次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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過去を乗り越えて

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「昴くん、謝らないでよ。あの時は確かにショックだったし落ち込んだよ。お兄ちゃんなんて鬼畜過ぎてムカついてたけどね。でも五年も前のことだし、もう大丈夫だから」

明るく笑いながら言えば、昴くんは小さく息をはいた。
私もフラれたのがトラウマだったように、昴くんも後味の悪い振り方をしてしまったと思っていたんだろうな。
こうしてまた昴くんと話すことが出来たのは舞のお陰だ。
私と昴くんのわだかまりを解くきっかけになってくれたんだもん。

「ほら、舞もそんな顔しないでよ。せっかくの美人が台無しでしょ。いつまでもしょげてたら舞の学生時代の武勇伝、昴くんに話すよ」
「え、それだけは止めて」

すかさず阻止した舞の顔が真顔過ぎて笑ってしまう。
それとは反対に昴くんは身を乗り出すように興味津々で聞いてくる。

「何、武勇伝て」
「それはね……」
「梨音!」
「はいはい、分かってるって。舞はこう見えて男前なところもあるって話だよ」

学生時代、痴漢を撃退したことがあるというだけ。
別に話してもいいのに。

「どういうことだ?」
「ふふ、私だけが知っている舞の秘密だよ。これは昴くんでも教えれないなぁ」
「何だよ、それ」

不服そうに眉根を寄せる昴くんを見て、私はまた笑った。

「それじゃあ、先に帰るね」
「送ろうか?」

そんなことを言う昴くんに私は笑顔で答えた。

「大丈夫。昴くん、舞のことよろしくお願いします」
「ああ、任せとけ」
「ふふ。舞、またね」

舞と昴くんと別れ、駅に向かい電車に乗った。
最後は笑顔で話すことができたし、またみんなで食事にでも行こうという話まで出た。

ふふ、あの二人が付き合ってるなんて……思わず笑みがこぼれる。
大切な親友と昔好きだった人。
不思議な縁だ。
心から二人の事を祝福できるのは、私のトラウマが癒えている証拠だと思う。
今回、昴くんと話が出来てよかった。

最寄り駅に着き、電車を降りる。
ホロ酔い気分で街灯に照らされた道を歩いていたら、マンションの前に男性が一人立っていた。
誰か待っているみたいだけど……ってどうして?
男性の姿を見た瞬間、立ち止まった。
でも、私の身体は吸い寄せられるように再び歩き出す。
徐々に近くなる距離、私に気付いたその人は少し表情を緩めた。

「おかえり、河野さん」
「立花さん……まだ海外にいるはずじゃ」

ホワイトボードには来週までとなっていた。
久しぶりに立花さんを見て胸が高鳴ってしまう自分がいる。

「向こうでの仕事が早く終わったんだ」

あの医務室での出来事を忘れた訳じゃない。
私から偽装恋愛解消を言い出した手前、どういう表情で立花さんと接すればいいのか分からない。

「あの、どうして……」
「君に話があったから待ってたんだ」

立花さんの言葉に私は息をのんだ。
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