次期社長と訳アリ偽装恋愛

松本ユミ

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気づきたくなかった気持ち

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「俺は梨音の彼氏だけど、君は?」

私の肩を抱いたまま挑戦的な視線を向けて発言をする。
立花さんを見上げると私の視線に気付いたのかフッと微笑んだ。

「彼氏?」

能勢さんが驚きの声を上げ、私と立花さんを交互に見る。

「あ、やっぱり君が誰かは別に答えなくてもいいよ。俺には関係ないから」

そう言うと立花さんは見せつけるように、私の耳元へ唇を寄せて囁いた。

「彼氏の俺に内緒で梨音は何をしているんだ?」
「そ、それは……」

心臓がドキッと跳ね、顔が真っ赤に染まる。

「そういうことだから、梨音の連絡先も教えないし送りは結構だ。行こう、梨音」

この状況はいったい何?
私は突然のことに驚きながらも必死に足を動かした。
居酒屋から少し離れた場所まで来たところで立花さんは足を止めた。

「河野さん、大丈夫?」
「だ、大丈夫です。さっきはありがとうございました」

まだお礼を言っていなかったことに気付く。
あんな場面で助けてもらえるとは思わなかった。
ピンチに颯爽と助けに来るヒーローみたいだった。

「偶然、居酒屋で君を見かけて困っている雰囲気だったから声をかけたんだ。というか、あれはナンパ?」
「いえ、友達に急に呼ばれて行ってみたら合コンで……」

口ごもると立花さんは険しい表情になる。
やっぱり立花さんに話をしておけばよかったと後悔していたら、背後から鋭い声が聞こえた。

「おい、お前さあ彼氏持ちのくせにウブそうな顔して合コンなんかに来るなよ。バカにすんなっての。あんたも騙されてるんじゃないのか?その尻軽女に。まぁ、俺には関係ないけど」

能勢さんは私に文句を言いたかったのか、追いかけてきて悪態をつくとそのまま雑踏の中に消えて行った。
尻軽女、まさかの暴言に絶句した。
それと同時に能勢さんの態度の豹変にゾッとした。
どうしてあんなことを言われないといけないんだろう。
さすがに傷つく。
私だって行きたくて言ったわけじゃなかったのに。
悔しくて泣きそうになり、キュッと唇を噛んだ。

「完全に負け犬の遠吠えだな。たちの悪いやつがいるもんだ。河野さん、あんなやつの言うことは気にしなくていいよ」

立花さんは呆れたように呟くと、真剣な表情で私を見つめた。

「俺は河野さんの彼氏だから、彼女が合コンとか行くのは嫌だし心配でたまらない」

サラリと言われた言葉にドキッとした。

「家まで送ってあげたいんだけど、まだ居酒屋に荷物を置きっぱなしなんだ。あっ、今から取りに戻るから一緒に帰る?」
「いえ、そんなことまでしていただかなくても大丈夫です。ご迷惑をおかけしてすみません」

立花さんも居酒屋で誰かと一緒にいたんだ。
それを中断して私を連れ出してくれたんだからこれ以上、迷惑をかけれない。

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