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過去を乗り越えて

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「梨音、ホントにごめんね」
「だーかーらー、どうして舞が謝るの?舞は何も悪いことなんてしてないでしょ。今度謝ったらデコピンするよ」

舞の為にも昴くんに会ってちゃんと話をしようと思っていたら、ドアベルがカランと鳴った。

「こんばんは」

振り返ると、少し息を乱した昴くんがバーの中に入ってきた。
五年ぶり、か。
あの時より大人の魅力が増した気がする。

「槙田くん、いらっしゃい」
「朔斗さん、連絡ありがとうございました」
「どういたしまして。で、今日は何を飲む?」
「ウーロン茶で」
「了解」

昴くんは真っ直ぐに歩いてきて、私の隣りの席に座った。

「梨音、久しぶり」
「あ、うん。久しぶり」

あまりにも久々過ぎてぎこちなくなってしまう。
昴くんも何かを言いかけては口を閉ざしての繰り返し。
どう話を切り出そうか迷っているみたいだ。
私の左隣に座っている舞も心配そうな視線を向けてきている。

こういうのは得意ではないけど、私が口火を切るしかないよね。

「昴くん、舞と付き合っているんだってね」
「あ……、うん。梨音、あの時は本当にごめん」

私の問いかけを軽く流し、いきなり謝罪してきた。

「どうして昴くんが謝るの?私はハッキリ振ってくれてよかったと思ってるから」
「いや、俺はあの時、梨音に嘘をついていたんだ」
「嘘?」

いったい何のことか分からず首を傾げる。

「響也が俺に彼女がいるって言っただろ。あれは嘘なんだ」
「えっ?」

予想もしてなかった答えに絶句した。
昴くんに彼女がいたのは嘘だったの?

「梨音が俺を慕ってくれるのは嬉しかった。だけど、梨音のことは昔から知っていたし、ずっと妹みたいに思っていたから気持ちに答えることは出来なかった」

昴くんはウーロン茶をひと口飲む。

「月日が経てば俺への気持ちも薄らぐかなと思っていたけど、梨音はいつまで経っても俺のことを想い続けてくれていて……。響也に言われたんだ。『お前の答えは曖昧過ぎて梨音に期待を持たせている』と。全くそんなつもりはなかったんだけど、結果的に響也の言う通りだった。それであの時、響也は俺に彼女がいると言ったからその嘘に乗っかったんだ」

申し訳なさそうに頭を下げる。

「梨音ごめんな。あの日から梨音と会うことはなくなって、俺はずっと後悔していた。ショウにも嘘をつくんじゃなくて、本当の事を話すべきじゃなかったのかと諭された。真剣な気持ちは曖昧に誤魔化すんじゃなく、真剣に答えてあげないと相手にも失礼だと。確かにその通りだった。俺が最後に見た梨音は必死に涙を堪えている顔で……」

昴くんは言葉に詰まり、唇を噛んでいた。
私も昴くんの言葉を聞いて泣きそうになった。
でも、本当の気持ちが聞けてよかった。

お兄ちゃんもあんなキツイ言い方をしたのは、私の為だったのかなと今になって思う。
鬼なのは変わらないけど。
反対側の舞も俯いたままで、膝に置いた手はギュッと拳を握っていた。
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