゾクリと震えた。
遊園地デートのあとぐらいから忙しそうにしていたので体調とか大丈夫なのか気になっていた。
立花さんが残業続きだから、ちゃんと付き合いだして私の部屋で晩御飯を食べる機会も数えるぐらいだ。
お弁当だって久しぶりに作ったぐらいだし。
いやいや、そんなことより誰かにこんな場面を見られたら大変だ。
どうにかこの腕の中から脱げ出そうと試みていると、クスッと笑う声がした。
「社内の誰かがいつ来てもおかしくないところでこんなことしてるなんて悪いことをしている気分だな」
言葉とは裏腹に楽しそうに言う。
「だったら早く離れてくださいっ!」
小声で抗議する。
こっちはヒヤヒヤハラハラドキドキのコンボなのに!
「えー、もうちょっと満喫させてよ。こういうのって社内恋愛の醍醐味じゃない?秘密の逢瀬って感じで」
「冗談はやめてください!私は心臓に悪いです。誰かに見られたら……」
再び、声を潜める。
醍醐味とか意味が分からない。
人の目が気になるから早く解放して欲しくて懇願するように見上げた。
「ありがとう。助かったよ」
高柳課長は自分が座る席に置いてあった資料を手に取るとパラパラと捲り目を通す。
私はお辞儀し、会議室を出ようとしたら再び立花さんと目が合った。
『弁当、美味しかった』と口パクで言われ、カァと顔が赤くなる。
反射的に高柳課長を見ると、まだ資料に視線を落としていた。
胸を撫で下ろし、会議室のドアを開けた。
背後で立花さんがフッと笑う気配がし、小さな声で呟いた。
「ホント可愛い」
「ん?何か言ったか?」
高柳課長が聞いてきて、立花さんは「いや」と首を左右に振っていた。
「高柳、忘れ物したから取りに行ってくる」
「分かった」
私が会議室のドアを閉める直前、そんな会話が聞こえた気がした。
さっき閉めたはずのドアが開き、立花さんが出てきた。
「ぼーっと立てっていたら邪魔になるよ」
驚いて動けずにいた私の肩をポン、と叩く。
ハッとして周りを見ると、会議室に入ろうとしていた人がいるのに気づく。
「あっ、すみません」
その人に謝罪し、慌ててドアの前から離れる。
「大丈夫ですよ。それより、立花課長は入られないんですか?」
「ちょっと忘れ物をしたんだ。小松は先に入って資料に目を通しといて」
「分かりました」
小松と呼ばれた人は小さく頭を下げて会議室の中へ入っていった。
企画部のフロアへ戻ろうとしたら、私を呼び止める声が耳に届いた。
「ちょっといい?」
「へ?」
いきなり立花さんに話しかけられて声が裏返る。
手招きされてあとを追えば、立花さんは休憩スペースへ入っていく。
そこは誰もいなくて二人きりの空間になる。
「あの、何か?」
「少し充電させて」
そう言って身体を抱き寄せられ、一気に体温が上昇する。
会社で抱き締められるとは思わず心臓がバクバクとうるさい音を立てる。
しかも、誰が来てもおかしくないような休憩スペースでこんなこと!と違う意味でもドキドキする。
「忘れ物をしたんじゃ……」
「あれは口実。梨音ちゃんと触れあうために」
震える声で問いただせば、思いもよらない答えが返ってきて絶句した。
「最近、残業続きでまともに晩ご飯も食べれてないし、何より梨音ちゃん不足」
私の存在を確かめるように、首元に顔を埋める。
首に吐息がかかり、身体がゾクリと震えた。
遊園地デートのあとぐらいから忙しそうにしていたので体調とか大丈夫なのか気になっていた。
立花さんが残業続きだから、ちゃんと付き合いだして私の部屋で晩御飯を食べる機会も数えるぐらいだ。
お弁当だって久しぶりに作ったぐらいだし。
いやいや、そんなことより誰かにこんな場面を見られたら大変だ。
どうにかこの腕の中から脱げ出そうと試みていると、クスッと笑う声がした。
「社内の誰かがいつ来てもおかしくないところでこんなことしてるなんて悪いことをしている気分だな」
言葉とは裏腹に楽しそうに言う。
「だったら早く離れてくださいっ!」
小声で抗議する。
こっちはヒヤヒヤハラハラドキドキのコンボなのに!
「えー、もうちょっと満喫させてよ。こういうのって社内恋愛の醍醐味じゃない?秘密の逢瀬って感じで」
「冗談はやめてください!私は心臓に悪いです。誰かに見られたら……」
再び、声を潜める。
醍醐味とか意味が分からない。
人の目が気になるから早く解放して欲しくて懇願するように見上げた。
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