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過去を乗り越えて
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しおりを挟む今考えると酸っぱい思い出だな。
しかも、お兄ちゃんが鬼過ぎて身震いしてしまう。
それより、舞のことが気になった。
私と昴くんのことを知っていて謝罪するということは、なにが誤解しているかもしれない。
「ねぇ、もしかして私がまだ昴くんのことが好きとか思ってる?」
舞は視線をさ迷わせる。
やっぱり思った通りだ。
これは誤解を解いておかないといけない。
「あのね、私が告白したのは五年も前の話だよ。さすがにもう吹っ切れてるって」
「ホントに?」
「うん。ホントだって!」
笑顔で言えば、舞はホッとした表情を浮かべた。
それから舞は簡単に付き合うまでと私と昴くんの関係を知った経緯を話してくれた。
二週間前、二人で食事に行った時に昴くんから告白されて付き合うようになった。
話の流れで自分たちの友達の話になり、舞が私の話をした時に昴くんは名前を聞いて何かを感じ取ったらしい。
昴くんに"梨音”という名前に聞き覚えがあり、まさかと思って舞にフルネームを確認してきた。
それで友達が"河野梨音"と知り、昴くんは包み隠さずに話してくれた、と。
過去にあった出来事を聞いてしまい、舞はずっと悩んでいたんだろう。
って、そりゃそうか。
親友を振った人が自分の彼氏になるなんて、こんな偶然は滅多にないと思う。
「舞、話してくれてありがとね。さっきも言ったけど私は昴くんのことはなんとも思ってないし、気にもしてないから。それより好きな人と付き合えてよかったね」
私は舞を心から祝福した。
「梨音、その槙田くんのことだけど会ってみないか?」
ずっと黙っていた朔ちゃんが口を開く。
突然のことに驚いて声が裏返った。
「えっ?」
「槙田くんと響也が梨音のことを聞いてきたって前に話しただろ」
そういえば言っていたような気がする。
「槙田くんはどうしても梨音に謝りたいと言っていたんだ。それに梨音と槙田くんが気まずいままだと、舞ちゃんだって気にしてしまうだろ」
確かに、私が一方的に謝って逃げたので後味が悪い。
それに昴くんに会わせる顔がないと思っていた。
だけど、朔ちゃんの言う通り、このまま昴くんに会わないと舞だって心の中でモヤモヤする可能性がある。
これはいい機会かもしれない。
「分かった。昴くんに会うよ」
「そうか。じゃ、連絡するな」
「は?連絡ってそんなすぐに予定なんて空いてないでしょ」
「それが空いてるんだよ。槙田くん、舞ちゃんのことが心配で近くの店で時間をつぶしてるから」
唖然として隣に座っている舞を見る。
「ごめんね。実は前に槙田さんにこのバーに連れてきてもらったことがあって。その時に槙田さんがオーナーさんに梨音のことを聞いてたから……」
舞は申し訳なさそうに眉を下げる。
「で、俺も何か手助けできないかなと思ってね」
朔ちゃんはスマホ片手にウィンクする。
「あー、そういうことね」
朔ちゃんの用意周到ぶりにはお手上げだ。
流石としか言いようがない。
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